長谷川美祈

「スクールセクハラ」をどう防ぐ 孤立した被害者を生まないために

4/20(金) 10:01 配信

教師による児童・生徒へのセクシュアルハラスメント、「スクールセクハラ」。この問題について「教師から『支配』のわいせつ――『スクールセクハラ』実態と構造」として2月20日に報じたところ、「私も被害に遭った」という当事者の報告をはじめ、多くの反響があった。孤立した被害者をこれ以上生まないためには、どうしたらいいか。この問題に携わってきた人たちの意見を聞いた。(ジャーナリスト・秋山千佳/Yahoo!ニュース 特集編集部)

自分を大事にした経験、前を向いて生きる力に

「ピアサポート リボンの会」代表・涌井佳奈さん

性被害や虐待などのトラウマを抱えた女性の自助グループを、名古屋市で運営しています。

「ピアサポート」と言い、同じ立場にある人たちが互いの悩みや問題を語り、共感し、支え合うコミュニティです。アドバイスを求めたり意見したりはせず、言いっぱなし、聞きっぱなしにする。

それでも思いを言葉に出すことで、いったん自分から悩みが放たれ、逆境の中で生きている自分を自分で認められるようになります。

私自身、スクールセクハラの被害者です。

涌井さんは性暴力・DV(家庭内暴力)、虐待などのトラウマを抱える方の支援グループ「Thrive(スライブ)」と自助グループ「ピアサポート リボンの会」を運営。「リボンの会」は愛知県名古屋市を中心に月1回会合を開催している (撮影:長谷川美祈)

高校1年の時、放課後の校内で、信頼していた男性教師から突然スカートに手を入れられ、キスをされました。放心状態になっていると「僕が3年間彼氏だから誰にも言っちゃいけないよ」と一方的に口止めされました。

行為はエスカレートしていき、モノのように扱われ、支配される関係が卒業まで続きました。異性と付き合った経験のなかった私は「好きな子にはやることなんだよ」と言われ、そういうものなのかと思い、違和感はあったけれど、特別視されたいという思いもありました。

涌井さんのノート。自分に対する肯定感が失われた日々が続いたという(撮影:長谷川美祈)

大学生になると、男性との関係をうまく築けず、暴力的な人に依存することもありました。

自分を傷つけるような破滅的な衝動に襲われ、それをコントロールできないのです。

それでも就職、結婚と表面上は普通に生きていたのですが、35歳の時に死にたい気持ちが抑えきれなくなり、うつ病と診断されました。「なぜ私は自分を大事にできなくて、自分も他人もモノのように粗雑に扱っちゃうんだろう」と考えるなかで、ようやく高校時代の教師による性被害が原点だと自分で思い至りました。それまでは過去を封印し、被害を被害と認識していなかったのです。

(撮影:長谷川美祈)

複数の病院でカウンセリングを受けたり、周囲の人によって霊能師のところへ連れて行かれたりしました。でも、そうした場でも、つい「加害教師に付いていった私も悪い」と良い子ぶってしまう。また、身近な人から「隙があったから被害に遭ったんだ」「もう忘れなさい」などと言われることもありました。

被害を自覚して、もがき苦しむなかで光となったのが、本で知って参加した東京の自助グループ(同じ悩みを抱えた当事者同士のグループ)でした。

同じような経験を持つ当事者たちには、弱音も自分のダメなところもさらけ出すことができた。涙が出てきたら一緒に泣いてくれた。初めて「自分は悪くない」と思うことができて、うんと生きやすくなりました。同時に、「この自分に納得して自分で生きるしかない」という覚悟ができました。

(撮影:長谷川美祈)

その後、2015年、名前や顔を出し、地元で自分たちで自助グループ「ピアサポート リボンの会」の活動をするようになりました。

加害教師に謝罪を促せればと思って母校も訪ねましたが、周囲からは「その先生の奥さんが自殺したらどうする」と止められ、会えませんでした。

活動を続けていると、「有名になりたいんでしょ」と突き放されることもあり、理解してもらえず、傷付くこともあります。しかし、当事者が声を上げなければ、今の社会を変えられない──そんな義務感をもって活動を続けています。

法的な解決が難しいほど長い年月が経ってから、「許せない」「謝ってほしい」という感情が湧いてきた人もいます。

(撮影:長谷川美祈)

性被害は自分の価値や尊厳が失われる体験です。加害教師に対して応報感情が湧くのは、自分の尊厳を取り戻す第一歩であり、その感情にフタをせず大事に向き合ってほしいのです。

「自分を大事にした」という経験をすると、時間はかかりますが、前を向いて生きていけるようになると感じています。

今はまだ自助グループは少ないですが、各地で増えていってくれるといいなと願っています。

(撮影:長谷川美祈)

被害に遭ったら証拠の確保を、おすすめはLINE

弁護士・高島惇さん(東京弁護士会)

