誰かと対立したときに役に立つ、「共感的な言い換え」
敬意ある対話を促す
■2. 敬意ある対話を促す 相手が何を感じているのか、なぜ怒っているのかがわからない場合は、それを明確にするための質問を投げ掛けることで、誤解を回避できる。 例えば同僚から、「あなたは私の提案を真剣に受け止めていない」と言われたら、「あなたは、自分の貢献が評価されていないと感じているのですね。なぜそのように感じているのか詳しく教えてください」と答えることができるかもしれない。相手の視点に関心を持っていることが伝わるだけでなく、対話を打ち切るのではなく、さらなる対話を促すことができる。 質問をすることで、誤解を避けながら、相手が気持ちを明確にしたり、さらに詳しく説明したりする機会をつくることができる。相手は、「あなたの言う通りだが、問題は自分が大事にされていないと感じたことなのだ」と答えるかもしれない。 こうした深い洞察により、会話の方向性が変わり、解決へと向かう可能性がある。話し手が、自分の言うことが理解されていると感じ、感情的に反応する可能性が低くなるからだ。 共感的な言い換えには、「自分の意見を挟むことなく、話し手の感情を認めること」も含まれる。これは、たとえ相手の視点に同意できなくても、相手の気持ちに焦点を当てることを意味する。また、訂正したり、説明したりしたいという衝動を抑えることでもある。そうすることで、対話のための安全な空間が生まれ、対立が自然に解消される。 『Psychological Science』に発表された2022年の研究によれば、自分と意見が異なるとき、「相手の説得を試みる人」と、「相手の視点を理解しようとする人」から1人を選ぶことになった場合、大多数の人は、後者を話し相手として選択するという。たとえ意見が異なっていたとしても、人は、自分の意見を熟考してほしいと望んでいるのだ。 さらに、相手の心のレンズを通して問題を捉え直せば、その視点が正しいか間違っているかを議論することなく、相手の体験を認めることになる。感情が認められたとき、対立は、「勢力争い」から「協調的な会話」へと変化する。 このような共感を実践するには、自分自身の体験を客観視し、相手をより明確に見るだけでなく、「本当に重要なこと」の全体像を把握する必要がある。そうすれば、「誰が正しいか」ではなく、「互いが平和的な解決に向かうにはどうすればよいか」が見えてくる。 例えば、家事を忘れてしまった配偶者と対立した場合、相手は今、手一杯の状態で、普段は家事を忘れないことを思い出すかもしれない。口論に「勝つ」ことを望むのではなく、「相手に共感し、良好な関係を保つ」という、より大きな共通の目標に焦点を当てることができるのだ。 当然のことだが、共感は必ずしも同意を意味するわけではない。相手の視点を受け入れるがために、自分の視点を手放すことを意味するわけでもない。共感とは、自分の視点に立ち続けることと、相手の気持ちを尊重することのバランスをとることだ。 このようにして、私たちは対立を、より深い理解と、より強い絆を得るための機会に変えることができる。
Mark Travers