トランプ氏が蒸し返す「在韓米軍撤退」の思惑、“親北”の李在明氏が次期大統領になればやぶ蛇になる可能性も
■ 韓国の政治的空白で出ばなをくじかれるトランプ氏 2025年1月20日(現地時間)、第2次トランプ政権がアメリカで本格始動するが、第1次政権時(2017~2021年)に物議を醸した「在韓米軍撤退」が早くも蒸し返されそうな雲行きだ。 【写真9枚】親密に連携する米韓両軍、在韓米軍撤退の脅しをかけるトランプ氏ほか 交渉相手の韓国は今、1987年の民主化以来、最大規模となる政治的混乱の真っただ中にある。今年(2024年)12月3日に、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が突如戒厳令を発令。数時間後にあっけなく解除されたが、最大野党の「共に民主党」などは内乱罪だとして尹氏を指弾。憲法裁判所は尹氏の弾劾裁判を開始し、判決次第で尹氏は失職しかねない。 尹氏の早期退陣を叫び、俄然鼻息が荒いのが、共に民主党代表の李在明(イ・ジェミョン)氏で、大統領選への出馬に意欲も見せる。「親日・反北」の尹氏とは対照的に、李氏は「反日・親北」で国民からの支持も高く、現時点で総選挙に出れば、次期韓国大統領間違いなしだ。 とはいえ、そんな李氏も訴訟を多数抱えているため予断を許さない。特に今年11月に判決を受けた、選挙法違反による執行猶予付き懲役刑は深刻だ。韓国では3カ月以内に控訴審の結論を出さなければならず、ここで罪が確定すれば、今後10年間は大統領選を筆頭に、公職選挙への出馬はできなくなる。 2025年2月の控訴審判決の期限まで、なりふり構わず大統領選を先延ばししようとする尹氏と、尹氏の失職と総選挙の早期実現を目指す李氏との「仁義なき戦い」が展開されている。 このように足元がおぼつかない中、韓国側としてはトランプ氏の政権移行チームと「在韓米軍撤退」に関して内々に話し合う余裕もなく、それ以前に、韓国側の政権がガラリと変わるかもしれないため、窓口さえはっきりしないというのが実態だ。
■ 半世紀前から繰り返されてきた「在韓米軍撤退論」 在韓米軍は1953年締結の軍事条約「米韓相互防衛条約」に基づき、韓国国内に駐留する。1950~1953年の朝鮮戦争で戦火を交えた北朝鮮や、背後にいる中国、旧ソ連など共産主義陣営の軍事的脅威から、自由主義陣営の韓国を守る「抑止力」として存在する。 英シンクタンクの国際戦略研究所(IISS)が発行する『ミリタリーバランス(2024年版)』などによれば、在韓米軍の兵力は約2万8500人で、在外駐留米軍の中では、日本(約5万5600人)、ドイツ(約3万9000人)に次ぐ規模である。 陸軍約2万人と空軍約8000人が主軸で、陸軍はM-1戦車の最新版を多数装備する第2歩兵師団(戦車部隊は他師団の部隊をローテーションで借り受け)がメイン。空軍はF-16戦闘機やA-10攻撃機を装備し、対地攻撃(空爆)を得意とする。 条約では、平時は米韓両軍がそれぞれ独自の指揮権を持つが、有事の際には両軍は米韓連合司令部の下に置くと決められ、在韓米軍司令官が事実上指揮権(戦時作戦統制権)を握る。つまり韓国が北朝鮮と戦争状態に入ると、韓国軍全軍は自動的に米軍の号令一下で戦うこととなる。 在韓米軍撤退の話は、半世紀以上前から繰り返されてきた。1960年代、アメリカはベトナム戦争に大軍を投入し、アジアでの共産主義ドミノ(ドミノ倒しのようにアジア諸国が次々に共産化すること)を阻止するため、韓国を自由主義陣営の最前線として重視。陸軍を中心に最盛期には6万人超の兵力を置いた。 だが、ベトナム戦争で苦戦し、膨れ上がる戦費でアメリカの財政は疲弊。当時のニクソン大統領は世界中に配置する米軍の統廃合を決意し、軍事費の大幅削減に乗り出した。同盟国には米軍依存をやめ、自国の防衛力強化に努めるよう訴えた。在韓米軍も例外ではなく、1971年に2個あった歩兵師団を1個に縮小した。いわゆる「ニクソン・ドクトリン」である。 その後1977年に発足したカーター政権は、当時の韓国の軍事独裁政権を嫌い、在韓米軍の全面撤退を計画した。だが国防総省や共和党議員から、極東アジアの安全保障の重大危機だと猛反発され、計画は撤回された。 現在は韓国軍の通常戦力は世界屈指で、北朝鮮軍の戦力をはるかに凌駕する実力を備えるまでに成長した。純軍事的に見た場合、米陸軍第2歩兵師団がまるまる1個半島に駐留しなければならない必然性は、以前と比べて相当低下している。仮に同師団が韓国から離れたとしても、実質的な軍事力バランスが大きく崩れるとは考えにくい。 むしろ米軍地上部隊の存在自体が、北朝鮮に対する心理的な抑止力となっている。万が一北朝鮮が韓国を奇襲攻撃し、米軍地上部隊に多数の死傷者が出た場合、完膚なきまでの報復に出るのがアメリカの流儀であり、それは北朝鮮側も十分に承知しているはず。 最近は朝鮮半島に駐屯するという地の利を生かし、第2歩兵師団配下の部隊を、インド太平洋地域に派遣するためのコア部隊としても活用している。だが、何が何でも朝鮮半島に駐留していなければ韓国の安全保障が保てない、という現状ではないだろう。