Professional2020.12.01

「自由」に発信できるYahoo!ニュース 個人、記事の質や信頼性はどう担保? 編集部の取り組み

コロナ禍で、速さとともにニュースの正確性に注目が集まっています。専門家ら個人の書き手が独自の視点でニュース記事を執筆・発信しているYahoo!ニュース 個人でも、新型コロナウイルスに関するさまざまな情報を届けてきました。

Yahoo!ニュース 個人では、専門知識に基づいた記事という決まりはあるものの、公開時期や記事の内容はオーサー(書き手)の自由だそう。自由に発信ができる反面、どのように記事の質や信頼性の担保をしているのか、Yahoo!ニュース個人編集部の西出佳子さんにつづってもらいました。

タイムリーさと質の高さ・独自性を兼ね備えた記事をユーザーに

Yahoo!ニュース 個人(以下、ニュース個人)は、各分野の専門家であるオーサー(書き手)が、その専門知識をもとにニュース記事を執筆・発信するプラットフォームです。2012年9月のサービス開始時は約50名だったオーサーは現在では約650名まで増え、約25名の編集メンバーでオーサーのみなさんの発信をサポートしています。

ニュース個人の仕組みで特徴的なのは、オーサーが自分でテーマを決め、自分の好きなタイミングで事前チェックなく記事を公開できることです。ニュース個人はもともと、専門知識と発信意欲をもった個人の書き手が自主的に活動できる場をつくり、その情報発信を支えたいという思いでサービスをスタートしており、オーサー自身に公開の判断を委ねるスタイルは一貫して変えていません。

一方で、事前チェックのない記事の質をどう担保するかについては、サービスを運営しながら検討を重ね、仕組みをひとつずつ作り上げてきました。サービス開始2年後の2014年には、発信にあたって共有したい方向性と守ってほしい禁止事項などをまとめた「オーサーガイドライン」を策定。また参加時に執筆範囲を事前に取り決めてオーサーと合意し、明文化することを必須としました。そして公開された記事は編集部ですべてに目を通し、誤脱字等の連絡をしたり、ガイドラインや執筆範囲を逸脱する内容があった場合には修正・削除依頼等を行ったりしています。

これらの仕組みによって、タイムリーさと質の高さ・独自性を兼ね備えた記事をユーザーに届けることを目指しています。

コロナ禍で直面した医療に関する情報発信のリスク 急遽定めた新たな「ルール」

このように記事の信頼性を保つための工夫は重ねてきましたが、新型コロナウイルス感染症のニュースが報道され始めてからは、新型コロナが「未知のウイルス」であることも相まって、医療についての専門性のないオーサーが情報発信することにより生じるリスクと新たに直面しました。

生じたリスク(一例)
・医学論文の情報を独自解釈して伝えてしまうこと
・症状について海外の少ない事例のみで注意喚起し不安をあおってしまうこと
・死者数の国別の比較が同条件でなくミスリードを誘ってしまうこと

新型コロナに関する情報で市民に混乱を招いた例として、8月に大阪府知事が「うがい薬は新型コロナの治療効果が期待できる」などとしてうがい薬の使用を呼びかけたことで、うがい薬が薬局の棚から消え、高額で転売されるという騒動が起きたことを思い出す方は少なくないのではないかと思います。

ニュース個人の記事をきっかけにこのようなインフォデミックとも言える事態を引き起こすことは避けたい。そこでリスクを抑えるために急遽、医療を専門領域とするオーサー数名にもヒアリングさせていただいたうえで、以下のようなルールを定め、オーサー全員にお伝えしました。

禁止事項(一部抜粋)
・医療を専門領域とするオーサー以外が新型コロナウイルスに関連する医学的内容を発信すること
・医療を専門領域とするオーサー以外が新型コロナウイルスに関する最新研究など論文や治験情報の記事を発信すること
・医療政策に関する記事は医療を専門領域とするオーサー以外も執筆を許容するが、複数の専門家に取材し両論併記にすること

これによってリスクのある記事は減りましたが、時折、抵触した記事が投稿されることもありました。その際はオーサーに連絡するなどして記事の修正依頼や削除などの対応を取らせていただきました。

