Yahoo!ニュース特集サイト「私たちはコロナとどう暮らす」 悩みに答え、暮らしに寄り添うユーザー起点のコンテンツ作り
新型コロナウイルスの感染拡大によってもたらされた「新しい生活様式」。どうしたら感染を防ぎつつ人との交流、経済活動、日常生活を取り戻せるのか、暮らしの中で何をどのように変えていくのか、まだまだ迷いや悩みはつきません。
2020年6月1日、Yahoo!ニュースは特集サイト「私たちはコロナとどう暮らす」を公開しました。このサイトは、「新しい生活様式」に悩みや不安を抱えるユーザーから疑問や意見を募り、それらの悩みや疑問を解消する助けになる記事を、Yahoo!ニュースに配信された膨大な記事の中から編集者が選んだり、社内でオリジナルコンテンツを制作したりして提供しています。
この特集を立ち上げるに至った経緯や見えた課題、そして取り組みを通してYahoo!ニュースが今後目指すものとは? 「私たちはコロナとどう暮らす」全体統括の奈須川信幸さんと、制作管理を担う中村塁さんに伺います。
コロナへの不安や悩み ユーザーの声をもとに作る特集が始動
新聞社やウェブメディアなどのコンテンツパートナーやYahoo!ニュース 個人のオーサーから提供された記事、またYahoo!ニュース 特集の編集者が考案・執筆した記事を掲載するYahoo!ニュース。ここにユーザーの力を取り入れて、より読者の悩みや疑問に答える実用性の高いコンテンツの提供を目指したのが、特集サイト「私たちはコロナとどう暮らす」です。
Yahoo!ニュースのアンケート機能「みんなの意見」や記事のコメント欄を活用してユーザーの「思い」や「疑問」を募集。「私たちはコロナとどう暮らす」の編集チームがそのコメントを整理し、コンテンツパートナーやYahoo!ニュース内で不安や疑問を解消する記事を制作するという方法です。
各媒体がユーザーの悩みや疑問解消のためになると判断して配信した記事には、「#コロナとどう暮らす」のハッシュタグがつけられます。2020年7月下旬現在、「#コロナとどう暮らす」のハッシュタグをつけていただいた媒体はおよそ50。Yahoo!ニュースのオリジナルコンテンツを含む記事数は400本近くにのぼっています。
“ユーザーの声そのもの”をコンテンツに 『3.11に対する思い』を集める
このような取り組みのきっかけは、今年の3月11日に公開した「#311いまわたしが思うこと 東日本大震災への思いを書きませんか」というコメント募集記事でした。新型コロナウイルスの感染拡大により、東日本大震災の追悼式が各地で中止や規模縮小を余儀なくされました。
「二度と同じ悲劇を繰り返さないという思いを共有する大切な場が、新型コロナウイルスの影響で失われていました。リアルな場で集まることが難しいなら、せめてYahoo!ニュースの中で思いを共有できないかと、それぞれの『3.11に対する思い』をYahoo!ニュースのコメント欄で募ったんですね。すると、たった一日で、Yahoo!ニュース 個人で執筆をしてくれているオーサーの方から一般ユーザーの方まで、何百件ものコメントを寄せてくださって。寄せられたコメントにたくさんの別のユーザーがコメントを寄せる、ユーザー同士がコメント欄で励ましあうといった姿も見られました」(中村塁さん)
この経験からユーザーの皆さんの“声”そのものが非常に心に響くコンテンツとなり得ると強く感じたといいます。新型コロナウイルス感染症拡大がさらに深刻化し、4月初旬には緊急事態宣言が発令される中、「ユーザーの思いや疑問、不安をそのままコンテンツ制作に活かせないか」という思いから、特集サイト「私たちはコロナとどう暮らす」の企画が走り出しました。
新型コロナの不安を募集 コメントは2日で1000件超
緊急事態宣言が解除される前後には、「新しい生活様式」が提案され、今まで当たり前に過ごしてきた日々の暮らしの一場面ごとに少しずつ変化も求められるようになりました。
「自粛が解除されたら、新しい生活様式を取り入れてほしい……。突然そう言われても、どう生活を始めればいいのか想像がつかないわけです。学校はどうなるのか、レストランで人と食事しても大丈夫なのか。さまざまな疑問が湧き上がってくる中で、改めてメディア企業としてコロナに対峙したコンテンツを届けることで、社会に貢献できるのではないかと考えました」(奈須川さん)
