石破新内閣は「令和のブラックマンデー」に何を学ぶか?
令和のブラックマンデーのアンカーとなったアメリカ
藤吉:具体的にはどういうことを発信すべきだったんですか。 阿部:「暴落はしたけど、大したことない」ということじゃないですか。市場というのは国の財政金融における最重要のパーツですから、そこが機能するかどうかを僕は今回、見ていたんですが、機能しなかったですね。 それで僕が懸念していたのは、実はアメリカの反応だったんです。 藤吉:それは日本の暴落がアメリカに波及するかもしれないということですか。 阿部:パニックが増幅していく可能性はあったと思います。けれど今回、アメリカは冷静でしたね。日本のブラックマンデーの翌日、アメリカ市場は2、3%しか下がらなかった。アメリカの市場は恐怖が恐怖を増幅するような“パニック売り”の状況ではないと判断したんですね。そういう意味では今回、アメリカ株がグローバルなアンカー(錨)の役割を果たしたといえます。 藤吉:それはやっぱりアメリカでは市場が最上位にあって、その市場がリーズナブルに判断したということですか。 阿部:そう言っていいと思います。 ただ前回(https://forbesjapan.com/articles/detail/73306)も話した通り、アメリカはアメリカで「市場至上主義」が行き過ぎた結果、歴史上なかったような富の偏在が起きているわけです。アダム・スミスは、市場は「神の見えざる手」によって合理的に価格を形成すると言っています。ただ、その前提として、他者への「共感」を共有する賢者が利益を独占する欲に支配された弱者を抑止すべきであると言っています。 例えば、イーロン・マスク氏のような人物がトランプ氏のアドバイザーとして政治的に力を持つことで、市場への影響力が歪に巨大化するような流れには、私は違和感を覚えます。 ただ、これも前回の話と重なるんですが、これから先、アメリカはちょっと厳しくなると個人的には思っています。「富の偏在」が行き着くところまで行って、ごく一部の人たちが莫大な富を独占していることに中間所得層以下の不満がものすごく溜まっている。だから大統領選の争点も、いかに中間所得層に所得の分配を還元するか、そして失業率がじわじわ上がっている中で、いかに雇用を創出するかという点に絞られていますよね。 ■日本を代表する大企業も「買われる」可能性 阿部:米中関係にしても政治の話だと思われていますが、実態は経済の話じゃないですか。中国の製品に高い関税をかけてアメリカに入ってくるのを規制して、アメリカの製造業を守って雇用を作ろうということですから。 その2つの超大国の間で、日本はどうするんだ、ということを問われることになる。 藤吉:昔、政治の問題が起きるとよくメディアで「日本は経済一流、政治は二流」ということが言われていたんですが、どうも本質的な表現じゃないなと思っていました。そもそも政治と経済を分離して論じることに意味があるのか。今日、阿部さんのお話をうかがって、そのへんのモヤモヤがすっきりした気がします。 阿部:実は僕の危機意識では、今回のような暴落があったとき、欧米の連中の中には逆に買っているヤツがいるだろうな、ということなんです。日本の株価もだいぶ回復してきましたが、海外から見ればまだ割安なんですよ。だから日本を代表する大企業であっても、今回のようなことがあれば、本当に買われてしまうということが起こり得ると思う。欧米に資本を持たれしまうと、日本でいくら一生懸命稼いでも、経営の付加価値は海外に流出してしまうことになります。 そうならないためには市場がちゃんと機能していることが大事だし、国としては金融政策を通じて企業の生産性向上に資する流れを作ることが重要になってくる。これからの日本のリーダーは、市場に対して国の権威を行使できるほぼ唯一の方法である「金融・財政政策」の重要性を今一度、認識すべきだと思います。
Forbes JAPAN 編集部