解説本件は、母親に対する傷害罪(殺意があれば殺人未遂罪=以下略)が成立することはよいとして、子供に対する傷害罪が成立するかどうかは、難しい問題です。すなわち、犯人が攻撃した時点では、子供はまだ傷害罪の客体である「人」として存在していたのではなく、ただ胎児の間に受けた攻撃がもとで傷を負って生まれてきたことから、なおも人に対する犯罪の成立を認めてよいかどうかが問題となるわけです。 本件はブラジルで起きた事件であり、同国の刑法で対応されるのですが、日本では、「胎児傷害」として、特に水俣病刑事裁判をきっかけに、今なお議論されている問題です。同事件の第1審は、犯人の攻撃時点で必ずしも人として存在している必要はないとして、有罪としました。最高裁は、有罪の結論を認めつつ、胎児も母体の一部であり、人に対する攻撃から人に対する傷害が生じているとして、説明を変えたわけです。学説では、無罪説も有力です。
コメンテータープロフィール
旅行会社勤務を経て29歳で立命館大学に入学し、3年生の時に司法試験に合格。卒業後は京都大学大学院法学研究科に進み、刑事法を専攻。2005年に近畿大学法学部専任講師となり、現在は教授。2011年から2012年にかけて、ドイツ・アウクスブルク大学客員教授を務める。専門は刑事法全般(特に刑事訴訟法)。著書は、『刑事訴訟法』、『刑事手続における審判対象』、『刑事弁護の理論』(全て単著)。法学博士。趣味は洋画鑑賞、水泳、見る将(大山・中原時代からの筋金入り)。
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