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「男性の産休」新設が決定──男性の育休・産休取得の課題について、みんなはどう考えた?

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6月中旬に閉会した国会で成立した、改正育児・介護休業法では、子どもが生まれた直後に、父親に限って通常の育休とは別に取得できる「男性版産休」制度が新設された。法改正によって、国は男性の産休・育休の取得を促進したい考えだが、そのためには課題も多い。Yahoo!ニュースがユーザーにコメント欄で意見を求めたところ、1000件を超えるコメントが寄せられた。コメント欄からは、家計を支える男性の収入が減ることへの不安や、取得しても家事や育児をしないのではないかという不信感、休んだ人の仕事をやる人がいない現状などが見えてきた。(6月3~9日のコメント、計1013件を基に構成)(監修:労働・子育てジャーナリスト・吉田大樹、デザイン&イラスト:曽我部花実/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

議論の前提は?

今回の法改正で新設された「男性版産休」制度では、父親に限り、子どもが生後8週になるまでの期間に最大4週間の休みを取得できるようになる。2回に分けて休むこともでき、子どもの出産時と退院時にそれぞれ取るといったことも可能に。2週間前までの申請で取得でき、休業中は以前から予定されていた仕事をすることもできる。2022年秋ごろに導入される予定。

職場での課題は?

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働く現場から多く寄せられた課題は、休んだ人の分の仕事を誰がやるか。「運送という仕事は一人が産休を取ることで、交代要員の人件費が発生し、その人件費は売り上げから補填する」「零細企業はギリギリの人数でやっているところが多い」などの声があった。子どもがすでに中高生になった人は「心が狭いのはわかっているけど、しわ寄せが来るのは嫌だ」とコメント。「独身者からしたら、人員補充なしに穴埋めさせられると思うとモヤモヤする」という率直な声も。職場の理解のなさを訴えるコメントも見られた。「夫が年末年始と合わせて2日育休を取ろうとしたが、総務から『ボーナスの査定や上司からの心証が悪くなってもいいならどうぞ』と投げやりに言われた」との体験も寄せられた。

家庭での課題は?

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家庭での課題として、「男性が産休・育休を取ったとしても、育児や家事をしないのでは」と指摘する声が多かった。「取る前に、どんな形で奥さんや赤ちゃんをサポートできるか、研修を受けてほしい。遊ぶだけとか、かえって奥さんに負担をかけてしまう男性が一定数出て、逆効果になりかねない」との意見が。
「男性は仕事、女性は育児」といった性別役割分業に基づいた考えや、「男性に育児は難しい」といった固定観念にひもづいたコメントも多くあった。「男性の育休は、意味がないし、男性が手伝っても女性は納得しない。逆に男性は家庭の中で邪魔扱いされるだけ」のようなコメントが散見された。
「長男が奥さんとともに1年間育休中」という60代女性は「夫は大変に批判的。男として仕事に対する姿勢がなってないという。私は0歳児の育児の大変さをわかってないと主張した」とコメント。世代間のギャップもうかがえた。

制度上の課題は?

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制度上の課題として、最も多かったのが収入減少への不安。「給料が満額出ないなら、夫には取らせたくありません」などの声があがった。男性が家計を支えている場合、生活費の減少はハードルになりそうだ。
企業側に特にメリットがないという声も目立った。「一定以上の取得率を達成した企業には、その年度の法人税を軽減する。中小零細になるほど減税幅を大きくし、中小企業の取得率アップを促進したら」といった提案も。
取得する人としない人の不公平感の是正を訴える声も目立った。「『家族休暇』として家族構成にかかわらず使えるようにすれば公平」といった指摘があった。
まとまった休みではなく、急な子どもの発熱時などに帰宅できる、柔軟な働き方を求める声も多数見られた。「1歳になるまで週休3日にするとか、柔軟に休暇が取れるようにするほうが男性側も取得しやすいと思う」との意見があった。

男性の育休の現状は?

厚生労働省の調査では、民間企業での男性の育休取得率は2019年度で7.48%にとどまる(女性は83%)。政府は2025年に男性の取得率30%を目標に掲げている。また、取得期間に関しては、女性は9割近くが6カ月以上となっている一方で、男性は5日未満が36.3%、8割が1カ月未満となっている。

ちなみに男性が育休を取らなかった理由は...?

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出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング 「仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(平成30年度)

新制度の主なポイントは?

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新制度のメリットとリスクは?

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一定期間、子育てに専念することで、家事を含めて夫婦でノウハウや大変さを共有でき、子育てに関わる姿勢や気づきが得られる。一方で、職場でのコミュニケーションや休業取得中の体制づくりなどを整えておくことが必要。また、育休取得に伴って解雇をしたり、不利益な取り扱いをしたりすることは禁止だが、それでも職場復帰した際に、人事考課等で不利益な評価(いわゆるパタニティーハラスメント)を受けるのではないかという懸念もある。

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男女の雇用や待遇差の是正につながり、社内制度や職場の理解を啓発するうえでのきっかけにもなる。さらには働きやすい企業であることのアピールにもなるため、良い人材を確保するにも効果的だ。一方で、過去に育休を取得できなかった先輩従業員の不公平感や、引き継ぎがうまくいかなかった場合、仕事の負担が増えたことによる不満などから労働環境の悪化が懸念される。また、中小企業では産休・育休取得者の代替としての人材確保などが難しく、助成金の活用など対策が必要。

海外の育休制度は?

