ステーブルコイン、飛躍の年となるか? 超えるべき大きなハードルとは──河合健弁護士【2024年始特集】
期待されるクロスボーダー決済と大きな課題
──2024年の大きな話題としては、ステーブルコインの登場があります。現状、残されている課題はどういったものでしょうか。 河合:一番難しいのは、外国で発行されているステーブルコインの取り扱いです。簡単に言うと、USDコイン(USDC)を日本で取り扱うには、仲介者、正確には電子決済手段等取引業者、いわゆる電決業者もリザーブ(買取準備金)を用意しなければならないことや、一回100万円の取引上限規制などがあります。結局のところ、ステーブルコインビジネスは、たくさんのステーブルコインがなくても成立します。ドミナントなステーブルコインがかなりのシェアを取るビジネスで、おそらくドル連動型ステーブルコインはもう決着がついています。 クロスボーダーに使えることがステーブルコインの一番の魅力にもかかわらず、事実上、日本で海外発行のドル連動型ステーブルコイン、それがコンプライアントに作られているものであっても取り扱うことは、やり方はあるものの事実上難しく、そこが一番大きな問題だと思います。日本でドル連動型ステーブルコインを発行することも可能ですが、それがドミナントなものになることは難しいでしょう。 ──ステーブルコインは企業間決済での使用が有望視されていますが、クロスボーダー決済への使用が難しいとなるとそれこそ大きな課題です。 河合:円決済が国際決済の主流であれば良いのですが、残念ながらそうではない現状において、ドル連動型ステーブルコインを日本で作ったとしても、相手が受け取ってもらえるものでなければ意味がありません。海外発行ステーブルコインの発行体が破綻したときにも日本のユーザーを守るための規制は、利用者保護として重要なポイントですが、ビジネス上対応できないような過度に重い規制になると、一方で利便性を大きく損なうことも確かです。結局、クロスボーダー送金がスイフト(SWIFT:国際銀行間通信協会)から脱却できない原因になり得るのではないかと思っています。 ──では、どんなところから使われていくと想定していますか。 河合:基本的には暗号資産交換業者が、電子決済手段等取引業の認可も取って、いわば「新しいティッカーが増えます」、つまり暗号資産取引における決済手段から始まるのではないでしょうか。それがどのステーブルコインになるかは、いろいろな可能性があると思います。 円連動型ステーブルコインは、発行の際に受け入れた資金の投資に厳しい制限があり、収益を上げることは難しいという議論もありますが、決済手数料を今のクレジットカードよりも安くする方法も考えられます。海外の取引所が扱ってくれれば、送金にも使えます。 とはいえ、ビジネスとして最も有望なのはクロスボーダー決済だと思います。だからこそ、これまで暗号資産とは距離を置いていた日本の大手金融機関がこの分野を検討しています。ステーブルコインは、ブロックチェーンと大手金融機関が交錯するエリアです。場合によっては、スイフトを不要にする可能性もあるし、国内の銀行間送金もステーブルコインの方が便利、という話もあり得ます。収益がそれほど見込めなくても、皆がそちらにシフトするなら対応しなければならないという話もあると思っています。 ──銀行間送金に使われるためには、どういった課題がありますか。 河合:今回、非常に複雑な法制度になっています。銀行法が規定する電子決済等取扱業者という手段ありますが、これは預金の振替であって、誰もが受け取れるステーブルコインとは違います。取引所で売買されるようなステーブルコインを銀行が発行したり、保有することには事実上、かなり重い制限があります。もちろん数年後に変わる可能性がありますが、今の段階では銀行がステーブルコインを手がけるとすれば、信託業務で行うことになります。いわゆる、信託型ステーブルコインです。信託銀行と名乗っていなくても、信託業務ができる銀行はかなり存在しますので、規制当局もまずはこの仕組みでやって欲しいということだと思います。 今回、改正資金決済法では、ステーブルコインは「電子決済手段」として定義され、定義から電子決済手段に類似しているものを除外しています。例えば、ポイントや電子マネーは除外されています。ステーブルコインと電子マネーはどこが分水嶺か一般的にはわかりにくいと思いますが、移転がKYC(本人確認済み)済みの人の間に限られ、移転のたびに発行体の関与が必要なものは、電子決済手段、つまりステーブルコインの定義から除外されています。そうしたものは電子マネーに当たります。銀行がKYCされていないアカウント、つまり広く誰にでも送れるステーブルコインを発行することは時期尚早という当局の判断があるのだと思います。