『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』を『ジュラシック・パーク』オタクが解説
国民的人気アニメ『クレヨンしんちゃん』の劇場版第31作『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』が公開中である。今年のテーマは“恐竜”! お金持ちのおじさんが不可能と言われる恐竜の再生に成功し、テーマパークを開いてしまった、という“どこかで”聞いたことのある筋書き。筆者は『クレしん』自体にはあまり詳しくはないが(劇場作品を数本鑑賞、アニメを少々程度の知識)、物心ついた時から『ジュラシック・パーク』をVHSが擦り切れるまで観てきた生粋のJP(ジュラシック・パーク)ファンとして、恐竜映画自体が見逃せない。国民的アニメ×恐竜といえば、何度か映像化されていることもあって『ドラえもん』のイメージの方が強いが、『クレヨンしんちゃん』で恐竜映画とは、果たして何を観させてもらえるのだろうか。恐竜および『ジュラシック・パーク』オタクの目線で本作を解説していきたい。 【写真】野原しんのすけとシロ、そしてナナのエモいスリーショット ※本稿では『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』の結末に触れています。 ・『ジュラシック・パーク』シリーズのオマージュ尽くし 本作は、恐竜を現代に甦らせたテーマパーク「ディノズアイランド」から、青年ビリーが一匹の子供恐竜ナナを連れて逃げるところから始まる。しかし、空中で早速翼竜に襲われる事態に。まるで『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』でオーウェンとクレアがケイラの操縦する小型飛行機をケツァルコアトルスが襲うシーンのようだ。もうここから“ジュラシック的”な展開になっているが、同乗していたナナが飛行機から落ちるアクシデントが発生。見た目からしてナナがスピノサウルスであることは明白で、川に落ちたことから水棲の特質を生かして「無事です」と説明づけをすることが容易に想像できた。 一方、しんのすけ含む「かすかべ防衛隊」のメンバーは、令嬢・酢乙女あいの計らいで、2年先まで予約が取れない「ディノズアイランド」に招待される。いくらスポンサーといえど、子供同士が子供に(しかも防衛隊メンバー全員分の!)チケットを(しかもVIP仕様を!)手配できることに度肝を抜かれる。実際に完成したパークが舞台かつ子供が主人公といえば、『ジュラシック・ワールド』と『ジュラシック・ワールド/サバイバル・キャンプ』が想起されるが、前者ではパークの運営管理責任者であるクレアの甥、ザックとグレイも同じようにコネでVIPチケットを貰っていた。しかし、彼らが入園できたのはパークがオープンしてから10年後のこと。その背景には開園1年前の「ジュラシック・ワールド」にインターンとして入り、10年の月日で責任者の座にまで上り詰めたクレア(大人)の並々ならぬ努力があり、後者の『ジュラシック・ワールド/サバイバル・キャンプ』の主人公ダリウスも島に行く参加権利を賭けたVRゲームに勝利するなど、コネ抜きの実力主義で頑張っている。それらを踏まえると、ますます「親がプロジェクトの出資者」という酢乙女あいの立場の強さが際立って仕方ない。 しかし不思議なのが、本当に恐竜を甦らせたと謳う人気パークがなぜ“東京”に、そしてなぜ“オープン”できたのか、ということ。これはおそらく創設者バブル・オドロキーの亡き妻が日本人だったから(残された息子と娘にとって第二の故郷でもあるし)という理由が考えられるが、もっと世界の権威的な立場の人間が止めに入らなかったのか、学会からの調査も入らなかったのか、など疑問は尽きない。あの「ジュラシック・パーク」の創設者ジョン・ハモンドでさえ開園前にプロを呼んで事前の安全確認や成功性を検証していたのだから、本物の恐竜の再生に成功したのか、どこかの権威ある機関が事前に確認をせずオープンされたことが不思議で仕方ない。もしかしたら海外メディア的にはすでにオドロキーの虚言であることを見抜いて大きく報道しなかったとか? さて、そんな「ディノズアイランド」にいざ入園すると、本当に恐竜たちがたくさんその辺を歩いている! 『ジュラシック・パーク』同様に園内を専用の車に乗って園内を回れる仕様になっているが、すごいのはサファリパークのように車両の中から餌付け体験ができたり、肉食恐竜にも至近距離で近づいたりと命知らずなアトラクションと化していること。ロバート・マルドゥーンのようにヴェロキラプトルに警戒する恐竜監視員がいないことに唖然とするわけだが、その理由が後になって明かされる……なんと、このテーマパークにいる恐竜は全てロボットだったのだ! そうなると、パークが来場客に対して無茶なツアー体験を案内できていたことも納得できる。しかし、それにしてはよだれが出たり水を飲んだりするなど、ロボットといえどあまりにも精巧な作りだ。『ジュラシック・パーク』シリーズのアニマトロニクスを手がけたスタン・ウィンストンも、これには驚きを隠せないだろう。 予告編などを観ていた時、作品全体に登場する恐竜が想像以上に多種でメジャーからマイナーどころまで幅広く登場されているのにもかかわらず、デザインがまるで子供向けのおもちゃの恐竜のような出鱈目な配色だったことが気になっていた。しかし、それも「ロボット(作り物)だったから」として説明できる点には感心してしまった。実際、本作に登場する恐竜は福井県立恐竜博物館の監修のもと、すべて手書きで描かれている。パンフレットには、登場する恐竜と翼竜の解説、骨格や羽毛の有無まで細かなディテールが記されたキャラクターデザインが見られるようになっていて、子供向けの映画にしてはかなり真面目な作りになっているのも魅力的だ。 そして重要な野原家にティラノサウルスがやってくるシーン。大雨の中、シンクの洗い物に溜まった水が振動するシーンはまぎれもなく、『ジュラシック・パーク』で最初にティラノサウルスが姿を現す伝説的な場面のオマージュだ。外に恐竜がいることに気づいた少年(しんのすけ)が、寝ている両親を起こすも信じてもらえない。しかし、カーテンの隙間から覗くティラノサウルスの目。そして全員が絶叫するシーンまでは『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』でサンディエゴの一軒家にティラノサウルスが迷い込んできたシークエンスをほぼ完全に再現している。あのレックスでさえ家を破壊しなかったのに、気の毒な野原家は大破されてしまった。 さて、これまでかなり多くのオマージュに触れ、本作が恐竜描写に力を入れている作品であることが徐々にわかってきたかもしれない。しかし、これは『クレしん』映画だ。だからこそ見られる奇想天外な恐竜描写もある。邪悪なロボットだとわかっていても草食のパキケファロサウルスと肉食のグアンロンが共闘してしんのすけたちを襲ったり、カプセルの中に入ったナナを盗むのが「卵泥棒」の名で知られるオビラプトルなのはちゃんとしているのに、車にトランスフォームしてその場を走り去ったり。ちゃんと子供が喜びそうな「恐竜×おもちゃ」の要素を忘れていないのが素晴らしい。極めつけは、渋谷でアイドルをしているオルニトミムスが「LOVEマシーン」を踊るシーン。どこの誰がこんなぶっ飛んだアイデアを思いつくのだろうか。 かなり現実に忠実な渋谷で大型肉食恐竜同士が戦う場面も、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』のラストを想起させるわけだが……果たして一つの映画作品としてはどうなのだろうか。