見解刑事裁判権の免除などに代表される「外交(官)特権」は、それまで国際慣習法として確立していたものですが、1961年の「ウィーン条約」で、国際条約として明確に定められています。 元参事官は、現在は外交官の職を解かれています。もっとも、任意捜査の段階で帰国すること自体は、外交官ではない通常の人の場合でも直ちに違法になるわけではなく、シンガポールとの間で「犯罪人引渡条例」のようなものがあるわけでもありません。それでも、大使館ルートを通じた再来日要請に応じたのは、今後の良好な外交関係の維持などを考慮した、シンガポール当局の政策判断があるのでしょう。 被疑者は容疑を認めており、身柄は拘束されず、捜査書類のみを検察官に送る「書類送検」となりました。起訴猶予(不起訴)の可能性も高く、起訴されても略式・罰金刑にとどまるでしょう。それでも、適正な刑事手続を踏まえたことの意義は大きいといえます。
コメンテータープロフィール
1969年愛知県生まれ。東京都立大学法学部卒業、博士(法学・東京都立大学)。専門は刑事法。近年は情報法や医事法にも研究対象を拡げている。著書として『放火罪の理論』(東京大学出版会・2004年)、『防犯カメラと刑事手続』(弘文堂・2012年)、『現代社会と実質的刑事法論』(成文堂・2023年)、『アメリカ刑法』(訳・レクシスネクシス・ジャパン・2008年)など。
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