「日本よりも価値を理解してくれる」元トヨタ営業マンのだるま職人が、海外に出た理由
欧州での成功に手応え、仲間集めに奔走
2000年初頭。高崎市主催で、チェコのプルゼニ市で文化交流イベントが実施された。同市は、首都プラハの南西に位置する、人口約18万人の地方都市だ。 ゲストとして招待された今井は「少しでも楽しんでもらえれば」と、だるまの絵付け体験を企画。今井が筆でだるまの柄を描くと大きな歓声が上がり、体験コーナーの小さな机の後ろには、10メートルを超える行列ができた。 日本では得られなかった反応を前に、海外進出の構想が浮かんだ。 「ヨーロッパには、歴史や職人についての理解や尊敬があります。日本では『ダサい』『時代遅れ』とされた伝統工芸が、海外では『かっこいい』と言われたんです。価値を正統に評価してくれる市場は海外にあるのではと思い、動きはじめました」 市場はあって、モノもある。だが、手段はなかった。 初期投資がかさむ海外進出には、海外向けマーケティングの基礎知識や販路開拓のマンパワーが必要だ。工房の製作を担う今井が単独でその構想を実現するのは、限界があるように感じた。 協力者を求め、関係者に「だるまの市場をもっと広げたい」と話して回った。 コラボ企画や体験事業を提案されると「魅力を知って欲しい」と、可能な限り無償で技術を提供した。キャラクターグッズやブライダル事業者など固定客とは異なる業界にも営業をかけ、要望に応じた規格を作って対応した。 地道な人脈作りのなかで生まれた「デザイナーズだるま」は、代官山の雑貨店で取り扱われ品切れ続出の大ヒット商品に。業界内で今井の名が知られるようになり、官庁を巻き込んで「一緒に何かしませんか」と言う協力者が集まりはじめた。 「だるまさんは、福をもたらす縁起物。その職人である自分こそが、受け手を幸せにできなければ意味がありません。『こんなもんか』じゃダメなんです。受け手に寄り添い、彼らが感動してくれるような仕事をしようと努めました。そうやって、手を貸してくれる人が増えていったんです」と今井。 2018年。ジェトロ群馬が開設すると同時に、今井のだるまが海外バイヤー向けリストに掲載されることに。10年以上抱いた夢が、本格稼働した瞬間だった。