南相馬市長が会見「原発再稼働は被災地の住民として怒り」
福島県南相馬市の桜井勝延市長が17日、東京の外国特派員協会で会見し、東日本大震災から5年を迎える南相馬市の現状について語った。同市では今、若い世代の流出が大きな課題になっており、その背景に国の放射線教育の不備があると指摘。政府が進める原発の再稼働については、「被災地の住民として怒りを持っている」と批判した。 【中継録画】東日本大震災から5年 南相馬市の桜井市長が会見
国の基準値を下回る所が多い放射線量
桜井市長が外国特派員協会で会見するのは、2011年、2014年に続き、今回が3回目。震災後から間もなく丸5年を迎えようとしているが、桜井市長は、震災前に比べて約8割の人口が南相馬市に戻っている一方、「深刻なのは、転出してしまった子育て世代が9000人を超えていること」などと述べ、若い世代の流出が大きな課題であることを説明した。 その原因については、「南相馬市の現在の放射線量は、国が目標とする0.23μSv/hを下回っているところがかなり多くなっています。それでも若い世代が戻らないのは、放射線教育をまったく行わなかったため、このレベルでもまだ恐怖感を拭えない人が多いのが原因だと考えています」との見方を示したほか、「今現在、内部被曝検査では子供たちの99.86%から放射性物質が検出されていない」と健康管理の徹底ぶりと安全性を強調した。また、今年度中に住宅の除染をほぼ終える予定で、現在は避難指示区域の解除に向けた取り組みを進めているという。 一方で、南相馬市への帰還を躊躇したり、反対する人もいるという。これについて、桜井市長は「多くは放射線不安だけではなく、帰還を早めることで(避難対象区域の住民に対する)賠償額が少なくなるという国の制度設計があるからこそ。避難指示を受けた住民は同じ賠償を受けるのは当然であり、国や東京電力に対して(改善を)強く要望しています」とした。
昨年3月に「脱原発都市宣言」を発表
2015年3月、南相馬市は「脱原発都市宣言」を発表、原発に頼らない街づくりを進めており、2030年までに市内の使用電力をすべて再生可能エネルギーでまかなう方針を掲げる。桜井市長はこの目標について「達成は可能と考えています」と強調した。植物工場や太陽光発電所の設置など、新たな取り組みも紹介した。 桜井市長は、政府が進める原発の再稼働について触れ、「震災後、野田前総理や安倍総理が『福島の復興なくして日本の再興なし』と何度も口にしているが、被災地が復興していないのは事実。昨年、原発が再稼動されたことに対して被災地の住民として怒りを持っています」と批判し、「ドイツのように原発に頼らない宣言をして欲しいと、被災地から考えています」と訴えた。 原発再稼働に関しては、質疑応答でも「現場で政治を預かる者にとって一番大事なのは市民の命なんです。命があってこそ暮らしが成り立つわけですから、命を危うくする施策は推し進めるべきではないというのが私の考え方で、その現場での教訓が生かされていない現実が、原発の再稼働に結びついている」と主張した。 (取材・文:具志堅浩二)