岡田武史、勝負の3年間へ。前例なき学校作りのカギは「真の探究」【インタビュー後編】
覚悟を決め、勝負の3年間へ
学校設立の発表以来、教育業界や各種メディアで話題になることも多かったFC今治高校。数回にわたって行われた学校説明会にも、毎回、多くの保護者や生徒が参加しました。 しかし、今年行われた1期生の入学試験での合格者は定員割れ(※2024年2月・一次募集終了時点)。岡田氏は「正直、ショックだった」と振り返ります。 「事前に大きな反響があったぶん、思いのほか受験者数が少なく驚きました。でも、よくよく考えると、開校の発表から10か月ほどしか期間がありませんでしたし、『理念はわかるけど、まだ卒業生が出ていないし……』と様子見する保護者の気持ちもよくわかります。 吉田松陰が松下村塾を立ち上げた時も、志ある者よ集えと呼びかけたところ、最初は数人しか集まらなかったそうです。実際、入学が決まっている1期生には、何かに挑戦したいという意欲あふれる生徒、キラリと光る個性を持つ生徒が集まっています。 FC今治高校の取り組みには懐疑的な声もあります。でも、教育の慣習を破ろうとしているのだから、それくらいの覚悟はできています。勝負はここから。どういう教育をするのか、世間から良くも悪くも注目されているこれからの3年間が、肝だと思っています」
本当の責任は誰にも取れない。だからこそ全力でやるしかない
では、3年間をFC今治高校で過ごした生徒の「その後」については、どのようなビジョンを描いているのでしょうか。「理想」と「現実的な予想」があると前置きしたうえで、岡田氏はこう語ります。 「3年間で自分が熱中できることを見つけて、起業、海外留学、大学進学……と自分で自分の道を切り開いていく、というのが理想です。もちろんそうあってほしいのですが、実際には生徒の多くが国内の大学に進学するのではないかと予想しています。 というのも、昨今は、学力に加えて生徒の主体性や学びへの意欲、人間性などを総合的に評価する総合型選抜を行う大学・学部が増えており、FC今治高校での学びはまさにこれにフィットするからです。私たちのほうから大学進学をすすめることはせずとも、自ら志望する生徒は多いのではないかと思っています」 最後に、4月の開校を前に意気込みをお聞きすると、「もうやるしかない。やるからには全力でやる」という力強い言葉が返ってきました。堂々と語る姿は、あのジョホールバルでの戦いの前夜を彷彿(ほうふつ)とさせます。 「なんせ教育に関しては素人ですから、本当にこれでいいのだろうかという葛藤は常にありました。でも同時に、このままじゃダメだという確信もあったんですよね。じゃあどうしたらいいか。僕自身もエラー&ラーンをしようと思ったんです。FC今治高校は、子どもだけじゃなく大人も、エラー&ラーンで行こうよと。大人の言うことが常に正しいなんて、そんなことはありませんよね。もし失敗しても、本当の意味での責任なんて誰にも取れません。それならば、全力でやるしかない。そう吹っ切れた時に、葛藤を乗り越えられました」 教育業界のみならず、社会から広く注目を集めるFC今治高校。思い切った挑戦により日本の教育に一石を投じることになるのか、その新しい歴史が、いよいよ4月に幕を開けます。 ベネッセ教育情報「教育用語解説」では、本記事でご紹介した「探究学習」について詳しく解説しております。併せてご覧ください。
プロフィール 岡田武史 1956年大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、古河電気工業サッカー部(現ジェフユナイテッド市原・千葉) に入団し、日本代表に選出。1990年に現役引退後、日本代表コーチなどを経て、1997年に日本代表監督に就任。W杯 フランス大会に出場。2007年に2度目の日本代表監督に就任し、W杯南アフリカ大会ではベスト16に導いた。2014 年、FC今治のオーナーに就任。2019年には日本サッカー殿堂入りを果たした。2024年4月開校のFC今治高等学校学園長に就任。