テレビ中継で全国へ漏れた「心の声」 一発退場も「よっしゃ」…GKが放った無意識の一言
バックアップで臨んだ選手権、全国舞台で「全部出し切った」
それでも、練習では手を抜かずに、試合の準備も黙々とやってきた自負はあった。この試合でも、それは変わらず。「試合が始まる前からしっかり準備はしていましたし、何が起きるかわからないのがサッカーだなと改めて感じた」という緒方は、ファーストプレーで相手の決定機を阻止すると、その後も勝ち越しゴールを狙う前橋育英の前に立ちはだかった。 ハーフタイムにロッカールームへ戻ると、「大号泣していた」水野に「俺がやってやる」と伝え、再びピッチ上で何度もチームをビッグセーブで救った。PK戦突入が頭によぎる後半31分に、途中出場のFW中村太一に決勝ゴールを許してしまったが、緒方の鉄壁の守りがなければ、試合はもっと早い時間で決着を見ていただろう。 自身が唯一許したゴールについて「あれはもう相手がうまかった」と脱帽する緒方は、「帝京大可児に入る前から、ずっと選手権でプレーすること、勝つことを目標にしていました。勝つことはできなかったですけど、アクシデントがあったなかで出場することができたことは、本当に誇りです。負けてしまいましたが、全部出し切ったうえですし、やり切りました」と、ミックスゾーンでも爽やかな笑顔を見せた。 「本当にサッカーが大好きなんで、3年間ずっと大好きなサッカーを楽しむっていうのを自分のスローガンじゃないですけど、掲げて3年間やってきました」という緒方は、あと1年、高校サッカーを戦える立場にある後輩のGK水野に、「この悔しい思いを忘れずに、帝京大可児がずっと超えられないベスト16を越えて、目標にしている日本一に導いてくれると思います」と、大きな期待を寄せる。 緒方の高校での最後の試合となった一戦には、「普段は自営業でなかなか試合に来られない両親と、東京に住む従兄弟も見に来てくれた」と言う。彼らにプレーする姿を見せることができたことを喜ぶ17番は、進学する愛知学院大学でもサッカーを続けるという。思わぬ形で得ることになった選手権でピッチに立った約50分間の時間について「自分のなかでの財産になっていくと思います。選手権という舞台をずっと目標にやってきましたし、アクシデントがありながらも出られたことについては、本当に胸を張って今日は帰ろうかなと思っています」と、力強く語った。 3年間の取り組みの成果を選手権のピッチで示せた緒方は、高校サッカーに別れを告げて、次のキャリアに進んでいく。眩しいばかりの笑顔とともに。
河合 拓 / Taku Kawai