パイロットの飲酒問題、なぜ繰り返される? 2030年問題が迫る航空業界、その危機と安全確保に必要な対策とは
限られたパイロットで支える航空業界
そのため、航空各社はパイロットの飲酒対策に尽力しているが、ここで問題になるのは、 「パイロットの数が不足している」 という点だ。もし、乗務予定のパイロットが規定外の飲酒をしていた場合、アルコール検査を実施し、検査でアルコールが検出されれば、そのパイロットを乗務から外すことに問題はない。実際、飲酒ではなく、マウスウォッシュなどが原因で検査機が誤作動を起こすという問題もあり得るが、検査手順を見直せば解決可能だろう。 しかし、パイロットが乗務をキャンセルされた場合、簡単に飛行機を欠航させるわけにはいかない。例えば、東京~札幌線や東京~福岡線のように便数が多く、他の便で乗客の振り替えが容易な路線は少ない。特に国際線では、振り替えができる便が翌日以降になることも多く、競合他社が同じ路線を運航していれば、そちらに振り替えることも考えられるが、航空会社にとっては大きなコストがかかる。 また、不測の事態に備えて予備のパイロットを空港に配置することにはコストがかかり、人的余裕もない。代わりのパイロットを手配する場合、海外で問題が起きれば日本から派遣する必要があり、これが原因で遅延や欠航が発生することもある。 こうしたイレギュラーな事態が発生すると、他の路線の運航にも影響が及ぶ可能性がある。航空各社は限られたパイロットで運航を回しているため、このような問題が生じるのだ。
プライバシーと健康管理の葛藤
国際線の運航では、時差の影響で体調管理が難しくなることがある。 特に翌日の勤務に備えて良質な睡眠をとることが重要だが、寝付けない場合、睡眠導入のために飲酒することがある。飲み始めると節度を保つのが難しくなり、深酒してしまうことも考えられる。会食の場では、周囲の雰囲気に流されて過度に飲みすぎることもある。 パイロットの飲酒が運航に与える影響は大きく、メディアで頻繁に取り上げられる。このため、パイロット自身がその重要性を認識し、ルールに則った飲酒を心がけることが求められる。しかし、完全に守りきれないのは、 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」 という心理が働くためかもしれない。航空会社特有の問題と人間の性(さが)が重なることで、決定的な対策を講じるのは難しい。 今後、パイロットの飲酒に関する規定を厳格に守らせるためには、 「ウェアラブル端末」 を活用し、会社が日々の体調管理を徹底することを考慮すべきだ。現在、体調管理用のウェアラブル端末は非常に高度な機能を備え、3000円程度で導入可能だ。 ただし、こうした機器の導入には、会社が労働者の管理体制を強化し、プライバシーを侵害しているとの批判も強い。確かにその面も否定できないが、「プライバシーの侵害がどこまでに当たるか」を定義することは難しい。そもそも、在職中の健康管理は、退職後も健康な生活を送るための基盤を作るものとして、積極的に評価されるべきではないだろうか。 運航前点検だけでなく、日常的な健康管理を強化することが、パイロットやその他の職種にとって重要だと考える。
戸崎肇(経済学者)