Media Watch2021.08.18

NHKの災害・減災報道担当デスクを、Yahoo!ニュース トピックスの編集部員が直撃! テレビとネットそれぞれの強みとは?

防災・減災報道はメディアの大切な使命の一つ。Yahoo!ニュースではこれまでも、単に災害発生時の情報を伝えるだけでなく、避難行動を促すための情報の届け方を試行錯誤してきました。

では、災害対策基本法で報道機関として唯一の指定公共機関に定められ、多くの人々の情報源を担ってきたNHKは、この使命に対してどう取り組んでいるのでしょうか? NHKの災害や減災報道を担当する金森大輔デスクに、気象予報士資格をもつYahoo!ニュース トピックスの編集部員、三宅真太郎が疑問をぶつけます。

※記事内容および対談者の所属は取材当時のものです

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

原体験は1986年に起きた三原山大噴火

Yahoo!ニュース 三宅真太郎(以下、三宅) 金森さんは、日頃からご自身の体験を踏まえた防災・減災の情報発信に積極的ですよね。まずは記者を目指したきっかけから教えていただけないでしょうか。

NHK 金森大輔さん(以下、金森) 私は都心から南方に約120キロ離れた伊豆大島の生まれなんです。父親は元警察官で新聞社の嘱託記者。実家は釣宿を営んでいました。周囲を海と自然に囲まれ、幼い頃から釣りをしたり山菜をとったり、のどかな生活を送っていました。

伊豆大島は中心に三原山を据える火山島です。つまり島民は皆、水害のほか、噴火のリスクとともに生きています。実際、よく釣りをしていたゴツゴツとした岩場について父親から、「これは昔、三原山が噴火した時に流れてきた溶岩なんだよ」と教えられたものでした。実家のそばの砂浜にしても、山に積もっていた火山灰が、土石流で流されてきたものです。

NHK取材ノート」より

三宅 災害が非常に身近な存在だったんですね。

金森 そうなのですが、三原山は「御神火様」と呼ばれ、守り神として崇められてきた存在なので、あまり深刻に考えたことはなかったんです。「噴火が命に関わる危険なもの」だと意識するようになったきっかけは、1986年11月21日。バリバリという轟音(ごうおん)と共に、三原山の一角が割れてマグマが吹き出し、1万人の全島民が一夜のうちに避難する、前代未聞の災害になりました。

記者だった父親はすぐに外へ飛び出していきましたが、島民たちはいざ燃え盛る火山を前にどうすればいいのかわからず、右往左往していたのを覚えています。避難所はあるけど、そこが安全とも限りません。要は、「どこそこが危ない」という情報は流れてくるけど、どこに逃げればいいのか、迫りくる溶岩をどう避ければいいのか、誰にもわからなかったんです。

金森大輔(かなもり・だいすけ)さん NHKの災害・減災報道担当デスクとして勤務。少年期に、出身地である伊豆大島・三原山の噴火を経験。

三宅 本当に必要な情報が得られなかった、と。

金森 はい。被災地にいる住民がほしいのは、災害にどのようなリスクがあり、どこに逃げたら安全なのかの情報です。でも当時は、テレビを見てもラジオを聴いても、どうやって身を守ればいいかという情報がまったく伝えられていなかったんですよ。これが、私が災害報道に携わる原点になりました。

三宅 なるほど。同じ災害担当でも、私の場合は金森さんのような迫真の体験はないのですが、人の命を守ることに貢献したいとの思いは共通していると思います。私はもともと医者志望だったのですが、三浪しても医学部に合格できず挫折していて……。

それでも何か人命に関わる仕事に就けないかと悩んだ結果、新聞記者という職業に思い至りました。報道から人々の暮らしや安全に寄り添いたいと考えたんです。

三宅真太郎(みやけ・しんたろう) Yahoo!ニュース トピックスの編集として勤務。新聞記者を経て現職。2020年秋に、気象予報士資格を取得。

金森 なるほど。重要なことだと思います。

災害情報を自分事として捉えてもらうための工夫

三宅 ちなみに私は、前職の新聞記者時代に長野県に赴任しており、御嶽山の噴火災害の取材を経験しました。金森さんは三原山の噴火からの避難体験が、今の仕事のどのような部分で生かされていると感じていますか?

金森 三宅さんも体験されてきたと思いますが、被災地ではどうしても、取材する側とされる側の温度感が大きく異なりますよね。「話を聞いてほしい」と思っている被災者の方もいますが、家族を失って話せないほどに傷ついている方も大勢います。こちらとしてはつい、「早くこの状況を世の中に伝えたい」と気持ちがはやりがちですが、それでは被災者の皆さんに寄り添っているとは言えません。

そんな時は、いったん目を閉じて、かつての自分の体験を振り返るんです。あの時、何を聞かれたら嫌だったか。本当に必要だった情報は何だったか。どんなに忙しい状況でも、いったん立ち止まって相手の立場で考えてみるよう心掛けています。これは、自分が被災者として災害を経験していればこそでしょうね。

三宅 なかには被災地を訪れたメディアの人たちが、地元の皆さんの迷惑になってしまうようなケースもありますよね……。例えば、東日本大震災の時も、限られた食料や物資を消費してしまう報道スタッフが問題になりました。そういう時に考えるべきは、それが「誰のための報道なのか?」ということだと思うんです。

私自身、新聞記者時代に災害で亡くなった方の写真を集めてまわる仕事の担当になった時、遺族の方から「別にこっちは載せてほしくないからほっといてくれ」と言われ、どうしていいのかわからなくなってしまったことがありました。では何が本当に必要な情報なのかと考えると、避難や生活再建などの行動につながる情報も丁寧に届けられるようになりたいと思うようになりました。

