【「夕刊フジ」休刊で岐路に立つ夕刊紙】 平鍋幸治社長が明かす、「東スポ」が「餃子」「唐揚げ」事業に進出した“本当の理由”
金銭に換算できない波及効果
東スポ餃子大当たりの余勢を駆って、その後も東スポからあげ、東スポポテチ、東スポ驚愕レモンサワー(アルコール度数13%)など関連商品を続々と開発。ついには東スポ居酒屋まで開店し、ミス東スポを呼んでイベントを開催するに至っている。 「その中ではやっぱり、東スポ餃子の反応が一番よかったですね。東スポ棒餃子、東スポおつまみ餃子・島とうがらしも出したけど、イマイチだったな。ただ、からあげは取り扱いたいと言って頂けるところがまだあるんで、餃子と2つ、ずっと続けています」 東スポ餃子でブームを巻き起こしてから今年で丸3年。果たして、肝心の収支はどうなっているのか。 「食品事業3年間の売上高は2億4000~5000万円です。ほとんどが餃子ですけど、レモンサワーなども含めた全体でそのぐらいかな。ただ、ご存じのように飲食は薄利多売の世界なので、利益は2000万円前後。そこからイベントにかかった人件費、関係先との打ち合わせに必要な接待費だとか、いろいろ経費を差し引いたら、3年間の純利益は1000万円ぐらいですね。新聞社が食品事業をやるとなると、やっぱりこのへんが限界です。最初から体制を整えて始めれば違ったんでしょうけど、スタートの時点ではそういう話でもなかったですから(笑)」 しかし、金銭に換算できない波及効果もあった。営業や取材の現場で、たびたび東スポ餃子が話題に上るようになったのだ。 「新人採用の面接でも、なぜ東スポに入ろうと思ったのかと聞くと、餃子を出したりして面白そうだなあ、と答える学生さんがいました。単なる利益追求ではなくて、そういうブランディング効果のほうが大きかったかもしれません」
ウチのタレント第1号
私自身、東スポのコラムニストとして、今年日本一になったDeNAのキャンプへ取材に行ったら、三浦大輔監督に「東スポ餃子、いつも美味しく頂いてます!」と言われたことがある。この一件を早速私がXに投稿すると、東スポ餃子記者のアカウントが「三浦監督、ありがとうございます!」とリポストしていた。さらに巨人キャンプにも東スポ餃子900個を差し入れ。原辰徳監督に食べてもらい、その写真と感想を東スポの1面、及び東スポWEBで大々的に報じている。こういうノリは日刊ゲンダイにはない。そうしたPR活動を一手に担っているのが、佐藤浩一記者である。もともと、運動部のプロ野球担当として楽天、DeNA、巨人を担当した経験の持ち主。野球記者が食品部門の広報担当になる、という驚きの人事もまた東スポならではだ。平鍋社長が佐藤氏に白羽の矢を立てた理由は何だったのか。 「最初は3人、広報の候補を考えていたんです。早く決めなきゃと思ってたら、たまたま会社で浩一(佐藤氏)が目の前にいて、その瞬間、こいつイイな! とピンときた。で、その場で『きょうから餃子の広報担当やれ!』って言ったんですよ。『これ、俺の命令だからな、何かあったら後でゆっくり話を聞くから』って(笑)。最初のうちは試食会の司会をするにも、カンペを作って、集まって頂いた方々に挨拶するのが精一杯みたいな感じでしたけど、だんだん慣れてきてね。テレビ番組に出たりしてるうちにお笑い芸人みたいになっちゃって、いやあ、彼はハマりましたねえ!」 その最たる例が、今年2月4日、東海テレビ「知らないうちに激変! ニューヨークのクイズ! いつの間に!?」の再現ドラマ「東スポ餃子誕生物語」で佐藤記者が再現ドラマで見せた出色の演技。これには番組のコメンテーターも「本職の俳優みたい」と感心しきりだった。 「ホント、佐藤くんは笑いを取るのがうまい。今度は芸能プロダクションを作って、ウチのタレント第1号にしようかな(笑)」 このように、平鍋社長の一見奇抜な印象を与えるアイデアは、本業の編集に関わる部署や社員をも巻き込み、ダイナミックに展開している。これからさらに新たな事業に乗り出す計画はあるのか、それとともに東スポの紙面はどう変わっていくのか。 【後編】では、平鍋社長が描く、夕刊紙の未来図について語っている。
赤坂英一(あかさか・えいいち) 1963年、広島県出身。法政大卒。「失われた甲子園」(講談社)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。他の著書に「すごい! 広島カープ」「2番打者論」「プロ野球コンバート論」(すべてPHP研究所)など。日本文藝家協会会員。 デイリー新潮編集部
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