マウスの母乳中の抗体 子の脳にも届くことを実証 群馬大など
マウスの母乳中に含まれる抗体は子の脳にも届き、脳の発達や社会性に影響を与えている可能性があることを群馬大学などの研究グループが発表した。抗体が脳に入らないようにした遺伝子改変マウスでは、脳内の特定の神経細胞などが通常のマウスより少ないほか、ペアのマウスと長い接触行動を示すことが分かった。母乳中の抗体が脳に果たす役割を詳細に解明するために今後、ヒトを対象にした研究を続けたいとしている。
通常、ヒトもマウスも、母乳中の抗体は「FcRnタンパク質」の働きによって胎盤や小腸の上皮細胞を通じて子に渡り、血中で免疫力を高めるとされる。群馬大学大学院医学系研究科附属教育研究支援センターの定方哲史准教授(神経科学)らの研究グループは、抗体の血液への影響については数多くの研究があるが、脳への影響に関する研究はなかったため調べることにした。
その結果、通常のマウスでは脳の「ミクログリア」という細胞に抗体が結合し、Ⅰ型インターフェロンを分泌することが分かった。ミクログリアは異物の除去や栄養因子の分泌などを行い、Ⅰ型インターフェロンは抗ウイルス性を持つタンパク質で、神経細胞の生存に関わることが報告されている。
次に、FcRnタンパク質の働きをなくし、母乳中の抗体の影響を受けない遺伝子改変マウスを作り、通常のマウスの脳細胞と比較した。その結果、改変マウスでは脳内のミクログリア細胞、神経の信号の伝達をサポートする「オリゴデンドロサイト細胞」、シナプスなどが全て少なかった。これにより異物の除去といった体を整える機能や神経伝達機能に違いが出る可能性がある。
さらに、社会的な行動に関わる特定の神経細胞である「パルブアルブミン陽性ニューロン」も減少していた。遺伝子改変マウスのペアと通常のマウスのペアをそれぞれ小箱に入れ、互いの接触時間をカメラでモニタリング解析したところ、改変マウスペアのほうが接触している時間が長いという違いが生じた。接触時間が長いと「社交的」といえるのか、逆に「他者依存の傾向」がみられるのか。定方准教授は「社会性が上昇していると解釈することもできるが、自閉症のような一部の精神疾患モデルマウスでも同様の変化が見られる。この違いの意味についてはヒトで研究を行うことで解明できるのではないか」としている。