Inside2018.11.15

Yahoo!ニュース「コメントプロジェクト」の取り組みーー共感と気づきを促し、建設的な議論の場をつくる

写真/アフロ

Yahoo!ニュースでは配信される記事に、ユーザーが意見や感想を投稿できるコメント欄が設定されています。2015年の「Yahoo!ニュースがコメント機能を続ける理由~1日投稿数14万件・健全な言論空間の創出に向けて~」では、Yahoo!ニュースがコメント機能を運営する理由と効果を発表しましたが、あれから3年。Yahoo!ニュースを取り巻く状況やユーザーの動向は、目まぐるしく変化しています。

ニュースとユーザーをつなぐコメント機能は、どのような施策を講じてアップデートしてきたのでしょうか? 今回はYahoo!ニュースのコメント機能をよりよく活用していくための「コメントプロジェクト」担当者の声をまじえながら、最新事情をお届けします。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

2015年からの3年間で、コメント数は約2倍に

コメント機能が実装されたのは2007年のこと。Yahoo!ニュースを一方通行のメディアにせず、持論の主張や共感の表明など、ユーザー側のアクションを喚起したいというのがその目的でした。

「一つひとつのニュースに対して、世間の皆さんがどのような意見や感想を持っているかをお互いに知ることで、“共感”と“気づき”を得られる場にしたいというのがコメント機能の狙いです」(コメントプロジェクト担当者)

2015年からの3年間で、1日あたりの投稿数は約14万件から約28万件まで大きく増加。また、投稿に用いられるデバイスの内訳を見ると、スマホユーザーのコメント投稿は、PCからの投稿数のおよそ2倍にまで伸びており、2015年と比較してスマホシフトが進んだことがここからもうかがえます。

2018年

「傾向としては、やはり大きな事象が起こったときほど、コメント投稿数も跳ね上がります。最近でいえば人気アイドルグループの不祥事や、日大アメフト部の危険タックル問題のニュースで投稿が増え、そのまま一部の投稿者がコメント欄に定着する傾向が見られました。政治経済などの硬い話題よりも、テレビでもよく取り上げられる柔らかめの話題のほうが、コメント欄の反響も大きいですね」

Yahoo!ニュースでは、ただニュースを伝えるだけではなく、コメント欄を通して共感と気付きを促すことで、建設的な議論ができる場を提供したいと考えています。そのため、単にコメントを書くための機能だけでなく、さまざまな取り組みを積み重ねてきました。

例えば、書き込まれたコメントに対する共感を1クリックで示せる、『そう思う・そう思わない』ボタンは約10年前からある機能で、現在も改善は続いています。これはそのコメントについて、同意・不同意の人がどの程度いるかを知る目安とするもので、共感度順に並べ替えることも可能です。コメントの書き込みよりも、さらに手軽にユーザーの参加を促す施策と言えるでしょう。

誹謗(ひぼう)中傷ではなく、建設的な議論の場を守るための改善策

しかし一方で、さまざまな課題を抱えているのも事実。その最たるものが、誹謗(ひぼう)中傷や公序良俗違反といったトラブルです。人が集まれば、時に場が荒れるのはもはや必然。そこでYahoo!ニュースでは、健全な議論の場を守るために、専門部隊が24時間・365日体制のパトロールによって対応の徹底に努めています 。

「多彩な意見や立場があることは大切ですが、過度に偏った意見や他者を攻撃するようなコメントは、建設的な議論を阻害します。あくまで公共性を守った上で自由に言論を交わす場を維持するために、Yahoo!ニュースでは明確なガイドラインを設定しています。ただし、その表現が批判なのか、それともヘイトなのか、厳密に判断するのが難しいケースは少なくありません。例えば、LGBT関連など時代によって新たに登場した議論の起こりやすい話題や、ヘイトスピーチや人格批判に相当するような中傷の言葉や悪質な批判も存在します。このあたりはその都度、時代に即した対応を心がけながら、ガイドラインをアップデートしています」

建設的な議論が行える場づくりのために、パトロール人員の補強やツールの改善など、さまざまな手を講じているYahoo!ニュース。さらに対策の場づくり一環として今年4月1日に実施されたのが、コメント主のアイコンがかわいい動物になるエイプリルフール限定企画でした(※アイコン未設定のユーザーのみ)。これは、誹謗(ひぼう)中傷のコメントに心を痛めていたYahoo!ニュース担当デザイナーが提案したアイデア。

「この動物アイコンがユーザーに好評だったことから、Yahoo!ニュースのスタッフ内では常時このアイコンを採用する案も出ました。しかし、犠牲者を伴う事故や事件など、こうしたアイコンにそぐわないニュースもあるため、今のところは通常の人物シルエットのアイコンから笑顔マークのアイコンへの変更というささやかな改変に留めていますが、今後はユーザーの皆さまが自由に選択できる形での動物アイコンの復活も検討中です」