3.11の記事のようにコメント欄で「新しい生活様式」に対する不安や疑問、悩みを寄せてもらい、豊富な配信記事やオリジナルコンテンツを制作するノウハウを生かして、それらにこたえる場所を提供しよう――。企画の概要が固まり、5月13日、特集サイト「私たちはコロナとどう暮らす」のための第1回目のコメント募集がYahoo!ニュース上で行われました。
コメント募集記事のタイトルは「今不安に思っていることを教えてください」。この問いかけに寄せられたコメントは、編集チームの予想をはるかに超える数でした。
「公開してから2日間で、1000件以上のコメントがついたんです。これは驚きましたね。大量のコメントを見て、新型コロナウイルスの感染拡大に、人々がどれほど不安や悩みを感じているかを改めて実感しました」(中村さん)
シングルマザー、転職、オリンピック、介護、ペット、テレワークなど……。文字通りありとあらゆる悩みが寄せられ、『私たちはコロナとどう暮らす』チームの編集者たちがキーワードごとに絞り込むと、主だった問いはカテゴリに分けても200件以上に。なかには『コロナウィルスは蚊でうつるの?』『これから先、オフィスって必要?』といった、編集チーム内では気が付かなかった視点の疑問も多数ありました。
整理した疑問は、記事の制作担当に共有。Yahoo!ニュース 個人のオーサー、Yahoo!ニュース編集部のオリジナル制作記事である「Yahoo!ニュース 特集」の編集部やTHE PAGE、コンテンツパートナーへ情報が渡され、不安の声や疑問に答えるアンサー記事の制作が急ピッチで動き出しました。
刻々と移りゆく話題 求められた速報性とバランスよい記事構成
コメントの募集開始から特集サイト公開までの準備期間は2週間。通常、取材の内容を決めてから記事が完成するまでにやはり2週間近くかかります。スピード勝負ですが、幸い当初から連携させていただいたBuzzFeed Japanと、Yahoo!ニュース 個人のオーサーへの執筆提案によって最低限の本数ながらリリースまでに記事が用意できる見通しがたちました。
しかし、この過程で課題を感じたことも。せっかく寄せていただいたユーザーの「問い」の内容が時間を経てリリース時に鮮度を失ってしまうものがあったのです。緊急事態宣言がいつ解除されるのか、給付金の対象や金額がどうなるのかなど感染者数の増減や行政の対応によって注目される話題がめまぐるしく移り変わることが原因でした。
また、制作した各記事を「特集サイト」の形で編成する際は、俯瞰と主観を織り交ぜて、説得力のある特集になるよう、普段以上に気を配ったそう。
「新聞社などの報道メディアの取材記事は、様々な取材の結果としてどうなのかという客観的な視点や総論が一般的です。一方、Yahoo!ニュース 個人の筆者は、それぞれが専門分野のプロフェッショナル。高い専門性を生かして読者の細かな疑問に答えたり、独自の視点から意見を述べたりしています。今回のコロナウイルスの流行という事態においては、社会全体でどうなのかという総論的な視点と、『私の暮らしのこの部分でどうしたらいいのか』といういわば各論的な視点の両方に答えることが必要です。編成においては両方の視点をいかにバランスよく用意するかを非常に意識しましたね。どちらかに偏り過ぎても、読者の疑問に答えることは難しくなってしまうからです」(中村さん)
強みを生かし、メディアとユーザーを繋ぐハブに
一連の制作を通して、「ユーザーの声を生かしてコンテンツを作ることへの大きな手応えを感じた」と話す中村さん。
「ご存知の通り、Yahoo!ニュースはコンテンツパートナーやオーサーに記事を提供していただくプラットフォームです。けれど、今回は、Yahoo!ニュース側がユーザーの声を集めて提供し、Yahoo!ニュース 個人や特集、媒体社の方の協力を得ながらスピード感をもって、情報を配信できた。コンテンツパートナーさんにユーザーからの疑問を共有し、スムーズに記事制作にご協力いただけるよう、仕組みも作ることができました。Yahoo!ニュースの強みは、ユーザーの関心事を膨大なデータとして集められる点。今後も、ユーザーの意見を生かして、メディアとユーザーを繋ぐハブとしても機能していきたいですね」(中村さん)
奈須川さんは、今回の取り組みを経て、「今後も、社会や人々の問題に謙虚な姿勢で向き合っていきたい」と気持ちを新たにしたと話します。