弁護士としてスクールセクハラなどの学校案件を主に手掛けています。

学校案件は法的な対応だけでなく、被害者の心を支えていく作業が必要で、お子さんや保護者を通じて多くのニーズがある一方、弁護士の負担が大きいことから経験のある弁護士の数はまだ少なく、全国から依頼が来ています。

もし、ご自身や周りのお子さんがスクールセクハラの被害者になってしまったら、法的にどう対応すればいいか。スクールセクハラには、刑事事件で言えば暴行や脅迫を用いて性行為をする「強制性交罪」や暴行や脅迫を用いてわいせつな行為をする「強制わいせつ罪」にあたるものも含まれます。そこで、まずは証拠の確保が最優先になります。

高島惇(たかしま・あつし)2007年3月、中央大学法学部卒業、2009年3月、慶應義塾大学法科大学院修了。2011年弁護士登録、2012年8月、法律事務所アルシエン(東京都千代田区)入所(撮影:長谷川美祈)

証拠が残っていないと、被害を訴え出ても、被害の事実が認定されない可能性があります。それどころか、当時のやり取り次第では、かえって加害者から名誉毀損で訴えられてしまうリスクもあるからです。

では、どんな証拠を残せばいいのか。

まずお子さん一人でもとりかかりやすいこととして、LINEやメールといった通信手段の活用をおすすめします。

(撮影:長谷川美祈)

親や友だちといった第三者に対して、教師などから被害に遭ったことを記録代わりに送信しておくのです。

メールでも構いませんが、LINEのやりとりをスクリーンショットで保存しておくと、やり取りの流れが分かりやすいので、裁判でも信用されやすいと思います。また、より堅い証拠としてはスマホやICレコーダーによる音声の記録がありますが、体育会系の部活動ではレコーダーを服装内に忍ばせるのは大変でしょう。

さらに心身の状態が許せば、被害を受けた後できる限り早期の段階で警察へ「被害届」を出すのがよいです。

被害届は犯罪被害に遭ったことを警察に申告するもので、これ自体で即、捜査が始まるものではありません。最寄りの交番や警察署へ行って申告すれば、日時や状況を書面に残すことになります。

その一方で、現実的には、被害者やその保護者が弁護士に依頼し、当該教師を刑事告訴したり、あるいは、民事裁判で損害賠償請求に踏み出すのは簡単ではありません。

(撮影:長谷川美祈)

民事で訴えることを念頭に私が相談を受けたケースでも、お子さんの負担や二次被害、将来への影響などを懸念して、保護者が消極的になることも多いのです。

また、裁判以外の手段としては、公立であれば教育委員会に対応を求める、という選択肢もあります。

公立学校の場合、弁護士が被害者に事実関係を確認し、スクールセクハラの疑いが強いと判断できれば、教員に対して人事権限を持つ都道府県・政令市の教育委員会に内容証明郵便を送ります。

世間的には、教育委員会は教員同士の交流があるため、仲間意識によって適正な調査をせず、加害教師を守りがちな印象があります。まして学校だけでは、問題事案の報告が教委に上がっていなかったことが発覚すると、校長や教頭といった管理職も処分の対象となってしまうので、管理職が保身のために隠蔽をはかることになりかねません。

(撮影:長谷川美祈)

スクールセクハラの教師への懲戒処分はこれまで、加害者が刑事処分されてから、地方公務員法第33条の「信用失墜行為の禁止」に抵触したとして「後追い」で行われるケースが目立ちました。が、最近は報道で取り上げられる影響もあり、事実さえ確認できれば厳しく罰する方向へと変わってきています。

他方、私立学校だと、公立校と違って自治体の教育委員会の管理下ではないため、上級機関の調査はありません。つまり、学校の自浄作用に期待するしかないのです。もっとも、大学の付属校の中学や高校では、学校法人本部に働きかけたことで加害教師が処分されたケースは存在します。

(撮影:長谷川美祈)

スクールセクハラ被害を10年、20年経ってようやく明かせるというのは、珍しくありません。

心の傷を考えればもっともなことだと思います。ただ、民事でも不法行為による損害賠償請求権は、現在の民法では3年という期間で原則として時効消滅し、刑事告訴でも、たとえば強制わいせつ罪では7年で公訴時効となります。加害者の懲戒処分も同様で、年数が経過していると、事実確認がしづらく、教育委員会もなかなか動きません。

だからこそ子どもたちは、もし被害に遭ったら、すぐに親や信頼できる誰かに伝えることが大切です。

自分一人で悩みを抱えると、被害が深刻化して、ますます言い出しづらくなります。だから「何かあったらすぐに伝えてほしい」と周知しておくことが望まれるし、最も実効的な対策なのです。

(撮影:長谷川美祈)

