「もうすぐ死ぬ」という現実。森永卓郎が伝える、悔いのない人生のための“仕事の終活”とは
突如、ステージ4のがん宣告を受け、人生の岐路に立たされた経済アナリストの森永卓郎氏が綴った渾身の「死に支度」ドキュメント『身辺整理 ─ 死ぬまでにやること』。 がん宣告後の「身辺整理」から、仕事、人間関係の再考まで、「もうすぐ死ぬ」という現実を「最強のカード」として活用する姿勢を通じて、人生の最後の瞬間まで全力で生きる意味を問いかけます。 モリタク流の「仕事の終活」よりピックアップし、お届けします。 ※本稿は『身辺整理 ─ 死ぬまでにやること』(興陽館)の一部を再編集したものです。
【森永卓郎(もりなが・たくろう)】 経済アナリスト 1957年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。 経済企画庁総合計画局、三井情報開発(株)総合研究所、(株)UFJ総合研究所を経て、獨協大学経済学部教授。専門は労働経済学と計量経済学。堅苦しい経済学をわかりやすい語り口で説くことに定評があり、執筆活動のほかにテレビ・ラジオでも活躍中。 2023年12月、ステージ4のがん告知を受ける。
誰にも忖度しない
いまやる、すぐにやる、好きなようにやる。 これが社会人として貫いてきた私の信条だ。 今、私は仕事に関してやり残していることはないと断言できるのだが、それはゲームを楽しむような感覚で自由に楽しく仕事に取り組んできたからだろう。 しかしずっと自由に楽しくやってきたわけではない。「いろいろなことがあったじゃないか」と職の履歴書が語りかけてくるのだ。 よくよく考えてみれば、新入社員の頃は、組織の中で好きなことをするためにはどうすればよいのかを模索していたし、営業をしていた時に得意先の意向に忖度したことがないとはいえない。 気の合わない上司や頭の悪い上司に悩まされたこともあったし、結婚して親になってからは、「こんな仕事はしたくない」と思いながらも、家族を養っていくことを優先していた時期もある。
ただ、いまから20年前、長男が成人したのをきっかけに、私は子育ての責任から解放されたと考え、シンクタンクを辞めて、自分の「自由」を優先する暮らしに舵を切った。 そして、2年前からは、公的年金をもらえるようになったので、忖度を一切やめて、さらなる自由を手にした。 ただ、実はいま振り返ってみると、私の職業人生は、その時点の制約のなかで、最大限の自由を常に追いかけていた。