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出典:厚生労働省「雇用均等基本調査」、『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』(小室淑恵、天野妙著・2020年・PHP新書)など

ユニセフの報告書「先進国の子育て支援の現状」によると、有償の育休期間で世界と比較した場合、実は日本の男性向け育休制度の手厚さは、世界一(満額換算で30週間に相当)の評価を受けている。だが、上の図のように日本の男性の育休取得率は、諸外国と比べて低水準にとどまっているのが現状(フランスは2021年7月から義務化になるため100%に、それ以前も7割近くが取得している)。今後、どう取得につなげるかが、国や企業、働き手の課題になっている。

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内閣府が2020〜21年に行った国際意識調査によると、「子どもを生み育てやすい国だと思うか」という問いに97%が「そう思う」と回答(日本は「そう思わない」が約6割)。少子化社会への問題意識も以前から強く、積極的に対策に取り組んできた。そのため一時は1.5台まで落ち込んだ合計特殊出生率が、2000年代後半までに1.9台まで改善しているところにも効果が見られる。両親で合計480日の育休取得が可能で、うち90日は相手に譲ることはできないため、必然的に取得率が増加した。経済的な負担面でも、給料の80%が保証されている。

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マクロン大統領の肝いりで、2021年7月から、父親は最低7日間の育休取得が義務づけられた。最長25日間の取得が可能で、この間は収入の全額が保証される。これとは別に子どもの誕生前後に3日間の「誕生休暇」も取得可能で、合計すると約1カ月間の育休が可能に。ちなみに取得義務に違反した企業は、一人あたり7500ユーロ(約95万円)の罰金が科せられる。

教えて!「男性版産休」みんなのギモン

コメント欄で多かった疑問について、労働・子育てジャーナリストの吉田大樹さんが解説します。

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吉田大樹(よしだひろき)/NPO法人グリーンパパプロジェクト代表理事。現在、内閣府「地域少子化対策重点推進交付金」審査員、厚生労働省社会保障審議会児童部会「子どもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会」委員、東京都「子供・子育て会議」委員などを務める。

Q. 取得したら収入が減ってしまうのでは?

A. 育休中は、会社から支給される「給料」はもらえませんが、雇用保険から所得補償として「育児休業給付金」がもらえます。取得後最初の半年間は、休業前の6カ月間の平均月収の67%が支給され、総支給額なので通勤・残業など各種手当も含まれます。非課税のため住民税・所得税の負担額も減り、社会保険料も免除されるので、およそ8~9割の所得がカバーされます。

Q. 取得したら人事考課で不利益を被るのでは?

A. 実際に育休を取得したことで退職を求めたり、昇進や昇格をさせないなど、いわゆるパタハラをすることは、育児・介護休業法違反になります。男性が育児や家事に積極的に関わっていくことに否定的な社員の意識を変えるよう、組織や企業のトップが毅然と明示することが必要です。そうすればより良い人材が集まり、企業にとってもメリットとなるのではないでしょうか。

Q. 父親は子どもを産めないし母乳も出ない。生まれたばかりのときは男はやることがないのでは?

A. これまで産休制度は、母体保護という観点から女性だけに対応する制度として成り立っていました。一方で、産後うつなど母親のケアをするために父親が育児・家事に専念する期間を設ける必要性もいわれてきました。育休は決して単なる「休み」ではなく、育児に専念するということ。早い段階から子育てを夫婦一緒にして大変さやノウハウを共有していくなかで得られることがありますし、夫婦ともに意識を変えていくきっかけとなります。

吉田大樹さんのアドバイス

今回、政府が打ち出した男性版産休制度は、柔軟な育休取得の枠組みを創設したという点で評価できますが、父親をめぐる課題の一つに過ぎません。社会の視点から考えると、自分の家の中だけの子育てではなく、学校や地域などのコミュニティーにおいてみんなで育て合う感覚を持つことが必要です。しかし、「仕事」を理由にして多くの父親は家の塀を乗り越えようとはしません。育休という点から線を伸ばし、いかに次の点へとつなげていくかがカギとなります。

男性の意識を根本から変えていくためには、教育機関をあげて早い段階から父親の育児を当たり前のものとして教育したり、男性の育休制度の認知度をもっと上げていくべきだと思います。産休・育休の取得はあくまでスタートライン。国も企業も社会も、どうすれば父親が主体的に子育てに関わっていけるのかを本気で考える時期なのではないでしょうか。

育休、先に取った人たちからのコメント

コメント欄には、育休をすでに取得したという貴重な声も寄せられた。主体的に育児に取り組もうとする男性の意見とは?

1人目の意見

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未就学児2児の父親です。2回の出産直後に2週間以内の育休取得をしましたが、その後の仕事の融通にも耐えられる家庭円満に寄与し、非常に有効な休暇でした。このようなメリットを、上司やパパになる人が感じる事が重要かと。職場での引継ぎや個人で抱える業務の一般化、他のメンバーに充分サービスしておく、といった準備をした事が、取得に障害がなかった決め手だったとおもいます。

2人目の意見

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俺は1年取った。職場のみんな、上司は受け入れてくれた。さっそく人員を補充したようだ。休暇後に戻れば職場は拡張するか、俺は適切な部署に異動になるだろう。居場所がなくなったら俺はその程度の人材なので、別の仕事も検討する。取った以上全力で子育てをしている。目標は妻にマタニティーブルー、産後うつを発症させないこと。そして、現在3カ月で順調だ。お金の面では窮屈ではあるが、給付金でやりくりできるよう前もって準備もしていた。
取りもしないでできないと言うのは簡単だ。出世に響くと言うが、家族と出世、どっちが大事なんだ?出世は自分のためでなくて家族のためのはずではないのか?そして、その不安は全ての女性が受け入れていることを男は自覚すべきだ。

記事作成の基となった記事はこちら。【みんなで考えよう】「男性の産休」新設が決定、男性の育休・産休取得を増やすには?

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