「カメ止め」に続き「侍タイムスリッパー」も…上映作品が全国ヒットを連発 支配人が明かす「シネマ・ロサ」が“自主映画の聖地”と呼ばれる理由
一部の映画館から全国公開へ
ある小さな映画館で公開された自主制作映画が、あれよあれよという間に大ヒット。ついに大手配給会社がついて、全国約100館で拡大公開! ――ご存じ、「侍タイムスリッパー」(監督・脚本・撮影・編集:安田淳一)である。いまや、今年の日本映画界最大の話題作といっても過言ではない。 【写真】自主映画の聖地「シネマ・ロサ」の外観写真など
動乱の幕末、ある会津藩武士が、宿敵・長州藩の武士に襲いかかった。その瞬間、雷が落ち、現代にタイムスリップ。しかもその場所は、東映京都撮影所、時代劇セットのど真ん中。やがて武士は、撮影所で“斬られ役”専門の役者として生きる決意をするが……。 よくあるタイムスリップを題材にしたSFコメディで終始すると思いきや、後半、予想外の展開となり、思わず歯ぎしりさせられるクライマックスに突入する。見事な脚本、本格的な殺陣、俳優陣の熱い演技。さらには、東映京都撮影所の全面協力――近年、これほど「本格的な時代劇」は、観たことがなかった。 この面白さなら、全国公開も当然……だが待てよ、そういえば、似たような展開で大ヒットした自主映画があったのでは、と思い出した方も多いだろう。そう、「カメラを止めるな!」(監督・脚本・編集:上田慎一郎、2018年)である。あの映画も、一部の映画館から、全国拡大公開。さらにはフランスでリメイクまでされたのだった。 実は、「侍タイムスリッパー」も「カメラを止めるな!」も、おなじ映画館が、最初のスタートだったのだ――東京・池袋西口にある、「シネマ・ロサ」である。 なぜ、このような小さな(失礼! )映画館から、全国公開に至る話題作が、続々生まれるのだろうか。「シネマ・ロサ」とは、どのような映画館なのだろうか。
ロサ会館のテナントとして
「シネマ・ロサ」は、終戦直後の1946年、ほぼいまの場所に、「シネマ・リリオ」「シネマ・セレサ」「シネマ東宝」などとともに開館した。 1968年、この地にアミューズメント・ビル「ロサ会館」がオープンする際、「ロサ」(2階)と「セレサ」(地下)の2館が残り、同会館にテナントとして入居、再オープンした(のちに、地下もあわせて「シネマ・ロサ」となる)。 「1990年代半ばまでは、2階でB級アクション映画を、地下で主にヨーロッパのミニ・シアター系作品をかけていました。どちらも2本立て興行でした」 と歴史を語ってくれるのは、「シネマ・ロサ」支配人の矢川亮さんである。 「しかし、次第に“名画座2本立て興行”が、ダメになってきたんです。そこである時期から新作ロードショー館に切り替えました。そして、年に数回、ゴダールやトリュフォーなどの名作をレイト・ショーで特集上映していたんです」 やがて、映画界にもデジタルの波が忍び寄ってくる。それまで映画学科の学生やマニアたちは、自主映画を8mmや16mmの「フィルム」で制作していた。それが、もっと手軽な「ビデオ」で制作できるようになったのだ。 「そのころ、当館でもビデオ・プロジェクターを購入したんです。それをもっと活用しようということになり、自主映画の上映会を開催するようになりました」 そんなある日、かつて「シネマ・ロサ」でアルバイトしていた若者が、さる自主映画に端役で出演した、その作品が映画祭で賞をとったので、ぜひ上映してほしいといってきた。 「それが、冨永昌敬監督の作品で、彼が水戸短編映像祭でグランプリを獲得した直後でした。素材はDVカムだという。『それならうちで最近、上映機材を買ったから、かけられるよ』と、レイトの1週間限定で上映しました」 冨永昌敬監督は、昨年公開の『白鍵と黒鍵の間に』(出演:池松壮亮、仲里依紗、森田剛ほか)が話題になったばかりだ。 「その冨永監督の紹介で上映したのが、日本大学芸術学部映画学科の後輩、入江悠監督の作品です。同じく日芸出身では、沖田修一監督の自主映画も上映しています」 入江悠監督は、「SRサイタマノラッパー」三部作(2009~2012年)や、現在公開中の「あんのこと」(出演:河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎ほか)などで知られる。沖田修一は「横道世之介」(2013年)、「さかなのこ」(2022年)などの監督だ。 「正直いって、どれも(観客の)入りは、それほどではありませんでした。しかし、そのうち、『シネマ・ロサは、自主映画をかけてくれるようだ』との噂が広まり、自主映画の上映が増えるようになりました」 実は「シネマ・ロサ」では、自主映画の上映については、会場レンタル費をとる、いわゆる“箱貸し”は、おこなっていない。あくまでも歩合制で、費用は入場者数次第。映画館も制作者側とともに、リスクを負う形をとっているのだ。このあたりも、自主映画の世界で信用を得ている理由のひとつかもしれない。