「身元保証」事業者に月10万円で赤字続き 安易な契約に潜むリスク
頼れる親族がいない高齢者らを対象に、身元保証や死後の事務などを担う「高齢者等終身サポート事業者」。利用者のなかには、契約時や利用中に判断能力の低下がみられる場合もあり、消費者トラブルや被害からどう守るかが課題になっている。 【写真】亡くなった女性の保険証などを返還する事業者 ■事業者、金銭管理せず 関東に住む80代女性は2023年12月、認知症の90代の夫とともに介護付き有料老人ホームに入居した。 施設に入る際に「身元保証人」を求められた。子どもは1人いるが、障害がある。そこで、施設から入居条件として求められたのが、身元保証を請け負う事業者との契約だった。 契約金は「登録料」として1人約40万円。女性はもともと1人でも外出ができたが、施設では親族などの付き添いが外出の条件。親族がいない場合は1回約1万円で事業者の「生活支援サービス」を利用して付き添ってもらうようにと説明された。別の介護事業者などのサービスを使うことは許されず、障害者施設に入居している子どもの面会や買い物などのため、生活支援サービス費として月10万円程度を支払い続けている。 関係者によると、女性も判断能力の低下がみられ、収支の把握ができない状態だという。通帳は事業者が預かっていて、本人は残額の確認はできないが、事業者が金銭管理などをしている様子もなかった。施設選びはケアマネジャー任せだったが、入居費用も資産や年金収入に見合わず、このままでは3年ほどで預貯金が尽きる。 関係者は「本来は(判断能力が不十分となった人の代わりに財産管理などを行う)成年後見人が必要なケースだと考えられるが本人が拒んでいる」と話す。「入居費用が支払えなくなったら、生活保護を受給して別の施設に移ればいいと聞いた」と女性は話しているという。 本人や親族が十分に契約内容を理解できないまま、身元保証事業者と契約したり、契約を続けていたりするケースは、各地で起きている。 愛知県の5市1町から委託を受けて、成年後見制度の普及啓発などに取り組むNPO法人「尾張東部権利擁護支援センター」(愛知県日進市)のセンター長・住田敦子さんは、管内の自治体などからの相談に乗るなかでさまざまなケースを経験してきた。 ■「不適切な支出」行う事業者も 2年ほど前、有料老人ホームから身元保証などのサービスを提供する事業者と契約している入所者の70代男性について相談があった。入所時に事業者と契約し、4年ほどにわたって月8千円の利用料を払っていたが、連絡を取ろうとしても応じてもらえないということだった。 男性の認知能力が落ちていることもあり、市が成年後見の市長申し立てをしようとしたが、事業者側は「勝手に進めるな」と怒り、通帳の開示などを拒否したという。センターが候補者として調整した弁護士が成年後見人となり、事業者との契約の解除ができたという。 住田さんは「契約しているのに連絡がつかなかったり、『生活支援費』として不透明な支出をしたりという事業者の話はよく聞く」と言う。地域包括支援センターやケアマネジャーらが、「身元保証人がいないと施設に入れない」などと簡単な説明だけで身元保証事業者との契約を勧めるケースも多いといい、「契約後にお金が適切に使われるかなど、本人の『権利擁護』の観点が抜け落ちている」と指摘する。 国民生活センターによると、全国の消費生活センターなどに寄せられる相談件数は急増している。2014年度には108件だったが、22年度は194件、23年度は355件。24年度は、10月までの7カ月で236件にのぼる。 住田さんは「(被害に遭っても)多くは本人の判断能力が落ちているために訴える人がいない状態だ」として、相談件数として表に出ない消費者被害も潜んでいると懸念する。(石川春菜)
朝日新聞社