「妻を50人にレイプさせた事件」は“住民の人間関係”をも変えてしまった─かつては「サド侯爵」が住んでいた南仏の美しい村で起きた衝撃の事件
他人事では済まされない
南仏にある、丘の上の小さな村マザン。ブドウ畑に囲まれたこの村には、まさにプロヴァンスのポストカードのような風景が広がっている。 【画像】「妻を50人にレイプさせた事件」は“住民の人間関係”をも変えてしまった ここは長年、ツール・ド・フランスでも使われる近くのサイクリングルートと、18世紀の悪名高き小説家、マルキ・ド・サドが住んでいたことで知られていた。村の中心部にあるサドの優美な邸宅は、この地の最高級ホテルとなっている。 だがいまでは、ジゼル・ペリコ(71)が50年間連れ添った元夫のドミニク・ペリコに定期的に睡眠薬を盛られ、見知らぬ男たちにレイプされた場所として有名になってしまった。9月にはフランス南東部のアヴィニョンで51人の男性が裁判にかけられ、その大半がジゼルに対する加重強姦の罪で起訴された。 この裁判はフランス中を震撼させているが、アヴィニョンから約50キロしか離れていない人口6300人のこの村ほど大きな衝撃に見舞われた場所はない。 ここでは、その話はただ恐ろしいというだけではない。それは耐え難いほど「個人的なもの」に感じられるのだ。
「家族の村」に異変
裁判が始まる前から、村では噂が広まっていた。しかし、多くの人はそれらを誇張された話、あるいは単にあり得ない話だとして信じなかった。ここは誰もが二親等以内、つまり親戚ばかりの小さな村であり、恐ろしいことが起こる大都市ではないと彼らは考えていた。 「それはここではないどこかで起こることだと思っていました」。この村で最近おこなわれた、ジゼル・ペリコをはじめとする、レイプと暴力の被害者を支援する行進に参加していたアンヌ・ピナ(57)はそう語る。「私たちは家族の村です」 51人の被告のうち、マザン出身者はドミニク・ペリコを含む3人だけだ。とはいえ、そうでない被告のほとんどは、ここから半径65キロ以内の土地に住んでおり、マザンの住民の多くがそのうちの1、2人を知っているという。 「縁を切りました」と、ピナは被告のひとりである知人男性について語る。「とても不快で、彼の言うことさえ聞きたくないです。弁解の余地はありません」 警察による捜査の過程で、容疑者は83人にのぼった。しかし、警察が身元を特定できたのは51人だけだった。残りの容疑者らは不明のままで、村の多くの人々に疑念を抱かせ、彼らを不安にさせている。 「郵便局や他の場所にいるときに、『この人はマダム・ペリコに会いに行ったのだろうか』と心のなかで思っていることは認めます」と話すのは、事件現場となった家からわずか数ブロック先に住むエリザベス・ケーニグ(71)だ。 村の土曜の市場で買い物をしていたフレデリーク・インブスも、「どうやったらそんなところに行けるのでしょう」と話す。「いま私たちの目の前にいる男性のうちの誰かが、そこに行ったということもあり得ます」