「失敗したら終わり」...反戦派ジャーナリストが恐ろしいロシア政府から「極秘逃亡」 まず発信器を外せ!
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第46回 『「北朝鮮へ逃げようかしら」...反戦派ジャーナリストがロシアから逃亡する「極秘計画」の驚くべき詳細』より続く
「社会から隔離すべきはわたしではなくプーチンです」
ついに運命の日が来た。金曜の夜、逃亡にはうってつけだった。一週間の仕事が終わる。治安機関の人びとは郊外のダーチャ(別荘)でウオッカとシャシリク(串焼き)3昧だ。今度ばかりは、ロシアの治安機関も司法機関も規律が緩んでいてよかったと思った。休日には間違いなく、誰もわたしを捜しに来ないだろう。捜査官が出勤してくるのは月曜日で、わたしが逃げたという報告を受けて、あわてて全国に指名手配をかけるだろう。少なくとも2日の猶予がある。 ソファーにすわってビデオメッセージを録画した。 「連邦刑執行庁の皆さん、この発信機をプーチンの足首に装着してやってください。社会から隔離すべきはわたしではなくプーチンです。ウクライナ民族の大量虐殺とロシア人男性を大量に殺害していることに対して、プーチンは法の裁きを受けるべきです」 もし万事がうまくいったら、国外からこのメッセージをSNSにアップしようと思った。 時計は22時30分だった。わたしたちはスーツケースを抱えて外に出た。しかしこの時、木戸が開いて庭に母が入ってきた。母は連邦刑執行庁の係官たちよりよほどしっかりとわたしたちを監視していた。 「こんな遅い時間なのに、家のそばに変なクルマが停まってるよ」何か良からぬ匂いを嗅ぎとって母は言った。 とっさに、弁護士のところから書類を届けにきた、というありもしない話を考えついた。娘とクリスティーナはスーツケースを素早く風呂場に隠した。クリスティーナはドライバーに、家から離れて角を曲がったところで待つようにメッセージを送った。 「今じゃおまえも刑事犯だね」 母は電子発信機のついたわたしの足をまじまじと眺めた。 「おまえが何をやったところで、プーチンはどっちみちウクライナのナチストたちをまとめて殲滅するさ」 「お母さん、国営メディアの言い分が変わって、ウクライナ人とアメリカ人は世界でいちばんいい人たちだ、って言い始めたら、母さんの考えも変わるかしら?」 わたしはまた母を正気に戻そうとした。 けれども母は耳を貸さなかった。大きな音を立ててドアを閉め、行ってしまった。
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