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スポーツ界のハラスメントを許しているのは日本社会の風土だ

6/21(木) 9:51 配信

今年に入り、女子レスリングの伊調馨選手、日本大学アメリカンフットボール部などスポーツ界のハラスメントが大きな社会的注目を集めている。何度も繰り返されてきた問題なのに、なぜ是正できないのか。スポーツ界のセクシュアルハラスメント問題を研究してきた明治大学・高峰修教授に話を聞いた。(ノンフィクションライター・神田憲行/Yahoo!ニュース 特集編集部)

明治大学政治経済学部・高峰修教授(体育学)。1968年、千葉県生まれ。専門はスポーツ社会学、スポーツとジェンダー論。著書に『入門 スポーツガバナンス』(共著、笹川スポーツ財団編、東洋経済新報社)など(撮影:塩田亮吾)

セクハラ・パワハラの前にある「グルーミング」とは

スポーツ指導者たちの話を聞いていると、理想とする選手像にズレを感じることがたまにあります。指導者たちが「上の者の言うことに疑いを挟まず、忠実に実行する人間を育てる」ことを目標にしているからです。言ってみれば、組織の歯車、機械のパーツのような人間を育てている。

そもそも近代スポーツがイギリスで発展した理由は「リーダーの養成」でした。大英帝国は世界各地に植民地を持っていたため、現地を治める判断力と実行力を持った人間を必要としていたからです。変化していく状況に合わせて自ら判断してプレーするスポーツはリーダーの育成機会としては打ってつけでした。つまりスポーツはリーダーも歯車も作るんです。

日本大学アメフト部の問題の根底にも、育てる選手像のズレを感じました。現時点(6月13日)では選手と指導者の主張にまだ食い違いがありますが、少なくとも選手の認識としては「相手のQB(クォーターバック)をつぶしてこい」と指示を受け、実行した。歯車だからそうせざるを得なかったんです。

2018年5月22日、日大アメフト悪質反則問題の会見に臨んだ宮川泰介選手。日比谷プレスセンタービルで(写真:日刊スポーツ/アフロ)

私はスポーツ界のセクハラ問題について研究していますが、セクハラの前に必ずといってよいほどパワハラがあります。指導者が選手を完全に自分の支配下に置く必要があるからです。その際に「グルーミング」と呼ばれる過程があります。

「グルーミング」はもともと社会福祉の世界で使われていた言葉で、猫が足元にすり寄ってくるような状態に対象を追い込むことです。そのためにまず標的にした選手を指導者が精神的に追い込む行為があります。選手を突然不当に批判して試合や練習から外し、精神的に追い詰め、そのあと一転して優しい態度をみせる。選手はそれまで追い詰められていただけに、指導者の歓心を買おうとより依存心を高めます。日大の件でも、当該選手はいきなり練習から外されています。そこで追い詰められて、指導者に認められたかったら……とあのプレーを示唆されています。

セクハラを受容してしまう選手たち

そういう環境の中で育てられたアスリートはどうなるか。それを象徴するのが下のグラフです。

これは国民体育大会(国体)出場レベルのハイレベル競技者1162人と指導者3734人にセクハラの認識についてアンケートした結果です。セクハラになり得る19の行為(「挨拶のときに身体を触る」「マッサージをする・させる」など)を選び、「これはセクハラ行為になると思うか」と尋ねました。グラフの棒が右に伸びているほど「不適切だと思う」とした回答者が多いことを表します。逆に棒が短いほど、セクハラを受容していることになる。

ハイレベル競技者とその指導者に「セクハラになり得る19の言動」について、「セクハラと捉えるか」と質問。棒が右に長く伸びていると「思う」という回答者が多く、短いと少ない。(高峰教授提供のデータからYahoo!ニュース 特集編集部作成)(図版:EJIMA DESIGN)

調査の結果は驚くべきものでした。女性のほうが男性よりセクハラを受容し、若い人ほどその傾向が強い。つまりセクハラでもっとも被害の対象となりやすい「若い女性選手」ほど、セクハラの受容度が高いのです。これは海外の先行研究とは真逆の結果で、私も当初は集計を間違えたのかと考えたほどでした。

セクハラを受容するからこその「ご褒美」

なぜ、このようなことになったのか。それは彼・彼女らが若いころからセクハラ(パワハラ)に慣れっこになっているからだと思われます。大学生にも同様の調査をしたところ、体育会部活動に所属する学生はそうでない学生よりも、セクハラの受容度が高いことが分かりました。

セクハラやパワハラについて、決して進んで受け入れはしないものの、「この社会はそういうもの」という諦めがある。そして高い競技成績を収められたことを、そのようなセクハラ・パワハラを受け入れた結果だからと自分を納得させているのです。

大学生アスリートの場合、セクハラ・パワハラを受容した「ご褒美」として就職があります。みなさんも体育会系の学生の就職率が良いことを経験則的に知っているでしょう。つまり、企業側も「会社や上司の言うことに疑いを挟まず、実行する人間」を求めているのです。

スポーツ界のセクハラ・パワハラ問題の根っこは、それを是認している日本社会の風土です。だからこそ、そういう指導体制が強化され、循環していくのです。それが「レスリング」や「アメフト」の問題として表面に現れてきただけで、私たちの社会全体に横たわる問題だと認識すべきでしょう。(談)


スポーツ界のハラスメント問題が大きな関心事となっている。
スポーツの現場でパワハラ・セクハラはなぜ起きるのか。どのように防げばよいのか。3人の識者に聞く。

(6月21日配信)スポーツ界のハラスメントを許しているのは日本社会の風土だ――明治大学・高峰修教授
(6月22日配信)スポーツ界の「師弟愛」がパワハラの温床になる――バルセロナ五輪女子柔道銀メダリスト・溝口紀子氏
(6月23日配信)監督批判もOK ハラスメント防止は選手の話を「聞く」指導――筑波大学野球部・川村卓監督


神田憲行(かんだ・のりゆき)
1963年、大阪市生まれ。関西大学法学部卒業。大学卒業後、ジャーナリストの故・黒田清氏の事務所に所属。独立後、ノンフィクションライターとして現在に至る。主な著書に『「謎」の進学校 麻布の教え』、『横浜vs.PL学園』(共著)など。高校野球取材は今年で25年目。

[写真]
撮影:塩田亮吾
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝


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