「ハーヌ民国」「チョンホワ民国」…昔の地図帳の国名、どこだかわかる?
誰もが中学や高校の勉強で使ったことのある地図帳。多くの人は大人になるにつれて、読まなくなるかもしれないが、地図帳を深読みすることは非常にエキサイティングだ。地図帳のおもしろさを地図研究家が紹介する。本稿は、今尾恵介『地図バカ 地図好きの地図好きによる地図好きのための本』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 情報が古い昔の地図帳で 国名や地形の変化を味わう 学校の勉強がそれほど好きでなかった私が、中学校と高校で最も愛用した「教科書」といえば地図帳である。他の教科書はともかく、地図帳だけは帰宅後も擦り切れるほどページを繰って眺めていたので、今も保存してある当時のそれは、製本がほどけていくつものページがバラバラになった状態だ。 書き込みも多く、たとえば中学に入学する前月に開通したばかりでまだ記載されていない山陽新幹線(新大阪~岡山)をボールペンで早速記入しているし、熱心に集めていた5万分の1地形図の各図の掲載範囲をグリッド状に描いた。ローカル私鉄が廃止になれば鉛筆で塗りつぶしながらも、後でなぜか可哀想になって消しゴムで「原状復帰」させるなど、当時のあれこれを思い出す。 学校で使う地図帳を「教科書」と呼ぶのは意外かもしれないが、表紙の上部を見れば一目瞭然だ。たとえば手元の高校地図帳には「文部科学省検定済教科書・高等学校地理歴史科用」と明記されており、その下には教科名の欄に「地図」の文字がある。手間をかけて検定されているので間違いが非常に少なく、しかも中学校までは義務教育なので、大袈裟でなく全国民が一度は手にしている。
ざっと1学年分を100万部と計算すれば、毎年最上位にランクインすべき「超ベストセラー」なのである。大人になっても、ニュースで知った国や都市名などを確認する時に地図帳を取り出す人は少なくないようで、卒業して他の教科書は捨てても地図帳だけは保存しているという話はよく耳にする。 それでも20年、30年と経過すればだいぶ内容が古くなるのは当然で、東西のドイツは統一されるし、ソ連やユーゴスラヴィアは消滅、後者が元あった場所の南端には「北マケドニア」という新国名も出現している。グルジアはまさかの英語読み「ジョージア」に改称され、アフリカのザイールはコンゴ民主共和国と名を変えた。自然の地形も同様で、たとえばカスピ海の東に位置するアラル海は、ソ連時代の灌漑の悪影響で見る影もなく縮小している。 ● 1957年の地図帳に書かれてある 「ハーヌ民国」とはどこの国? 私が戦前の鉄道時刻表の復刻版に熱中していた大学生の頃(1980年前後)だろうか、小泉純一郎元首相と高校の同級生だったという叔母から地図帳を譲り受けた。本稿を書くにあたって探しても見当たらないのは残念だが、昭和32(1957)年頃の版である。当時の日本国内は今はなき多数のローカル線たちで賑わっていたし、世界もまったく「景色」が違うので興奮したものである。