「日本は格差社会」は大間違い…多くの日本人が「格差が広がっている」と錯覚している納得の理由
「終わりのない成長を目指し続ける資本主義体制はもう限界ではないか」 そんな思いを世界中の人々が抱えるなか、現実問題として地球温暖化が「資本主義など唯一永続可能な経済体制足りえない」ことを残酷なまでに示している。しかしその一方で、現状を追認するでも諦観を示すでもなく、夢物語でない現実に即したビジョンを示せる論者はいまだに現れない。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では「新自由主義の権化」に経済学を学び、20年以上経済のリアルを追いかけてきた記者が、海外の著名なパイオニアたちと共に資本主義の「教義」を問い直した『世界の賢人と語る「資本主義の先」』(井手壮平著)より抜粋して、「現実的な方策」をお届けする。 『世界の賢人と語る「資本主義の先」』連載第5回 『岸田首相も大誤算…「GDP=国の豊かさ」という前時代の妄想がもたらす深刻すぎる「弊害」 』より続く
格差社会は本当か
「日本は格差社会なのか」――。 まずはこの極めて基本的な問いかけから考えてみたい。格差がまったく存在しない社会というのは存在しないので、一般的に「格差社会」という言葉に込められた意味としては、多くの人が許容できる範囲を超えて貧富の差が激しくなってしまった社会、あるいは不平等の水準よりもこの「なってしまった」の部分に着目し、過去と比較して著しく格差が拡大した社会を指すといっていいだろう。 いずれの場合も、日本だけで「格差が深刻だ」「いや、大したことない」と論争してもしかたがないので、国際的、歴史的な比較が重要な意味を持つ。また、世界にはさまざまな発展段階の国がある中で、天然資源を独裁者とその取り巻きが私物化しているような国と比較して「日本はいかに平等なことか」と安心する人もあまりいないと思われるので、法の支配が確立された他の先進国との比較が最も重要となる。 日本はかつての「一億総中流」だった平等な社会から、厳然たる格差社会になってしまい、しかもその格差は広がり続けているというのが、恐らく多くの人の受け止めだろう。メディアでも多くの政治家の言説でも、日本が格差社会であること、また、その格差がさらに拡大していることは、ほぼ自明の事実として扱われている。 格差拡大の原因としては、中曽根康弘政権(1982~1987)の国鉄や電電公社の民営化や、小泉純一郎政権(2001~2006)の派遣労働対象業種拡大といった新自由主義的経済政策で、意図的に弱肉強食化が進められたとの見方もあれば、誰かが意図をもってもたらしたというよりは、経済全体がグローバル化する中で、日本の労働者も中国をはじめとする低賃金国と競争せざるを得なくなり、必然的に賃金が下のほうに引っ張られていって起きたという見方もある。