誰かと対立したときに役に立つ、「共感的な言い換え」
対立が起きると、緊張感が高まる。私たちは、つい言い過ぎ、そのつもりはなくても、対立をエスカレートさせるような行動をとる。私たちはしばしば、自分の言い分を主張したいあまり、重要なことを見落としてしまう。つまり、相手もまったく同じ気持ちでいる、ということだ。 対立している相手は、自分の主張を聞いてもらい、理解してもらい、正当だと認めてほしいと考えている。自分の気持ちが重視され、自分の視点が尊重されることを望んでいるのだ──たとえ同意を得られない場合でも。 心理学の学術誌『Frontiers in Psychology』に発表されたある研究では、他者と対立しているさなかに、相手の感情をコントロールし制御する「外的な感情制御(extrinsic emotional regulation)」を、どうすれば実現できるかについて検証している。自分自身の短気や感情的な反応を抑えるだけでなく、外的な感情制御を実行することで、対立はすぐに収まり、それまでよりはるかに良好な関係を築くことができる。 研究チームによれば、その鍵は「共感的な言い換え(empathic paraphrasing)」にある。相手が言ったことを自分の言葉で言い換える(パラフレーズする)ことで確認し、相手の感情と、根底にある懸念まで浮き彫りにするコミュニケーション技術だ。これは、相手の話を最後まで聞いただけでなく、相手の感情的な体験を認めたことを意味する。 実際、最近経験した対立について話した被験者たちは、自分と対立する相手が、自分の発言を相手の言葉で言い換えるのを聞いた後、自分の気分が落ち着き、声も小さくなったと報告している。 この研究によれば、共感的な言い換えと「正しい対立の仕方」を実践する方法は2つある。 ■1. 反応せずに、積極的に傾聴する 共感的な言い換えとは、相手が話しているときに割り込んだり、返答を頭の中で考えたりすることなく、本当の意味で耳を傾けることだ。 また、相手が言っていることの内容を繰り返し、その背景にある感情を認めることも重要だ。これは、認知と感情の両方で聞いていることを意味する。自分の言葉を聞いてくれたと感じたとき、人はガードを緩める。これが緊張を和らげる鍵だ。 例えば、パートナーが「あなたが電話すると言ったのにしなかったから、とてもイライラしている」と言ったとしよう。このとき、身構えたり、素っ気なく対応したりするのではなく、「あなたがイライラしている理由はよくわかる。私から電話がかかってくると思っていたのに、私がそうしなかったからだね」と答える方がいい。 ベラ・レンとレベッカ・シャウムベルクは、学術誌『Psychological Science』で2024年4月に発表した研究論文で、「人は、自分と意見が異なる聞き手について、自分と意見が同じ聞き手よりも、低く評価することがわかった」と述べている。 「平均すると、聞き手が話し手に集中し、その話に理解や敬意、関心を示したとき、話し手は、よく話を聞いてもらったと感じていた。そのため、たとえ話し手に賛同できない場合でも、聞き手がこれらの行動をとる価値はある」