Media Watch2023.09.08

個人の課題は社会の課題でもある――ニュースや政治を「自分ごと」にするために

政治家や行政機関と国民をつなぐウェブサイト「PoliPoli」(ポリポリ)。運営会社PoliPoliを創業し、その代表を務める伊藤和真(いとう・かずま)さんは24歳。もともと「社会や政治に関心はなかった」という伊藤さんは、現在、誰もが政策づくりに参加できる仕組みづくりに取り組んでいます。「信頼される情報空間」について多方面の有識者とともに考え、発信するシリーズ。今回は伊藤さんに、社会問題や政治などの硬派な話題を伝えるうえで、信頼される情報空間となるために必要なこととは何か、お話を聞きました。(取材・文/ Yahoo!ニュース)

「PoliPoli」とは
2018年2月設立。「新しい政治・行政の仕組みをつくりつづけることで、世界中の人々の幸せな暮らしに貢献する。」をミッションに掲げる。政治家に声を届けるウェブサイト「PoliPoli」と、国民の声を行政に届けるウェブサイト「PoliPoli Gov」を提供

政治に関心がなかった大学生が、PoliPoliを起業するまで

――どのような学生生活を送られていたのでしょうか。

大学の頃、俳句が好きになり、自分でも俳句を作るようになりました。当時18歳だったので、周りに俳句が好きな人がおらず、SNSで誰でも俳句を投稿してつながれるようなサービスがあったら、僕みたいな若い人でも俳句を楽しめるのではと思っていました。そこから自分でプログラミングを学び、数カ月かけて俳句のSNSとなる「俳句てふてふ」を作りました。このアプリをリリースしたら、結構人気が出て、毎日新聞が買ってくれたのです。初めてのM&Aを経験し、自分が作ったサービスが人と人をつなげて、誰かを幸せにするということが「神秘的」だと感じ、インターネットサービスを作ることに興味を持ちました。

――そこからなぜ政治に目をつけたのでしょうか。

高校生の頃はむしろ社会や政治の話題には興味がありませんでした。それが18歳になり、初めて選挙で投票をしようと思ったときに、「何でこんなに政治・行政と国民の距離が遠いのだろう」と疑問を抱きました。その頃にはプログラミングの知識があり、サービスを作ることもできたので、同級生と一緒に「PoliPoli」という、政治と国民をつなげるようなサービスを作りました。それがメディアで取り上げていただいたり、サービスを使っていただいたりして、「会社としてやるか」となりました。

多くの人は政治参加の「成功体験」がない

――「政治と国民の距離が遠い」とはどういう意味ですか。

内閣府の2022年の調査によると、自分の意見が政策に反映されたと感じている人は大体2〜3割であるというデータがあります。つまり、自分が意見を持っていても政策に反映されていないと感じている7割ほどの人たちは、政治に参加することで何かが変わった、といういわゆる「成功体験」がないのです。

行政側も、国民の意見を聞きたいと思っているけれど有効な手段がなく悩んでいたのではないかと思います。僕らはそこに課題を感じていて、つなぎ役になりたいと考えています。

――政令や省令等を決める際、あらかじめその案を公表し、国民から意見を募集するパブリックコメント(パブコメ)があります。

僕も総務省のワーキンググループに参加していて、「これ、大事な話なのに、パブコメの意見が全然集まってないよ」というようなことは結構あります。SNSを見ると関連する意見がたくさん出ているのですが、パブコメでは全然集まらない。これは一つ、大きな課題かと思います。

一方、SNSや掲示板には意見がたくさん寄せられるものの、政策に反映されていきません。単なる意見出しや議論ではなく、具体的に政策のアイデアを出してそれを実行していくという意味で最適化されたサービスを提供していきたいです。PoliPoliはそういうサービスにしていきたいと考えています。

自分の悩みを通して社会に関心を持つ

――政治や社会の課題などの硬派なニュースは、大事だけれど自分ごとにしにくい印象があるように思います。興味を持ってもらうにはどうしたら良いと思いますか。

社会に興味を持ってもらうためには、自分自身の課題が社会につながっていると知ることが大事だと思います。

例えば、最近物価が高くて生活コストが上がっています。それはなんでだろうと考えると、実はロシアによるウクライナ侵攻が影響していることが分かったりします。周りで起きている事象について、「なんでこれが起きているのか」を考え、他で起きていることとの関連性を知る。自分の個人的な課題でいいので、そこから社会を考えてみるというのは、社会に関心を持つに当たってもすごく良いアプローチだと思います。

PoliPoliでは経済的な理由から生理用品を十分に購入できない「生理の貧困」に苦しむ当事者から多くの意見が集まりました。その声は国会議員に届き、生理用品を無料配布する政府の政策に結びつきました。個々人の課題や悩みから社会課題が浮き彫りとなった良い例ではないでしょうか。

メディアは「タイムパフォーマンス」の風潮に押されすぎないで

――PoliPoliでは政治や行政の制度について解説するコンテンツも載せています。硬派な話題を伝えるときに心がけていることはありますか。

難しいものは難しいものとして伝えようと思っています。一方で、今はコンテンツの消費にかける時間がどんどん短くなっており、コンテンツの流れるスピードは速くなっています。映画すら倍速再生するような、いわゆる「タイパ(タイムパフォーマンス)」を求める風潮は不可逆的なものだと思います。

グラフィックを作り少しでも速く理解してもらえるようにしたり、映像だと見てもらえるので動画にしたり、漫画コンテンツにするなど、工夫はできると思います。

ただ、いくら速く・便利であったとしても大事な情報が得られないことや、ファクトチェックがされていないこともあり、危険性もはらんでいることは注意しています。しっかり知ってもらいたいことを、適切にタイパを意識したパッケージで届けることができれば、多くの人に見てもらえると思います。

Yahoo!ニュースに求めること

――本シリーズは「信頼される情報空間」を考えることをテーマにしていますが、伊藤さんの考えるニュースにおける「信頼」とは何でしょうか。

情報の正確性と速さのバランスだと思います。

現代は、個人によるSNSでの発信を含めると大量の情報であふれています。僕も個人の方が発信するSNS上の情報も見ます。ただ、正確性が必ずしも担保されているわけではなく、最終的には一次情報を探したり、信頼の持てる報道機関のニュースを見たりするようにしています。

――Yahoo!ニュースのトピックスでは、社会課題を提示する記事も目につきやすいところに掲出しています。

目先の成果だけを追うのであれば、よりパーソナライズを強めてユーザーの興味のあるニュースばかり掲出した方が良いのかもしれませんが、そうはなっていません。素晴らしいと思います。

自分の興味関心以外のテーマの記事を、偶然読むことができるということも大切だと思います。自分が持っていた意見とは異なる意見と出合うこと、複雑な社会事象の別の側面を知ることなどは大事なことです。Yahoo!ニュース コメントで有識者の方の解説記事もありますが、コメントをされている方のプロフィールも見て、どんな立場の人がどういう意見を言っているのか、なども気にして見ています。あるジャンルに影響力を持った人や自分が知っている人が発信しているのを見ると、それを機にニュースを見ることも少なくありません。

タイパの風潮に押されすぎず、ユーザーの興味以外で知っておくべきニュースを摂取できる仕組みを、今後も期待しています。

■伊藤和真(いとう・かずま)さん
株式会社PoliPoli 代表取締役/CEO。18歳で俳句アプリ「俳句てふてふ」を開発し、毎日新聞社に売却。2018年2月、政策共創プラットフォーム「PoliPoli」を立ち上げる。総務省「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」構成員

<関連リンク>

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