世界の文化財が危ない!元「FBI美術捜査官」が語る、美術犯罪の最前線
取材に応じた元FBI美術犯罪捜査官のロバート・ウィットマン氏(マシュー・コラサ撮影)
シリアにある古代パルミラ遺跡から中国の建設現場、ヨーロッパの博物館の壁に至るまで、世界の文化遺産たちは今、美術品窃盗団や墓荒らし、違法な古美術品ディーラーの脅威にさらされつつある。アメリカにおける文化遺産保護の最重要人物のひとり、ロバート・ウィットマン氏は、日本で生まれたアメリカ人で、FBIの「美術犯罪班」を創設した人物だ。在職中は約3億ドル(約350億円)の文化遺産を取り戻したという。FBIを辞めてからは、芸術品を国際的に保護し、取り戻すためのコンサルタント会社を自ら設立した。
中東の紛争地域で、文化財の略奪が日常化している
ウィットマン氏は、文化財保護への関心は国際的に高まっているが、略奪は今や高レベルに達しており、特に中東などの紛争地域では顕著だと話す。 「古美術品への理解が高まり、人々の文化財への尊重と保護への意識は高まってきました。それに伴い、奪われるものも多くなってきたと考えています。2003年にイラク戦争が始まってから、その地域の遺跡や作品は攻撃にさらされ、売られるために持ち出されていきました。中東地域における組織の不在、警察の不在、統治の不在が、遺跡の略奪を当たり前にさせ、遺跡に打撃を与えてきたのです。アメリカはこれら文化財の他国への持ち出しを法律で禁じています。現時点でこれらの文化財がアメリカへ渡っているのかは不明ですが、東ヨーロッパの国々には渡っており、それらの地域で利ざやを稼いでいるのではないかと思います」 古美術品を盗む者たちは、違法な売買で利益を得ることだけでなく、政治的な目的という新たな目的も持っているのだという。 「『反西洋世界』を示す政治的宣言として、ISISのような組織が文化財を破壊することを目にします。これはかなり新しいことだと思います。10年以上前まではおそらくこうした現象を見ることはありませんでしたが、今やそれが筆頭なのです。このような事象が起きているのを見るのは、とても悲しいことだと思います。それを止める手立てはあまりありません」