令和のホラーブームを一覧、展望! 才能が集まりジャンルは栄える
時代小説の人気作家5人がホラーに挑む
昨今のホラーブームを象徴するような小説集をもう一冊。『歴屍物語集成 畏怖』(中央公論新社)は、天野純希、西條奈加、澤田瞳子、蝉谷めぐ実、矢野隆という時代小説ジャンルで活躍する作家たちが、ホラーに挑んだ書き下ろしの作品集。偶然ながらこちらもゾンビをテーマにしており、もし鎌倉時代や戦国時代、江戸時代に動く死者が存在していたら、という着想をもとに書かれた5編を収める。 天野純希「死霊の山」は、比叡山延暦寺の僧兵を主人公に、門前町・坂本でのゾンビ騒動を描いた作品。手足を切られても動き回り、よだれを垂らして噛みついてくる“狐憑き”は、映画に登場するゾンビそのもの。比叡山に死者たちが迫る一幕は、スリルとサスペンスに満ちている。この騒動が、織田信長によって引き起こされた日本史上の大事件に繋がっていく、という伝奇的趣向も嬉しい。 他にも元寇を背景にした矢野隆「有我」、江戸城の大奥で動物の死体が動き出す澤田瞳子「ねむり猫」など、それぞれ工夫を凝らしたゾンビ時代小説で、ホラーファンを楽しませてくれる。人外のものとの愛を描いた西條奈加「土筆の指」、蝉谷めぐ実「肉当て京伝」も忘れがたい。 近年は他ジャンルで活躍する作家がホラーに参入するというケースが増えており、『このホラ』でもミステリ作家やSF作家が上位にランクインしている。本書もそんな流れの一環と見なすことができるだろう。才能の集まるところにジャンルは栄える。こうした越境は大歓迎したいところである。
朝日新聞社(好書好日)