ふるさと納税「日本一」都城市の驚くべきブランド戦略…人気の秘密は“絞る”こと
年末が近づき、「ふるさと納税」が最も注目される時期がやってきました。 今回の連載『自律思考を鍛える』では、ふるさと納税寄付額が2022~2023年の2年連続を含めて過去に何度も「日本一」となった宮崎県都城(みやこのじょう)市の取り組みを紹介します。 【全画像をみる】ふるさと納税「日本一」都城市の驚くべきブランド戦略…人気の秘密は“絞る”こと 今でこそふるさと納税で有名な都城市ですが、2013年度のふるさと納税での寄付額は960万円で全国266位と、目立った存在ではありませんでした。 そんな都城市が飛躍した理由は、「ターゲットを絞り込む」という戦略を徹底したことでした。 都城市の戦略は、民間企業、特に中小企業の資金調達(対投資家、対金融機関)、そしてその後の事業拡大の参考になると思います。
「退屈」していた職員を抜擢
宮崎県都城市長・池田宜永さんが市長に初当選したのは、2012年のことでした。 2008年にスタートしたふるさと納税制度ですが、2011年の東日本大震災からの復興を応援しようと利用者が増え始めた頃でした。しかし都城市への寄付額は少なく、そもそも「市」の知名度もいま一つでした。 「国の会合で、司会者から『みやこのじょう』ではなく『とじょう』と読み上げられたこともありました」と池田市長は当時を振り返ります。 「ふるさと納税と、都城市の知名度アップをうまくつなげられないか?」 そんなことを考えていた池田市長の目に留まったのが、当時、市役所の農産園芸課で働いていた入庁15年目の野見山修一さんでした。 なぜ、野見山さんに白羽の矢が立ったのか。それは野見山さんが、異動先の希望などを書き込む自己申告のとき、過去にはいろいろな希望を書いていたものの、この年は「退屈です」とだけ書いて提出していたからです。 池田市長にとっては、まさに渡りに船。「退屈で困っている野見山さんに忙しくなってもらおう(笑)」とふるさと納税を管轄する新部署に異動してもらいました。
「黒霧島の都城」に苦情も…
都城市にとって、第一のゴールは「知名度アップ」でした。 そしてこれは最終的なゴールである「人口増」に必要不可欠な条件です。聞いたことのない街は、移住候補にならないからです。 当時の池田市長が知名度アップのために実行した戦略は、地元名産の焼酎「黒霧島」を全面に打ち出したアピール戦略でした。 これは、ふるさと納税の取り組みについての都城市のプレゼン資料です。 黒地に白文字で「黒霧島 MADE IN 都城」。なかなかのインパクトです。 企業であれば、自社の有名商品を活用してPRするのは当たり前です。しかし、これは市のPRの話です。特定の民間企業のPRを市がするのか? えこひいきではないのか? 当然そのような批判が上がってきます。 しかも「えこひいき」は、これだけではありません。 ふるさと納税の返礼品選びでは、一般的に地域内のさまざまな商品を紹介します。ところが都城市では、返礼品を絞り込み、一点集中させる戦略を取りました。 都城市は、肉用の牛・豚・鶏の合計産出額が日本一であることから、「肉」と「焼酎」に特化することで、都城市を知ってもらうことに全振りしたのです。 当然、焼酎や肉を扱っていない事業者から批判や反発が起きます。 ただよく考えてみると、これは企業でもよく起きること。特定の商品の販促を強化しようとすると、その他の商品に携わっている人たちが反発する。そしてリーダが妥協し、全体に平等に予算を分配すると、効果的なPRができなくなり、効果が出ない。 これを防ぐには、強いリーダシップが必要なのです。 私自身、リクルートの住宅事業にいた際に強いリーダシップを見た経験があります。 当時、住宅情報、フォレント、ハウジング、タウンズ、グッド・リフォームなど複数のブランドが並立してPRをしていました。 それを当時の住宅事業のトップ(現会長の峰岸真澄さん)が強いリーダシップでSUUMO(スーモ)に統合したのです。現場の反発はかなり強かったのを覚えています。 みなさんの企業ではいかがですか? ブランドを統一しよう。特定の商品だけPRしよう──。などと戦略を絞ろうとすると、総論賛成、各論反対になり、各商品を担当している事業責任者が文句言いそうですよね。 リーダの決定する力が弱いと、結果として、色々な商品をPRする凡庸な戦略になりがちです。