「え?これ雨水で作ったビールなの?」試飲会の参加者が驚いた都会の雨水で作ったビールの意外な「お味」
■「雨友」が集まってプロジェクトに プロジェクトは人だ。「10年間でいちばん苦労したのは仲間集め」だったと乾杯イベントで語った尾崎さん。長らく悶々とした時間を過ごしていたが、笹川さんの知り合いを中心に、2022年頃から「雨友(あめとも)」が集まりはじめ、動きが加速し始める。 2022年5月に東京都文京区のビルのテラスに雨水タンクとろ過装置を設置。屋上からの雨を集め、特殊な膜フィルターでろ過して不純物を取り除く。水道水と同様の水質検査をクリアした。
それから「雨水バー」というイベントを、笹川さんを中心にひと月に1回程度開催。雨水炭酸水と雨氷を使ったハイボール、ウイスキーや焼酎の雨水割、雨湯ハーブティーや雨コーヒーなどを楽しみながら、雨友(雨水ファン)を増やしてきた。 雨水バーで飲みものづくりを担当していた鈴木渉さんは「いろいろな飲みものが雨水でできたが、ビールだけは既製品に頼らざるをえない。そろそろビールがつくれないか」と感じていたという。ちなみに鈴木さんもビール飲みたさから、こう思ったわけではない。鈴木さんも尾崎さん同様、酒がまったく飲めない。
機は熟した。今年3月、ついにクラウドファンディングをスタート。「春の天の水で乾杯! 東京産雨水クラフトビールをつくる」プロジェクトには、85人の支援者から130万5000円が集まった。4月には関係者と支援者でビールの味を選定し、いよいよ集めた雨320Lを醸造所に運びこんだ。 ■糖化のスピードが速かった 今回、醸造を担当したのは能村夏丘さん(株式会社麦酒企画創業者・取締役)。普段は仕込み水に沸かした水道水を使っているが、雨水を初めて飲んだとき、「優しく丸い味わいに感動し、ビールの仕込み水として使える」と思ったそうだ。
実際に仕込んでみると、通常の水道水での仕込みに加え、糖化のスピードが速く、麦の成分を効率よく抽出できることもわかった。これは雨水の硬度の低さと関係しているのだろう。 能村さんは、都会で醸造している限り、原材料(麦芽、ホップ、水、酵母)を地元で入手することはできないと、あきらめていたそうだ。仕込み水となる水道水は、利根川、荒川、多摩川など、関東広域から集まってくる。 だが、雨水を仕込み水にできるなら醸造所の屋根に降った雨をビールに使うことができる。仕込み水の自給自足だって可能性がある。