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逆イールドはリセッションの警告ではなかった

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 「逆イールドのリセッション警告、もう古い-市場は来年の正常化見込む」との記事がブルームバーグにアップされた。

 今年の8月、米10年債利回りが2年債利回りを下回ったことが話題となっていた。それ以前に米国では長短金利の逆転現象が起きていたが、10年債利回りと2年債利回りの逆転現象が金融危機前の2007年以来ということで、あらたな金融危機の懸念、もしくは、これはリセッションの兆候ではないかと市場ではみられていた。

 長短金利の逆転は過去、2000年や2006年にも起きており、ITバブルの崩壊やサブプライムローン問題を受けてのリーマンショックなどによる景気後退の前兆とされた。長短金利が逆転したからといって絶対に景気後退が起きるわけではないものの、市場ではこれに過度に敏感となり、2年債利回りと10年債利回りの逆転現象にも大きく反応した。

 しかし、8月の10年債利回りと2年債利回りの逆転現象は景気の減速を見越したものというよりも、中央銀行の金融政策による影響度の違いやリスク回避による中期債と長期債の感応度の違いなどが大きく影響していたと私はみていた。

 短期金利は当然ながらFRBの金融政策の影響を受けやすい。7月にFRBは利下げを決定したものの、2018年12月のFOMCまでは正常化に向けた利上げを継続していた。このため短期金利も上昇していた。しかし、米中の貿易戦争の激化への懸念などからリスク回避の動きを強め、さらにそれによる世界経済への悪影響も意識されたことで、長期金利は急速に低下した。それに対して中期や短期の金利は政策金利に支えられる格好で高止まりした結果、逆転現象が生じた。

 しかし、米中の通商交渉の進展が期待されるようになり、英国の合意なきEU離脱の懸念もいったん収まるなどしたことで、リスク回避の反動によって長期金利は上昇基調となって、長短金利の逆転現象は解消された。

 今回のブルームバーグの記事によると、「米中の貿易合意がまだ成立していないことを踏まえれば、世界経済の不透明性が晴れたと言い切る人は誰もいないだろう。それでも短期債に対する長期債利回りスプレッドが拡大するとの見通しは、ウォール街では来年最も有望な投資戦略の一つとみなされ」ているとしている。

 米中の通商交渉の行方に楽観視は禁物であることは重々承知はしている。しかし、ここにきての米国やドイツ、さらには日本を含めての長期金利の動きを見る限り、2018年はじめあたりからの低下トレンドが終了したようにもみえる。次に動きとしては行き過ぎた低下の反動による上昇との見方もできると思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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