金森 同感です。今はとにかく情報があふれていますから、若い記者たちにもよく言うんです。その情報が被災者に届いた時、どう行動に結びつくかを考えなさい、と。ただ闇雲に情報を増やすだけではいけないですよね。もちろん、情報をしっかり行き届かせることが大前提ではあるのですが。

三宅 そうですね。情報をいかに届け、自分事化してもらうかが大切だと思います。Yahoo!ニュース トピックスでもいろいろと試行錯誤中です。例えば、見出しに「逃げて」とか「危険だ」といった口語の言葉を入れることで、できるだけ自分事として捉えてもらえるよう工夫しているんです。

ほかにも、台風の情報を伝える際に「祖父母に伝えて」という見出しのプッシュ配信をして、被災地域で暮らす人々への情報網羅を手伝ってもらったり。少しでも効果的な手法を見つけていきたいと思っています。

金森 なるほど、ネットニュースならではの手法ですね。

防災・減災情報を「楽しく」伝えるためにできること

三宅 NHKの災害担当チームとして、日頃から有事のためにどんな準備をしているのでしょうか?

金森 今この時期はやはり水害のリスクが高まる季節。そのため、リスクを啓発するショートムービーをSNSに流すなどの取り組みをしています。


NHKでは現在、「災害列島 命を守る情報サイト」にて災害に関するこまかなテーマを短い動画にまとめて発信している。

金森 あとは、ニュースの予定稿の準備ですね。警報が出た場合などに備えて、あらかじめニュース原稿を用意しておく。いざ発令されたら、ぱっと取って、すぐに放送できるようにしておくんです。

例えば、日本には火山だけでも111もあるので、そのすべてがいつ噴火しても即対応できるよう、今ある情報での原稿づくりをしています。そのために過去の噴火履歴を調べたり、被災が予想される地域のハザードマップを調べたり。

三宅 そうした準備が、いざ災害が発生した時に物を言うわけですね。たとえば2020年7月に熊本県と鹿児島県などに大雨特別警報が出た際は、どのくらいの人員が動いていたんですか?

金森 大きな災害の場合は長期にわたる応援体制になるので、のべで数百人規模になります。

三宅 なるほど。災害報道の一番の目的は人命を救うことにあると思いますが、そのための理想の報道のあり方について、金森さんはどうお考えですか。

金森 私も道半ばの身なので難しいテーマですが、少なくとも情報を提供するだけでは駄目だと思っています。繰り返しになりますが、いかに情報を届けきり、いかに行動を促すか。そのためにはわかりやすい原稿を書くのはもちろん、事前に情報の意味を周知することが大切です。

三宅 そうですね。しかし、それがなかなか難しいのもまた現実です。

金森 そこで感じるのは、NHKだけが防災・減災に関する情報を報じればいいわけではないということです。老若男女すべてにアプローチするためには、Yahoo!ニュースさんはもちろん、多くのメディアそれぞれが情報を発信し続けることが絶対に必要です。

そして、あえて言わせていただくなら、NHKがその中心を担えれば……という思いがあります。NHKの信頼性や、全国にネットワークを持つ取材力など、これまで培ってきたものをすべて投じて、防災・減災情報を広く拡散するベースを築ければ理想的です。

三宅 地震が発生したらまずNHKをつけるという人は多いですし、そうした信頼性を築きあげることは、私たちのようなプラットフォーマーにも必要なことです。

Yahoo!ニュースには650以上の媒体から1日に約7000本の記事が配信され、トピックス編集部はその中から編集部の方針に沿ってピックアップさせていただき、いち早くユーザーに届けられるように動いています。そこで、情報への感度を高めていくために、私自身が気象予報士であることを生かして、社内の勉強会なども行っているんです。

金森 そうやって周囲を巻き込みながら、防災への意識を底上げしていくのは大切なことですよね。NHKでも電波で情報を流すだけでなく、自治体と組んで水害に関するポスターを掲示するなど、地域で伝える取り組みを行っています。その意味では驚異的なアクセス数を誇るYahoo!ニュースへの期待は大きいですよ。Yahoo!防災速報アプリは私も使わせていただいています。

三宅 ありがとうございます! ちなみに、使い勝手はいかがでしょうか?

金森 NHKのニュース・防災アプリとかぶる機能もあるのですが、防災手帳がちゃんと組み込まれているあたりはいいですよね。私、けっこう周囲にもこのアプリを推しているんです。イラストを交えて有事における対応法をわかりやすく伝えていますし、目にも楽しい。こういうのはまだまだNHKも努力しているところです。


NHKでは現在、「災害列島 命を守る情報サイト」など、イラストも活用した情報発信へ積極的に取り組んでいる。

金森 防災情報を単に「危険ですよ」と伝えるだけではあまり関心を集められないので、それをいかに楽しく伝えていくかという視点も必要なんですよね。防災・減災のために備えることは、自分が暮らす地域をより深く知ることでもあると理解してもらえれば、もう少し興味を持ってもらえるかもしれません。まして、それが家族を助けることに通じているとなれば、なおさらです。

三宅 金森さんの言葉の通り、Yahoo!ニュースらしい伝え方で、情報の周知に少しでも貢献できればと思っています。

あらためて、本日は貴重なお話をありがとうございました。テレビとインターネット、報道とプラットフォーム、それぞれの立場から今やれるかぎりのことに邁進したいと思います。

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