日本の薬は大丈夫か?(4)今こそ薬を使わない医療への転換を
先進諸国におけるジェネリック不足の原因は、どこも同じです。各国とも医療には金を使いたくないため、ジェネリックの薬価(アメリカなど上限価格)をできる限り低く抑えようとしています。患者・消費者も、安いジェネリックを求めています。ジェネリックメーカーとしては、生き残るために中国やインドの原薬メーカーに頼るしかありません。 先発薬とジェネリックの差額を患者が負担する制度が盛り込まれた しかしそれらの国では、先進国ほど生産管理や品質管理が進んでいないため、生産量にムラがあり、しかも時々品質問題を起こします。すると下流に位置するジェネリックメーカーは製品の安定出荷が難しくなり、最悪は製造停止に陥ります。そうなると売り上げが立たなくなるので、経営も不安定になります。実際、アメリカでバルサルタンが問題になった際には、倒産したジェネリックメーカーも出たそうです。 自由主義経済のもとでは、ライバル社が出荷停止になれば、増産してシェアを伸ばすチャンス到来となるはずです。ところがほとんどのジェネリックメーカーは、採算スレスレで経営しているため、設備投資や新たに人を雇う余裕がありません。利益率が低すぎて、シェアを拡大しても、儲けは出ないのです。 今後は中国もインドも人件費が上がっていることから、原薬の価格は徐々に値上がりするはずです。しかも日本は円安という問題を抱えています。対ドルだけでなく、人民元やインド・ルピーに対しても円の価値が下がり続けています。 数年前、半導体不足が問題になりましたが、そのとき「買い負け」という言葉をよく耳にしました。日本企業は相場に見合った価格を提示できず、必要な量の半導体を買えなかったわけです。それと同じことが原薬でも起こりそうです。 もっと薬価を上げるしかないのですが、それでは健康保険などの保険料をさらに上げなければなりません。そこで保険料を上げなくても済むように、できるだけ薬を使わない医療に切り替えていくことが大切になります。とくに日本では、高齢者のポリファーマシー(何種類もの薬を飲むことによる健康被害)が問題になり始めています。処方を増やすより減らすほうが、むしろ健康になれるかもしれません。いまはそうした見直しをする、いい意味での曲がり角に来ているのかもしれません。=おわり (永田宏/長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授)