長谷川美祈

教師から「支配」のわいせつ―― 「スクールセクハラ」実態と構造

2/20(火) 9:50 配信

「先生」と呼んで信頼していた人物が、もしあなたの身近な子どもに性的な行為を繰り返していたらどうすればいいだろうか。教師による児童・生徒へのセクシュアルハラスメント、「スクールセクハラ」問題が広がっている。2017年末、文部科学省が発表した資料によると、2016年度に性的行為等で懲戒処分された公立小中高校などの教職員は、全国で226人を数え、過去最多になった。加害者である教師に口止めされたり、親を心配させまいとしたりと子どもが声を上げづらい構造があり、明るみに出るのは氷山の一角とされる。セクハラ被害を受けた当事者の証言を中心に、この問題を考える。(ジャーナリスト・秋山千佳/Yahoo!ニュース 特集編集部)

消えぬ悪夢

「今でも先生から逃げる夢をよく見るんです。できるなら人生をやり直したい」

関西に暮らす36歳の大橋葵さん(仮名)は、高校時代に男性教師から受けた性的行為に長く苦しめられてきた。

大橋さんの高校ではセクハラを扱う授業があったが、生徒が被害を受けたらどうすればいいかという言及はなかったという。「学校で起こりうるという視点が先生たちにはなかったんだと思います」(撮影:長谷川美祈)

大橋さんの母校は全国的にも知られた名門の私立女子高校だ。母子家庭で経済的に無理して進学させてもらった。そこで入った運動系の部活で、当時40歳前後の国語教師が顧問をしていた。先輩の話では結婚して娘もいた。

大橋さんが顧問の当時の写真を示しながら言う。

「生活指導部長をしていて、見た目はまじめそのものですよね。授業も生徒への指導も熱い"熱血先生"として学校も重宝していたと思います」

彼女は1年生の秋、部のキャプテンに就任。顧問からは「お前は出来の悪いキャプテンだ」「死んでしまえ」と罵声を浴びせられる一方で、練習後には「整体・マッサージを教える」と言われ、顧問が1人で使っていた部屋に引き留められた。当初は互いに肩や腰のマッサージを促され、大橋さんは「私、どこも痛くないのに」と嫌悪感を覚えたが我慢していた。次第に、互いの下腹部を触るような指示をされるようになった。

悪夢で跳び起きたり涙が止まらなくなったりし、体重は3カ月で5キロ落ちた。それでも大橋さんは、部の運営に影響が出ないよう誰にも話すべきでない、と耐えた。

2年生の夏合宿では、顧問の部屋に呼び出された。「スポーツをする高校生の女子の体を知る必要がある」と寝かされ、触られるうちに言われた。

「おっぱいも触るぞ」

大橋さんは体を硬直させたが、相手は「絶対的な人」。抵抗できなかった。

「運動部は指導者には絶対服従で、まさかノーとは言えない。それが当たり前だと思っていました」と大橋さんは振り返る(撮影:長谷川美祈)

心の中は黒い絵の具を混ぜられたように

最後の大会前、大橋さんは顧問から「明日は水着を着てこい」と命じられた。恐怖を覚えて何とか断ったが、試合はあっけなく敗退。顧問からは「キャプテンを代えておくべきだった」と吐き捨てるように言われた。

卒業してからも10年近く、元キャプテンとして顧問への年賀状を欠かさず、学校を訪れた際には必ず挨拶に行った。そうしないと顧問が不機嫌になるからだ。「マインドコントロールされ続けているようだった」と大橋さんは回想する。当時、母親は面倒見が良い先生に恵まれたとして顧問に感謝していた。学費を捻出するために必死に働き余裕のなかった母に対し「もし本当のことを知ったら娘の被害に気付けなかったことで苦しむのではないか」と思い、大橋さんは今も母親に自分が受けたことを明かせないままだ。

一方で、セクハラを拒否できなかったことに自責の念が募った。自分を傷付けると心が落ち着くように感じ、一度に大量のお酒を飲むことを繰り返したり刹那的に男性と付き合ったりした時期もある。社会人になって間もなく「抱えてきた時限爆弾が弾けた」ようにうつ病になり、希望がかなって入った会社を辞めた。

被害に遭っていた頃、家族の目のない風呂場にいると涙が出てきた。雨の中で放心状態になって泣いていたこともある。なぜ泣いているのか自分でも分からない。「半ば、うつ病っぽかった」が何とか持ちこたえていた(撮影:長谷川美祈)

結婚して病は癒え、子宝に恵まれた現在も、大橋さんは目を赤くして語る。

「心の中は高校時代からずっと、黒い絵の具を混ぜられたように灰色のまま。その色が完全に薄まることは死ぬまでないと思います」

表に出てこない被害

文部科学省は2017年12月、最新の「わいせつ行為等に係る懲戒処分等の状況(教育職員)」を発表した。強姦や強制わいせつ、セクシュアルハラスメントなどを児童生徒らに行い、懲戒処分を受けた公立の小中高などの教職員の数とその内容が分かる。それによると、2016年度にわいせつ行為などで処分を受けた人数は226人。うち懲戒免職は129人で、いずれも過去最多だ。被害者は自校の児童生徒(109人)が全体の半数近くを占める。処分対象となった行為は多い順に「体を触る」(89人)、「性交」(44人)、「盗撮・のぞき」(40人)と続く(同僚、卒業生などへのセクハラ処分も含む)。

