無人駅なのに駅員がいる「簡易委託駅」誕生秘話 「石破首相の父」提案きっかけ?鳥取から全国に
この翌日の『日本海新聞』によると、国英駅の場合は農協が駅前に住む40代女性を専従職員として新規採用している。このころの鉄道業界は国鉄・私鉄問わず圧倒的な男社会。『日本海新聞』は簡易委託化初日の国英駅の様子について「通勤者や通学生は案外無関心な表情で開札口(原文ママ)を出ていたが、なかには窓越しにみる女性の“駅員さん”を何か不思議そうにみる人もあった」と報じている。 ■有名なあの駅も簡易委託 因美線への簡易委託駅の導入に先立つ1970年9月28日、国鉄は「乗車券簡易委託発売基準規程」という内規を制定している。国鉄は11枚分の乗車券を簡易委託の委託先に交付。このうち10枚分の収入を国鉄に納め、残り1枚分が販売手数料として委託先の収入になる。この場合の手数料率は約9.1%でタバコの手数料率とほぼ同じ。収入としては小さいものの、駅前商店などが本業の片手間にやる分には悪くない。
鉄道事業者側の視点で考えると、駅の合理化を図る場合は関連会社に業務委託する方法もあるが、コストの削減効果はさほど大きくない。一方で完全な無人化は大幅なコスト削減になるがサービス低下につながり、地元の理解も得にくい。わずかな手数料コストで「駅員」がいる状態を作り出せる簡易委託は、落としどころとしてはベターな選択といえるだろう。無人化後の駅舎の維持管理という面でも、「駅員」がいれば不具合などの早期発見につながるなどの利点がある。
因美線への導入後、国鉄の簡易委託駅は全国で増えていった。なかには石破知事の提案のように商店などを併設した簡易委託駅もある。有名なところでは、松本清張の小説『砂の器』に登場する木次線の亀嵩駅(島根県奥出雲町)。駅舎に出雲そば屋が併設され、店舗の営業とあわせて切符を販売している。 ちなみに簡易委託駅は鉄道マニアのあいだでも人気がある。簡易委託駅では区間や金額を印刷した紙をあらかじめ用意しておき、発売時に日付などをゴム印や手書きで記入する昔ながらの切符を販売していることが比較的多い。いまではこうした切符は珍しく、これを集めるために簡易委託駅を訪ねるマニアも多いようだ。