また、同じコメント文章を随所に連続投稿する「マルチポスト」への対策として、2017年5月には同じ内容の複数投稿を一括で削除できるツールを導入。人力のみで対応していた導入前と比べ、コメントの削除数は約2倍に上がりました。

しかし、こうした不適切なコメントを取り締まり、削除するだけでは、本当の意味での“建設的な議論”を促すことはできません。そこでYahoo!ニュースでは、議論の活性化に繋がる良質なコメントを機械学習によってサーチし、抽出するシステムを取り入れました。

ただ、新たな取り組みを積み重ねていく上で、ぶれないようにしているのは、「Yahoo!ニュースはあくまでもコメント機能を提供している場に徹する」こと。決して主義主張の内容によってコメントの表示順位を操作することはありません。

「不快感を与えるコメントへの対策は各社で行われています。Yahoo!ニュースでも4年ほど前から、コメントの不適切さのスコアを機械学習によって算出し、それを元に表示順位を下げるなどの策は講じてきました。一方、建設的な内容の投稿を優先的に表示するといったアプローチは、直接的に参考になる事例もなく、なかなか実現できませんでした。

そこで、社内のデータサイエンス専門チームに協力をお願いし、共に実現に向けて動き出すことにしました。海外の研究などの手法を参考にしながら、クラウドソーシングによって集めた約10万件のコメントに対する建設的度合いを元データとし、建設的であるか否かの判断を機械が自動的にできるようにしました。これによって、1日に28万件程度のコメント全てに対して、建設的かどうかを振り分けることができるようになりました」

ユーザーが少しでも楽しく使えるよう、随所に工夫が凝らされているコメント機能。最近では、一定期間に不適切なコメントを複数回にわたって投稿したアカウントに対する「投稿停止処置」も開始されました。

さらに将来的には、より高度な機械学習の活用によるパトロールの自動化、効率化も検討されるなど、さらなる環境改善が見込まれています。

コメント機能から、新たなニュースが生まれるケースも

建設的な議論を促すためには、コメント欄に新たな視点を与える工夫が必要であるというのが、コメントプロジェクト担当者の意見。実際に過去には、ユーザーのコメントで報じられたニュースの背景が「補足される」こともありました。

あるスポーツ選手が処分されたことだけを伝える、数行の短い記事。この記事のコメント欄で処分となった背景や意見が投稿されたことにより、処分に対し実際には賛否あることが分かりました。いわば、ストレートニュースがユーザーのコメントによって議論のきっかけとなった例です。

また、コメント欄の反響から、新たなニュースが生まれるケースもあります。

「昨秋、店頭で安売りされているもやしについて、農家の窮状を伝える日本農業新聞の記事がYahoo!ニュース トピックスに上がりました。すると、コメント欄で業界の仕組みを問題視する声が高まり、約3000件もの投稿が集まったのです。日本農業新聞はこういったネットユーザーの声を踏まえて、続報につなげてくださいました。こうした消費者の意見を伝えることが、農家の窮状を伝える媒体の応援につながったと思います」

こうしたコメント欄の効用を見れば、メディアとユーザー、あるいは当事者との関係は、すでに一方通行ではなくなりつつあることがよくわかります。

Yahoo!ニュースではこのほか、その分野に長けたYahoo!ニュース 個人のオーサーの専門性の高いコメントを上部に表示させることで、さらにその話題を深く知れるようにする工夫も凝らしています。新聞における解説委員の役割をオーサーが担うかたちで、Yahoo!ニュースならではの取り組みと言えるでしょう。さらに、コメント欄の反響を見て、オーサーがYahoo!ニュース 個人に新たな視点で記事を書くケースも生まれています。

オーサーコメントの一例

さらなるニュースメディアの進化系を目指して

「長期的なテーマとしては、今後も変わらず共感と気づきを大切にしていきたいと考えています。そのうえでシステムやデザイン面の改善に取り組み、コメントの見せ方1つをとっても、より見やすく、より使いやすいものを追求していくつもりです。また、前述の通り、これまでは機械学習を不快なコメントを見せないために使う発想で活用してきましたが、“建設的な議論”をキーワードとして良いコメントを積極的に見せる方向での活用にチャレンジすることができました。今後もこの動きを加速させて、より快適なコメント欄になるための活用を続けていきたいです」

そのためにはまず、“いいコメント”をあらためて定義する作業が必要である、とコメントプロジェクト担当者は語ります。このように、目に見える表側の短期的な修正はもちろん、裏側にある長期的な改善も日々続けられているのです。

日々流れるニュースの正確な理解を促し、活発で建設的な議論を支えるために何ができるのか。Yahoo!ニュースこれからの仕組みづくりに、ぜひご注目ください。

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