いったい誰得?国民民主党の「103万円の壁」引き上げでもパートの働く意欲は高まらない
■ “年金逃げ切り世代”は反応するか? この女性の勤務先でパートとして働いているのは、同世代の女性たちが多い。“年金逃げ切り世代”でもあり、賃上げで時給がアップした分、労働時間を減らして壁を超えないよう調整している人がほとんどだという。女性もその一人だ。仮に年収の壁が178万円に引き上げられたとしても、ほかに持っている数々の特権を手放してまで壁を超えて働こうとはつゆほども考えていないと話す。 一方で、女性の場合、若い世代ほど正社員比率が高まり、2023年時点で子育て世代の25~34歳で68.6%、35~44歳でも52.5%が正規雇用となっている(「雇用形態、年齢階級別役員を除く雇用者の推移(割合)」、総務省統計局「労働力調査」より)。いずれも10年前から1割近く増えた。 見方を変えれば、25~44歳の女性の半数以上は既に「年収103万円の壁」を超えて働いているわけだ。さらに、パートのボリュームゾーンである50代に「現状維持」派が多いとなれば、「壁の前に労働時間を抑制してしまう人が減って人手不足が解消される」効果は限定されてしまうのではないだろうか。 国民民主党による「年収103万円の壁」引き上げの具体的なやり方は明らかになっていないが、これを受けて政府は基礎控除を75万円引き上げ、同党の主張する178万円とした場合、国と地方を合わせて合計7兆6000億円の税収減となる見通しとの試算を示した。 基礎控除を引き上げれば「年収103万円の壁」の対象者に限らず、会社員や自営業者などほとんどの納税者が“恩恵”を享受することになる。課税所得が圧縮され、その分、税負担が減るからだ。ならばストレートに「減税」にしてしまった方が国民にも分かりやすいと思うのだが……。
■ 社会保険料負担も含めた包括的な見直しが不可欠 基礎控除を75万円引き上げたことによる減税効果は、年収210万円の人が約9万円、同500万円の人が約13万円、基礎控除が満額受けられる上限に近い同2300万円の人だと約38万円となる。こうした数字を見ると「高額所得者優遇」との指摘を受けかねない(実際、そういう指摘も出ている)。 好調な企業業績を背景に法人税の申告所得金額は2023年度まで3年連続して過去最高を更新しているが、基礎控除引き上げによる7兆6000億円の税収減は財務省からの抵抗も強そうだ。 加えて、健康保険や年金の財政危機から国は社会保険の適用拡大を目指しており、「年収103万円の壁」突破には社会保険料の負担も含め包括的な見直しが求められるようにも思う。 とはいえ、「年収103万円の壁」引き上げに向けた協議はまだテーブルにも着いていない。どんな“落としどころ”を見つけるのか。議論の行方を見守りたい。
森田 聡子