コロナ禍で発揮されたニュース個人の強み

以上のようにコロナ禍での情報発信の仕方においては試行錯誤の連続でしたが、一方でオーサーの専門性を生かした記事をタイムリーに届けるというニュース個人の強みを再確認できた場面もありました。

ニュース個人の記事は基本的にはオーサー自身がテーマを考えて執筆していますが、オーサーの発信をサポートするため、編集部からも随時執筆テーマの提案を行っています。台風接近などによる災害の懸念がある際や、五輪のような大きなイベントがあるタイミングのほか、SNSで話題の事柄などもチェックし、読者の関心度が高そうなテーマについて、編集部から各専門ジャンルのオーサーにお声がけをして執筆をご提案しています。

写真:台風10号時に気象予報士・饒村曜さんに提案し生まれた記事。ネットでの情報入手が得意でない高齢者に電話で情報を伝えることを呼びかける内容

新型コロナに関連する執筆テーマは、ほぼ間断なくオーサーにご提案してきました。書いていただきたいテーマは無数にありました。住宅ローンが払えない場合どうしたらいいのか、電車通勤時に気をつけたいこと、自粛しない人から遊びに誘われたらどう対応すべきか……。刻々と事態が動くなか、オーサーのみなさんには多くの記事を迅速に執筆、発信いただきました。

特に記憶に残っている記事の一つが、感染症専門医の忽那賢志さんに執筆いただいた「蚊は新型コロナを媒介するのか?」という記事です。5月に編集部のメンバーから『蚊でコロナはうつらないの?って書いていただけますかね?』とアイデアが出て忽那さんにご提案し、提案から約5日で記事を公開いただきました。

写真:忽那賢志さんの記事

実際に執筆いただいた記事の冒頭にもあるように、忽那さんは編集部からの素朴な提案に最初は驚かれたようでした。とはいえちょうど5月中旬から「コロナ 蚊」という検索数が増えており、今考えると臆せずご提案をしたことで、ベストなタイミングでユーザーに情報を届けることができたと考えています。

また、コロナ禍でのオーサーへの執筆提案のなかで、新しい取り組みによる記事も生まれました。

Yahoo!ニュースには、ユーザーがアンケートに答えることができる「みんなの意見」という機能があります。この機能を使って得られたデータを用いて作られた記事が、都市開発、地域再生をテーマに情報を発信している江口晋太朗さんの「『割と快適に暮らせています』新型コロナ移住した人たちの現状と模索【#コロナとどう暮らす】」です。

写真:江口晋太朗さんの記事

Yahoo!ニュースでは6月に「私たちはコロナとどう暮らす」という特集サイトを立ち上げましたが、この特集では、コロナへの悩みや不安を抱えるユーザーから「みんなの意見」や記事のコメント欄を活用して意見を募り、その声をもとにユーザーの疑問に答える記事を提供するという新たな試みがなされました。

オーサーのみなさんにもこの特集の公開をご案内したところ、江口さんから編集部に『テレワーク拡大で移住を希望している人が増えているかどうか、ヤフーで調べていませんか』とご質問をいただきました。このことをきっかけに、みんなの意見の担当者と内容をすりあわせて設問をつくりました。

写真:みんなの意見

アンケートの結果では2割以上がコロナをきっかけに移住を検討していることが分かりました。記事では実際にコロナをきっかけに都心部から地方や郊外に移住を体験した方たちに取材いただき、移住後の生活のメリット、デメリットなどを紹介いただきました。

「私たちはコロナとどう暮らす」特集には、コンテンツパートナーや社内のオリジナルコンテンツ制作部門からそれぞれの特徴を生かした記事が提供されましたが、ニュース個人では、ユーザーの可視化された意見にオーサーの専門知識を掛け合わせることで、質の高さと独自性を備えるニュース個人ならではの記事を届けられたと考えています。

オーサーに裁量が委ねられ自由に発信ができるニュース個人というプラットフォームで、どうしたら質が高く信頼できるコンテンツをユーザーに届けられるか、編集部は常に考えなければなりません。コロナ禍で新たに医療に関する情報発信のルールを設けたように、常に変わる社会の流れに対応し、ガイドラインの見直しなど今後も柔軟に対応していきたいと考えています。そして、ユーザーにとって役に立つ信頼性の高い情報をタイムリーに届けられるよう、オーサーのみなさんの情報発信を引き続きサポートしていきます。

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