台湾の民意は「民主政治の維持」:頼次期総統は蔡英文路線を継承―謝長廷・駐日代表に聞く
川島 真
台湾・民主進歩党の頼清徳氏が5月、蔡英文氏に代わって新たな総統に就任する。新政権の外交姿勢や、中台・日台関係の現状分析などについて、nippon.comの川島真・編集企画委員(東大大学院教授)が謝長廷・台湾駐日代表にインタビューした。
立法と行政の「ねじれ」を学びのチャンスに
川島真 1月の選挙で頼清徳氏が勝利し、3期連続で民進党が政権を握った一方、立法院で第一党の地位を得ることができなかった。有権者がバランスを取る投票をしたとも考えられる。 謝長廷 今回の選挙では、前台北市長の柯文哲氏が率いる民衆党が300万票以上を獲得。民進党に影響を与える存在となった。民進党にとってはやっかいな状況だが、だからこそ慎重に物事を進めるべきだ。さもなければ容易に人々の不満が高まり、政権運営で苦労することになるだろう。 (野党との)争点は内政の分野であり、予算審議などだ。私は、民進党はコミュニケーション力を高めるべきだと思っている。議会で過半数を獲得できず、立法と行政が完全に連携する状況ではなくなった。しかし、これは民主的に成長する段階の、学びのチャンスと捉えるべきだ。このような角度から振り返れば、台湾有権者の賢い選択だったとも受け止められる。 川島 民衆党は若者の支持を得たが、このことは同時に台湾における家族や世代間のギャップが深まっていることも示している。 謝 民進党が政権を担ったこの8年でも、依然として多くの社会問題が残されている。若者の関心が高いのは彼らの賃金であり、物価の動向だ。日本と同様、不動産などは年配の世代が握っている。若者が与党に不満を持つのは当たり前だ。
「現状維持」の真意
川島 次期総統の頼清徳氏は蔡英文総統の政治路線を継承するのか?また、引き続き「移行期正義」(編集部注:台湾においては、長く続いた戒厳令下で国民党政府が反体制派に対して行った政治弾圧に責任を負い、被害者の権利回復を進める一連の政策)を進めるのか。 謝 頼氏は中国を刺激せず現状維持を模索すると言っている。その意味は、蔡英文路線の継承だ。移行期正義についても引き続き進めるだろう。 川島 中国は、総統選での頼氏当選は統一工作の失敗を意味するとみなしていると思うか。それとも、得票率の低さから可もなく不可もなくと考えているだろうか。 謝 頼氏当選は「失敗」と受け止めていると思う。もちろん、報告書には、立法院では民進党が過半数を取れず、統一工作は成功したと記すだろうが……。 川島 中国との統一問題で、台湾人の6割が支持する「現状維持」とはどういうものと考えるか。 謝 私は、台湾人は民主政治が行われている現状の維持を望み、その意味で自らの将来を決定付けられる今の状況を支持していると考えている。今すぐに中国と統一すれば、民主的な現状を維持できないだろう。これは李登輝氏が言っていた「統一するかどうかは、あなた方(中国)が民主化した後に話し合いましょう」ということと合致している。