初動から「第三者委員会」の設置を

共同通信社編集委員・池谷孝司さん

私はこの問題に20年近く関わっていますが、「スクールセクハラ」という言葉が広まったとはまだ思えません。

教師のわいせつ事件が起きるたびに学校や教育委員会は大騒ぎしますが、加害者の資質や性癖という「個人犯罪」として扱い、すぐに忘れていく。しかし、スクールセクハラの本質は、教師が権力を持つ学校だから起こる、強い者から弱い者への力関係を悪用した「権力犯罪」なのです。

このようなスクールセクハラをどうしたらなくせるのか。

三つの対策案があります。

池谷孝司(いけたに・たかし) 1965年奈良県生まれ。1988年共同通信社に入社。大阪社会部次長、本社社会部次長、宮崎支局長などを経て2017年7月から編集委員。教育や若者関係、少年事件などの取材を続けてきた。著書に『スクールセクハラ-なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか』(幻冬舎文庫)ほか。2009年に新聞労連ジャーナリスト大賞の「疋田桂一郎賞」を受賞(撮影:長谷川美祈)

第一は、第三者委員会の設置です。教師によるスクールセクハラの疑いが出てきたら、その教師や学校と関わりのない弁護士などの専門家による「第三者委員会」を作って初動から調査にあたる。これができたら一番いい。

現状はスクールセクハラの可能性が浮上すると、その学校の校長が中心となって調査が始まります。

しかし、刑事や検察官のように事件を調べるなんてやったことのない「ド素人」です。だから、加害教師に全力で否定されてしまうと、それを覆すのが難しい。

まして、校長の多くは定年間際です。自身の再雇用など後のことを考えると、管理責任を問われるのを恐れて“なあなあ”にしたり隠蔽しようとしたりする人も出てきます。

つまり、学校に任せていてはスクールセクハラが「なかったこと」になりかねません。そして、被害者が「うそつき」と責められる二次被害が起こります。加害者は野放しで次の事件も生んでしまいます。

(撮影:長谷川美祈)

教師によるわいせつ行為は明らかな犯罪であり、いじめや体罰と違ってほぼ懲戒免職です。

いじめや体罰の調査では「第三者委員会」がよく登場しますが、事の重大さを考えたら、スクールセクハラにこそ第三者委員会が活用されるべきです。

「いじめ防止対策推進法」は、世論に押されて議員立法で制定されました。スクールセクハラもそれにならって、被害の訴えや疑いがあればすぐに第三者委員会を教育委員会や学校の下に置けるよう、立法化されるべきです。

事件を解決しやすくなるだけでなく、悪い教師たちへの抑止効果も大きいでしょう。私立の場合でも、都道府県が指導して徹底した調査ができるようにしてほしい。

(撮影:長谷川美祈)

第二は、文部科学省はスクールセクハラについて、全国の子どもたちが直接答えるアンケートをするということです。そうすることで問題教師があぶり出される可能性がある。

教育委員会としては、わざわざ処分者の増えるパンドラの箱を開けたくないのが本音でしょう。しかし、文科省が熱心に調査を推し進めた体罰問題は、処分者がいったん激増しましたが、その後減っています。スクールセクハラも同様に調査すれば、一時的に処分者が増えても、やがて減るはずです。

神奈川県や千葉県では既に実施され、一定の効果が出ているそうです。

学校内での記入・提出は加害教師に見られるおそれもあるので、実施には課題もあります。しかし、調査の実施自体が教師に「下手なことをすると書かれる」と意識させる抑止策になります。

(撮影:長谷川美祈)

第三は、これは今すぐやるべきなのですが、大学の教員養成課程や新任研修、管理職研修でスクールセクハラを学ぶ機会を必ず設けることです。その際、「教師には権力があり、教え子とは力の差がある」と自覚させることが重要です。

ただ、こうした対策が実行されるのを待っている間にも、学校に通う子どもは例外なく被害に遭う可能性があります。年齢が低いほど、自分が先生にされていることをどう名づけて言葉にしたらいいのか分からない。だから、子どもたちにはスクールセクハラというものがあると知っておいてほしいのです。

自分の身を自分で守れるように考えてほしいし、周囲の大人は子どもがいざという時に逃げたり、ノーと言えたりするよう、話し合っておいてほしいですね。

(撮影:長谷川美祈)


秋山千佳(あきやま・ちか)
1980年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。記者として大津、広島の両総局を経て、大阪社会部、東京社会部で事件や教育などを担当。2013年に退社し、フリーのジャーナリストに。著書に『ルポ 保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル』『戸籍のない日本人』。公式サイト でスクールセクハラに関する情報を募集中。

[写真]
撮影:長谷川美祈
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝

社会の論点 記事一覧(24)

さらに読み込む

Facebookコメント

表示

※本コメント機能はFacebook Ireland Limited によって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。