Media Watch2016.12.28

紙でもネットでも。ニュースに欠かせない写真の「今」 (下)

写真/アフロ

後編では、前編とは違う角度で、ニュースと写真の「今」を探ります。Yahoo! JAPANのトップページにある「写真」とは。Yahoo!ニュース編集部 SNSチームと写真の関係は。
また、誰でも簡単にスマホで撮影できるようになり、SNSなどでアウトプットできるようになった今、プロのカメラマンが報道写真を撮る意味とは何か、前編に引き続き毎日新聞写真映像報道センターの皆さんにお聞きしました。

トップページのあの写真、どんな基準で?

パソコン版Yahoo! JAPANのトップページでは、Yahoo!ニュース トピックスの8本の横に「写真」が表示されています。
この写真は1日数回、Yahoo!ニュース編集部がその日に配信された写真の中から選んで掲載しています。1人のメンバーが候補となる写真を数枚選び、Yahoo!ニュース編集部のメンバーで合議して決定。Yahoo!ニュース編集部では、この作業を楽しみにしているメンバーも多いです。

どのような写真を選ぶのか。マニュアルのように決めてはいません。
しかし、Yahoo!ニュース編集部が選ぶ写真は、Yahoo! JAPANのトップページでも、Yahoo!ニュース トピックスのサムネイル画像でも、ユーザーが心構えできずに開いてしまうため、は虫類や昆虫類など苦手な人がいる分野は表示しないよう決めています。

米大統領選、勝利集会でのトランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

Yahoo! JAPANのトップページで、Yahoo!ニュース編集部が取り上げる写真の一例に、その日のニュースを象徴する写真があります。例えば、アメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利した2016年11月9日は、トランプ氏の表情やアメリカ国内での反応を撮影した写真をピックアップ。1日で、さまざまな角度から大統領選挙を伝えました。

しかし、そういった時事性の高い写真に並んでよく取り上げるのが、季節の風景や行事、その地域ならではのものが見える写真です。Yahoo!ニュース トピックスだけでは取り上げきれないものを、ぜひ写真で紹介したいという思いからです。

首都圏に初雪、11月と早すぎる観測(写真:ロイター/アフロ)

パソコン版Yahoo! JAPANだけで見ることができる写真ピックアップですが、スマホ版のYahoo! JAPANでも写真を活用している例があります。ユーザーにお正月の雰囲気を感じてもらおうと、2015年の元日の朝に撮影された初日の出の写真をトップに大きく掲載しました。Yahoo! JAPANアプリでも、ニュース性が高い写真は大きく目立たせる工夫もしています。

SNSではより「ビジュアル」が重要に

2015年3月、Yahoo!ニュース編集部のSNSチームリーダー田中郁考がnews HACKに書いた「なぜチバットマンは錦織・長友・羽生よりもシェアされたのか~Yahoo!ニュース公式Facebook」。

ここでは反響を呼んだ投稿からSNSでの「バズる」を考察。写真(画像)に特化した、以下のような記述があります。

テクニカルな面でも、運用を続けるなかでさまざまな発見がありました。たとえば、昨年(編注:2014年)7月は複数枚の画像を付ける投稿の効果を測定してみました。その結果、複数枚の画像付き投稿は、平均いいね数が7月の全体平均の152%、平均シェア数が131%であり、大きな効果があることが分かりました。

Yahoo!ニュース編集部のSNSと写真の関係には、どんな変化があったのでしょうか。
田中は「Facebookでは画像複数枚付きの投稿の優先度が下がっています」と指摘。「アルゴリズムの変化で、Facebookでは写真より動画の必要性が増しています。今は写真を投稿する際は、現在は動画に近いスライドショーを原則にしています」

体操男子団体で、日本が3大会ぶりに悲願の金メダルを獲得しました。決勝戦、勝利への軌跡を振り返ります。(写真:ロイター/アフロ)⇒ http://yahoo.jp/YmNYS5

Yahoo!ニュースさんの投稿 2016年8月8日

SNSチームではリオ五輪の際、Facebookのスライドショーの投稿数を強化。結果、普段の投稿よりもシェアの1日平均が大きく伸び、リーチ数も高い結果になりました。

「Facebookの動画の特徴は9割が無音で再生されること。一般的に、スマホは移動中に見ることが多く、音の優先度が低いと考えています。そのため、Yahoo!ニュース 特集の字幕つき動画などを投稿しています。一方で、Twitterは写真1枚の投稿も変わらず有効です」

試合直後、その目には涙。 モンフィスとのフルセットの激闘を制し、錦織が初の五輪4強です。(写真:ロイター/アフロ) ⇒ http://yahoo.jp/6qqBWq 写真特集→ http://yahoo.jp/4-IF6V

