「腸内環境」が変わると「不安行動が増える」……にわかには信じがたい「驚愕の実験結果」を紹介する
行動変化を見る実験
しかし、無菌マウスに、有用性も病原性もない中立的な特定の細菌だけを定着させても、ストレスに対する反応性を抑制することはありませんでした。 これらの結果から、無菌マウスのストレスに対する過剰な反応性は、腸内マイクロバイオータ(とくにビフィドバクテリウム属の細菌)によって、腸から脳へ伝達する何らかの情報によって抑制されることが明らかになったのです。 マウスの行動の変化を見るには、マウスにとって新奇で何もない広い空間(オープンフィールドといいます)で、一定期間自由にさせるという実験を行います。 マウスはまず、後ろ足で立ち上がったり歩き回ったりと、自分が置かれた新たな環境について探索を行います。私たちヒトも新しい環境に入ると緊張して落ち着きませんが、マウスも緊張するためこのような行動を取るようになります。 この際マウスは、くまなく歩き回って探索するわけではなく、オープンフィールド装置の中央には行かずに壁に触れながら歩き回ります。そのほか、脱糞や排尿、さらに不安が高い状態では、じっとその場に留まって動かなくなる行動(すくみ行動と呼ばれます)を示すこともあります。 オープンフィールド装置を用いることで、マウスの自発的運動量や活動性だけでなく、マウスの不安や恐怖といった情動面についても評価することができるのです。 オープンフィールド装置に、腸にビフィズス菌を定着させた無菌マウスを入れて観察したところ、歩行距離が増加するだけでなく、オープンフィールド装置の中央部分の探索も行うことから、不安行動が低下していることが明らかになりました(※参考文献2-24)。 また、無菌マウスでは、脳の記憶を司る海馬や情動を司る扁桃体のニューロンの生存や成長に必要不可欠な脳由来神経成長因子の発現が低下していました。 一方、SPFマウスの腸内マイクロバイオータを除去するために抗菌剤を飲ませ、腸内マイクロバイオータの組成を攪乱させると、海馬や扁桃体での脳由来神経成長因子の発現が低下し、不安行動が増えるという異変が見られたのです(※参考文献2-25)。 腸内環境の変化によって行動にまで変化が起こるということが、こうした実験から確かめられてきました。 ※参考文献 2-23 Sudo N et al., Journal of Physiology 558, 263-275, 2004. 2-24 Diaz Heijtz R et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 108, 3047-3052, 2011. 2-25 Bercik P et al., Gastroenterology 141, 599-609, 2011. * * * 初回<なぜ「朝の駅」のトイレは混んでいるのか…「通勤途中」に決まって起こる腹痛の正体>を読む
坪井 貴司(東京大学大学院総合文化研究科教授)