「もうすぐ死ぬ」という現実。森永卓郎が伝える、悔いのない人生のための“仕事の終活”とは
現在、三和総合研究所は三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社として、日本一のシンクタンクになった。 松本社長はとっくに引退したが、その後も初期メンバーが定期的に松本邸を訪ねている。 ある時、メンバーの一人が「今度は会社を成功に導いた立役者である森永さんも呼びましょうよ」と提案したところ、松本さんは「森永は絶対に呼んではならない」と答えた。 なぜですかと訊くと、「俺は森永卓郎が大嫌いなんだ」と言い放ったという。 これには心当たりがある。 人事制度改革によって、それまで人事権と評価権で人を動かしていた権力者は力を失った。 収入にしても完全歩合制になったことで研究員が手にする額が増えた。 現に私は社長の何倍もの収入を得るようになっていた。
銀行出身の松本社長には、経営者を経営者とも思わない、上司を上司とも思わない私のような反逆児は許せなかったのだろう。 松本社長ばかりではない。私の退職後、銀行出身者だらけだった経営陣のあいだでは「今後、森永のような人間を決して出してはならない」という教訓が共有されたという。 しかし私は松本社長が「俺は森永が大嫌いなんだ」と言い放ったと知った時、松本和男という人物の偉大さを思い知った気がした。 大嫌いな部下を先頭に立たせることは、普通はできない。 彼は個人的な感情を抑え、会社を伸ばすという一点をみつめていたのだ。その度量には大いに学ぶところがある。 できる人は本質から目をそらさないのだ。
協力:興陽館 イラスト:arata / gettyimages(バナー)、大嶋奈都子(プロフィール) デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio) 編集:奈良岡崇子