Yahoo!ニュースさんの投稿 2016年8月12日

「SNSのタイムラインは流し読みするものなので『いかに手を止めてもらえるか』が大事です。スポーツに限らず社会的なニュースでも、ユーザーが反応するのは感動的な場面や写真の人物の感情が伝わる、いわゆる『エモい』(エモーショナル)ものが多いですが、いずれにせよ文字より先に目に留まるのは画像や動画。ニュースのファクトの強さ以上に『ビジュアル』の力でシェアが伸びる場合も少なくありません。

SNSではビジュアルでニュースを伝える場面がますます広がっています。写真や動画、インフォグラフィックスなど表現の自由度も上がり、新しい見せ方も開拓できると考えています」

【写真特集4枚】オバマ大統領が、現職米大統領として初めて広島を訪問しました。被爆者の森重昭さんを抱き寄せる一幕も。(写真:ロイター/アフロ)

Yahoo!ニュースさんの投稿 2016年5月27日

ビルの写真で世の中の関心が分かることも

毎日新聞でも、SNSで写真を活用した投稿をしています。写真映像報道センターの公式Twitterアカウントは、前編で取り上げたMAINICHI PHOTOGRAPHYへの誘導にもなっています。

多くリツイートされた写真の一例はこちら。
リオ五輪の陸上男子400メートルリレー。アンカーのケンブリッジ飛鳥選手をジャマイカのウサイン・ボルト選手が「チラ見」する一コマです。

2016年 東京写真記者協会賞グランプリ 「実力の銀 ボルトも驚く日本のリレー」梅村直承撮影(毎日新聞社提供)

銀メダルの快挙を表す、象徴的な場面でした。
写真映像報道センターの森田剛史さんによると、リレーがスタートした5分後には写真が現地から届き、送られてきた60数枚の写真から選んだ30数枚を写真特集としてサイトにアップ。この一枚が届いた際は「これはすごい写真だ」と感じ、Twitterですぐに投稿。森田さんの予想以上に、多くのユーザーから反響がありました。

また、大手広告会社「電通」の過労自殺問題で、電通が本社ビルを午後10時から午前5時まで一斉消灯するというニュースを受け、照明の消えた本社ビルの写真を数枚の写真特集にして投稿。すると、深夜帯にも関わらず多くのユーザーにリツイートされました。電通の本社ビルをめぐっては、一般ユーザーが早朝5時の様子を撮影した写真もSNSで話題になりました。

森田さんはSNSの投稿で、ユーザーの関心や反応がダイレクトに分かるようになったと言います。そのため、写真も反応を見ながら、研究して投稿しています。

「載せない」という選択

最近では、事件事故、災害の当事者がスマホで撮影した写真や動画を新聞紙面に掲載するケースも増えています。
被害者や容疑者などの顔写真を入手し、新聞紙面に掲載することはインターネットが登場するずっと以前から続いている重要な取材の一つです。

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

毎日新聞では、記者が現場で取材する際、必ず「写真や動画を撮っていませんか」と聞いた上で、「誰がどうやって撮ったものか」「使用していいのか」という確認も徹底しています。現場で入手することを徹底してから、SNSで投稿しているユーザーにメッセージで呼び掛けて提供を受けることはほとんどなくなりました。

難しいのは、提供を受けることよりも新聞社としてその写真や動画を世に出すかどうかの判断。写っている方のプライバシーも考えた上で、悩ましい判断は増えています。

毎日新聞社内で

「うちでは、ネットでは顔写真を原則として載せていません」

毎日新聞の場合、事件事故の容疑者や被害者の顔写真については、新聞紙面で掲載してもネットでは掲載しないことを原則にしています。写真映像報道センター長の佐藤泰則さんは「容疑者が匿名なのに被害者だけ実名という場合もありますし、最近ではむしろ、被害者の方が二次的な被害に遭うケースも多い。被害者に関しても掲載していません」と説明します。

ただし、重大事件や政治家などの公職者の場合は例外に。掲載の判断は、社会部や地方部などの出稿部門がします。ネットはアーカイブ文化。「忘れられる権利」への配慮の一つとしてこのような対応を選びました。

誰でも撮影できる今、プロは

スマホのカメラ機能も向上し、新聞紙面に載せてもテレビで放送しても遜色ないクオリティになっています。誰でも撮影することができるようになった今、佐藤賢二郎デスクにはある懸念があります。

「昔は現場で写真を集めていたんですが、今は動画しかなく、動画からキャプチャーして新聞紙面に掲載するケースも多い。じゃあ動画だけでいい、スチール写真のカメラマンはどうする?という議論に必ずなる。スチールカメラマンじゃないと撮れない写真がある、プロの存在意義をアピールしていけるかというのは、紙面でもネットでも当然同じです」

