「腸内環境」が変わると「不安行動が増える」……にわかには信じがたい「驚愕の実験結果」を紹介する
「お腹の調子が悪くて気分が落ち込む」という経験がある人は多いのではないだろうか。これは「脳腸相関」と呼ばれるメカニズムによるものだ。腸と脳は情報のやりとりをしてお互いの機能を調整するしくみがあり、いま世界中の研究者が注目する研究対象となっている。 【画像】「日本人はアメリカ人より発症率が高い」…「大腸がん」の「驚くべき事実」 腸内環境が乱れると不眠、うつ、発達障害、認知症、糖尿病、肥満、高血圧、免疫疾患や感染症の重症化……と、全身のあらゆる不調に関わることがわかってきているという。いったいなぜか? 脳腸相関の最新研究を解説した『「腸と脳」の科学』から、その一部を紹介していこう。 *本記事は、『「腸と脳」の科学』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。
腸内環境が変わると不安行動が増える
ストレスによって腸内マイクロバイオータが変化するという研究結果から、今度は、逆に腸から脳へ何らかの情報が伝達されているのではないかと考えられるようになりました。そこから、驚くべきことがわかってきました。 なんと、腸内マイクロバイオータの組成が変化して腸内環境が変わると、行動にも変化が現れるというのです。 体内と体表に微生物(細菌だけでなくウイルスや寄生虫を含む)が存在せず無菌状態で飼育されたマウス(無菌マウス)と、体内と体表に特定の病原体は存在しないけれども腸内マイクロバイオータは存在するマウス(specific pathogen free:「SPFマウス」と呼ばれます)に、狭い空間に一定時間閉じ込めるストレスが与えられました。 すると、無菌マウスでは、ストレスを受けた際に副腎皮質刺激ホルモンや副腎皮質から分泌される糖質コルチコイド(コルチゾール)の分泌量が有意に増加しました。副腎皮質刺激ホルモンやコルチゾールは、私たち健康なヒトにおいても、一時的なストレスに対応するために分泌されます。分泌量が増えることは、ストレスが増大したことを意味します。 そこで無菌マウスの腸に特定のビフィズス菌だけを定着させ、一定時間閉じ込めるストレスを与えたところ、このストレスに対する反応性がSPFマウスと同様のレベルにまで有意に低下しました(※参考文献2-23)。つまり、ストレスに対する抵抗性が高まったのです。腸にビフィズス菌を定着させたことでストレスに強くなった、といい換えることもできます。