「ハーヌ民国」「チョンホワ民国」…昔の地図帳の国名、どこだかわかる?
アフリカ大陸で多くの国が独立した1960年(アフリカの年)より前なので大半が植民地であった。朝鮮半島も南北がまだ分かれておらず、そこに「ハーヌ民国」とあって度肝を抜かれたものである。朝鮮戦争の休戦からあまり経っていない時期ならではの表記だろう。 ちなみにハーヌは「韓」であるが、隣の「チョンホワ民国」(中華民国)とともに、外国名ならすべてカタカナ表記にしていた時代もあったのかと驚いた。 ● 各地の特産品を知ることもできる 地図帳の情報量の多さ 学校地図帳では最大手の帝国書院は、戦前の昭和9(1934)年版(日本・世界各1冊)と占領下の昭和25(1950)年版、そして高度成長期の昭和48(1973)年版をセットにした地図帳の復刻版を刊行している。 その際には私が解説の一部を担当させてもらったが、その後新たに地図帳の楽しさを語る『地図帳の深読み』という一般書籍を刊行した。その執筆の際にあらためて中学・高校の地図帳を日本と世界の隅々まで眺めたところ、これまで半世紀も見てきたはずなのに知らなかった部分もあり、地図帳の情報量の多さと奥の深さに思い至った次第である。
たとえば川の不思議な流れ方や、その流域と言語の関係性、不思議な線を描く国境線、外国地名のカタカナ表記の変遷などなど、ボーッと眺めていたのでは気づかないあれこれを教えてもらった。 日本各地の特産品をアイコンで紹介するアイデアも秀逸で、これらが特色ある「ご当地名産」を教えてくれる。しかも青森県のリンゴや高知県の和紙のような伝統的なものだけでない。 『新詳高等地図』(平成30年発行)では、たとえば北海道北見市には「スマートフォン」の文字とそのイラストが添えられる。長野県塩尻市には「プリンター」、山梨県忍野村には「ロボット」、滋賀県彦根市「電気カミソリ」、徳島県阿南市「発光ダイオード」、大分県国東市「デジタルカメラ」などなど、それぞれ独自の高い技術をもったメーカーが全国各地でさまざまな製品を生産していることがわかる。 大都市圏に住んでいると、昨今ではアジア各地に多くの工場が移転してしまったと勘違いしそうになるが、優秀な従業員たちが地方経済を懸命に回していてこその日本であることをあらためて教えてくれる。実は大きな役割を持っている地図帳を、生徒諸君が存分に楽しんでくれますように。
今尾恵介