では、あえてプロが撮る意味とは。

「100枚撮ってもピークの瞬間はそんなにないんです。ピークの1枚が撮れているか。そこで勝負できなければカメラマンの意味がないと思っています」

2006年度 新聞協会賞「救い求め」パキスタン地震 佐藤賢二郎撮影(毎日新聞社提供)

このパキスタン地震の写真もピークを捉えた一枚でした。
「当時のカメラは1秒に7枚ほどしか撮れませんでした(編注:今は13~14枚。動画は秒コマ30枚ほどだそう)。この少女がこの仕草をしたのは一瞬で、10枚ほど撮ってこの1枚だけ。あらゆる現場でこういうことがあります。この写真を見た人が、10年後にパキスタン地震を思い出す。そういう写真を常に撮る努力をするのが一流のカメラマンで、スマホでも同じとなってしまったら職業として成立しない。

カメラマンが動画と写真を一緒にやるリスクはここにあります。
この瞬間を押さえるためにはカメラのシャッターに指を置いて現場を見続けないといけない。限られた時間と要員で、どう両立させていくかは最大の課題です」

分かりやすくない写真だから伝わる

写真映像報道センター長の佐藤泰則さんは、佐藤デスクが撮影したパキスタン地震の少女の写真について、ある「読み違え」があったことを明かしました。

「少女の写真にはガレキなどの被災地の状況はほとんど写っていない。けれど、この写真には写真としての力が一番あったことが僕らには分からなかったんです」

当時の写真部は、被災地の様子がよく分かる別の写真を新聞の一面に掲載。しかし、新聞協会賞に出品した6作品の中で、予想と違ってこの少女の写真だけがどんどん「一人歩き」し、受賞に繋がったといいます。

「救助ヘリに乗り込んだ重傷の被災者ら」佐藤賢二郎撮影(毎日新聞社提供)

撮影した佐藤デスクは「木枯らしが吹けばマフラーを巻いて寒そうにしている人が新聞紙面に載る。反射的になんの写真か分かるものは、新聞らしい写真と言えますが、それだけではおもしろくないとカメラマンは思っている。分かりやすいものではないけど、伝えられる写真は撮れないかとパキスタンではずっと考えていました」

カメラマンの視点が伝えるものは

熊本地震の写真で新聞協会賞を受賞した

毎日新聞は2016年4月に発生した熊本地震の写真で新聞協会賞を受賞しました。しかし、娘の遺体と対面し、泣き崩れるご両親の写真に「なぜこんな悲惨な場面を撮るのか」という声もありました。海外のメディアと違い、日本の報道機関が遺体の写真を掲載することはありません。一方で、悲惨に見える写真の奥では、もっと悲惨な現実があることも事実で、それを写真でどう伝えるかというのは難しいことです。

写真映像報道センター長の佐藤泰則さんによると、この写真は遺族の了解を得た上で新聞紙面に掲載し、新聞協会賞にも申請しました。
「撮影した和田大典記者の写真には、熊本地震で被災して、長く車中泊する方、テントの中、ビニールハウスで一夜を過ごす方の姿もあります。熊本地震の深さや現状を伝える、カメラマンの視点がなければ撮れない写真です。決定的な瞬間で仮に負けたとしても、カメラマンの視点は必ず必要なものだと思います」
森田さんもこう続きました。
「なかなか簡単にはアクセスできないものも世の中にはあります。粘り強い人間関係を作らなければ撮影できない写真や、伝えなければいけない社会問題なのだけれど、こういう仕事でなければ撮ろうと思わない写真もある。カメラマンが問題意識をもって自分の視点で伝えることに価値はあると思います」

2016年 新聞協会賞「近隣住民が集まって一夜を明かしたビニールハウス」 和田大典撮影(毎日新聞社提供)

写真映像報道センター長の佐藤泰則さんは、福島第1原発事故の現場に部員を出して撮影したことも一つの決断だったと言います。
「放射線量を見つつ、部員を現場に出すことは悩みました。しかし、当時そこに行くのはメディアの人間しかいなかった。僕らが行かなければ出ない写真です。あんな事故があって、東電の提供写真だけで伝えていいのか。悲惨な場面ばかりを狙っているわけでは決してないんです」

2012年2月、冷温停止後に初めて報道陣に公開された福島第1原発(写真:ロイター/アフロ)

編集後記

写真の「今」に迫る企画をするにあたり、記事の内容がより深まるよういろいろな写真を配置し、特にスマホでの見られ方を意識して編集しました。パソコンでご覧いただいている方も、ぜひスマホとの見え方の違いを比べてみていただけたら幸いです。
配信いただいている報道写真を取り巻く環境が、カメラの技術革新やネットで大きく変化している一方で、変わらないもの、誰でも撮影できるからこそさらに追求していくものがあることも分かりました。Yahoo!ニュースでも、カメラマンの皆さまの思いを大事にしながら、ユーザーに届けたいと考えています。

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