「もともとヤフーには、情報技術を使って人々や社会の問題を解決していく『課題解決エンジン』というミッションがありました。また、私たちが今回取り組んだユーザーの声をもとにした記事制作は『ソリューション・ジャーナリズム』と呼ばれるものの一種かもしれません。しかし、この特集はあくまでもユーザーが不安や疑問を解消することを手助けする場。3.11の企画のコメント欄でユーザー同士が励ましあったように、悩みや不安を抱えた誰かがその思いを共有してくれることで、この特集の中の記事を通して同じような悩みや不安を抱えた多くの人がよりよく暮らすきっかけになってほしいです」(奈須川さん)
運用2カ月、見えてきた課題 「問い」から記事を作る難しさ
「私たちはコロナとどう暮らす」のサイトの公開を始めて、もうすぐ2カ月が過ぎます。日々、大量に寄せられた不安や悩みなどのユーザーの声を整理し、答えとなる記事を用意するという作業を繰り返すなかで、いくつかの課題も見えてきたと奈須川さんは話します。
一つ目は、新型コロナウイルスという未知の脅威の中でのユーザーの不安や思いに、具体的な「答え」を提供する難しさ。
「最初に、『今、コロナに対して不安に思っていることをどんどん教えてください』という切り口でコメントを募ったところ、かなり具体的な『強い思い』が多く寄せられたんです。例えば、『東南アジアの国にいるが、飛行機が止まってしまった。これからどうなるのか分からなくて不安』『いざコロナにかかったとしても、車を持っていないので公共交通機関なしでは発熱外来に行けないが、どうしたらいいのか』など、コロナ禍で、本当にさまざまな方が、想像もできないような不安に苛まれていると知りました。ユーザーから寄せられる悩みや不安は、家族のこと、仕事のこと、100人100通りのシチュエーションがあります。ただ、そうしたパーソナルな問いに対してストレートに答えるとほかの多くの方には役に立ちにくい内容になってしまうんです」(奈須川さん)
一方で課題を少し広く捉えて多くの人の役に立つ内容の記事にすると、最初に投げかけられたユーザーの「問い」に対する答えとしてはボケた内容になってしまいます。
「今回の特集サイトでは、制作できる記事の本数に限りもあり、ある程度課題を広く捉え、多くの人に届けることを優先しました。なので、『ユーザーの問いに答える』という基本的なコンセプトに対してどこまで成し遂げられているか葛藤があります」(奈須川さん)
読者の悩みを解決できる記事を作るという意味でコメントを集めるなら、もう少し多くの人が共通の悩みとして持つような『抽象的な問い』が必要ではないか。この気づきから、より多くの「問い」を集めるべく、3度に渡って行ったコメント募集記事のトーンを少しずつ変える工夫もしました。
初回は「今、コロナに対して不安に思っていることをどんどん教えてください」という形式だった問いかけも、3回目の募集では、「新型コロナに関して『日々の生活の中で、あなたが知りたいこと』を質問してください」へ変更。質問を直接的な形にすることで、よりスムーズなアンサー記事が作れるようになったといいます。
さらに、移りゆく話題に即座に対応するという速報性も、継続して取り組むべき課題です。
「記事制作は、どれだけ急いでも1〜2週間程度の時間が必要になるため、ユーザーの『問い』により早く答えるには、記事作成以外の方法でもアプローチする必要性も感じた」と奈須川さん。これらのユーザーの「声」を起点にするコンテンツには、別の展開も検討されているんだとか。
「今回は特集サイトとして取り組みましたが、コロナ禍のような『有事』に限らず、ユーザーの皆さまは日々さまざまな疑問や悩みと向き合っていると思います。Yahoo!ニュースとしては、平時にもユーザーの皆さまの『問い』が集まり、パートナーの方の力をお借りしながら『問い』に答えるという仕組み作りを目指し、引き続き運用を続けていければと考えています。記事を読んだユーザーが解決に向けてのアクションを起こせるところまで発展させられればベストですね。『私たちはコロナとどう暮らす』を通して、私たちも学び続けていきたいと思います」(奈須川さん)
まだまだ終息の気配を見せることがない新型コロナウイルス。いま現在でも新しい悩みや疑問は尽きません。Yahoo!ニュースは、新しく生まれ続ける人々の「問い」にこれからも寄り添っていきます。
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