「このように被害が発覚するのは氷山の一角です」

NPO法人「スクール・セクシュアル・ハラスメント防止全国ネットワーク」(SSHP)代表の亀井明子さんはそう言い切る。

「特に私立学校の実態は、調査がないので分かりません」

SSHP代表の亀井明子さん。最近は、教師が生徒のLINEやメールアドレスを緊急連絡先として聞き出し、「〜〜ちゃんの裸が見たい」などとわいせつな言葉を送ってくるような携帯電話を使ったセクハラが目立つという(撮影:長谷川美祈)

元公立中学校教師の亀井さんはSSHPの立ち上げ準備から約20年にわたり、およそ2千件の被害相談を受けてきた。活動を進めるなかで痛感したことがあるという。

「北海道から沖縄までどこでも起こっていて、まるで金太郎飴のように手口が似通っているんです」

男性教師が「指示に従わなかった」と女子生徒に非があるかのような理由をつけて激しく叱責。生徒が泣き出すと一転して抱きしめ、キスするなどわいせつ行為に及ぶ――。実際にSSHPの受けた中学生からの相談だ。このようにスクールセクハラは、「指導し評価する者」と「教え子」というような力関係を利用して生じるものだ。

なかでも指導者が絶対的存在になりやすい部活動は、被害の温床になりやすい。例えば、ある中学校の剣道部は全国大会に出場する強豪だったが、顧問教師が女子生徒に服を脱ぐよう仕向けたり、教師の指をなめさせたりすることが、「伝統の儀式」となっていたという。これもSSHPに寄せられた事例の一つだ。「プライドを捨てて心を裸にしろ」などという理屈で服を脱がせるケースは多く、「支配」の一形態だと亀井さんは解説する。

「背後の力関係から、子どもはイエスと答えるしかない。内申書や部活の選手選びなどに響くと思うと抵抗しづらく、また被害が深刻になるほど、親が悲しむと考えて言い出せなくなってしまうのです」

口止めされてなくとも、口外すれば尊敬する教師の立場が危うくなることをにおわされ、セクハラでなく指導なのだと自らを無理に納得させることもある。

性の絡む話は、子どもにとって大人に言うのが恥ずかしいことと思いがちだ。SSHPにかかってくる電話でも、最初は体罰など別の話から入るケースが大半だという。

SSHPでは5人のスタッフが相談業務にかかわり、年間120件程度の相談を受けている(撮影:長谷川美祈)

被害は女子に限ったことではない。SSHPへの相談のおよそ20件に1件は男子の性被害だ。「男子がそんな目に遭うはずがない、男の子のくせにそんなことくらいでクヨクヨするな、と軽く流してしまう保護者もいて、女子以上に表に出てこないだけ」と亀井さんは指摘する。

教育現場はこうした現状にどう対応しているのか。亀井さんは「自浄能力は極めて低い」と厳しい見方をする。

顧問から謝罪はあったが

高校時代に被害に遭った大橋さんの学校はどうか。実は大橋さんは卒業から10年近く経って、学校側に被害を訴え出た。うつ病になったことが、立ち止まって過去を振り返るきっかけになったのだという。そして文書や対面での話し合いを重ね、加害者である顧問や教頭らに対して謝罪と今後の対策を要請した。書面でのやりとりを3度、対面での話し合いの機会も2度。だが顧問と学校側は責任逃れに終始したという。

最初の書面のやりとりはB5用紙1枚の文書で、顧問は事実関係を認めつつこう書いた。

「あなたが何も言わないことを良いことに、整体やマッサージの実験として(略)モルモットのようにしてきた」

大橋さんは高校時代、顧問の車で県外の行楽地へ連れ出されたことがあった。その日も体を触られ苦痛だったが、当時の日記には自らに言い聞かせるように「先生に感謝!!」と綴った。顧問は謝罪の文書で「きっとこの子はふだん○○(行楽地)なんかへ行けそうもないから連れて行ってやろうと(略)見下した気持ちがあった」と書いた(撮影:長谷川美祈)

大橋さんはそれを読み、「先生方の感覚と、私の感覚とのあいだには大きなずれがある」「『モルモットのように』という抽象的な言葉で括れる単純なものでしょうか」と再度文書で抗議した。それに対する顧問からの返信にはこう書いている。

「私の行為は、あなたがおっしゃるように犯罪です。しかも悪質だと思います」

「自分は家庭を犠牲にして部員のために頑張っているのだから、部員は自分の言うことを聞くのは当たり前、自分に感謝して当たり前と思っていました」

同封されていた教頭からの報告には、聞き取りで「性的な興味があった」という事実を確認し、本人から辞表が提出されたと書かれていた。

しかし、ここまで当事者が認めながら辞表は受理されなかった。大橋さんには悔しさが残った。

「相手は社会的制裁を受けてしかるべきだし、裁判を起こしたかったけど、精神的にそれ以上やるのは無理でした」

顧問からの謝罪の文書。「私の進退については上の先生の預かりになっています」「私は一生償い続けなければならないと思っています」などと書かれていたが、結局教師を辞めることはなかった(撮影:長谷川美祈)

さらに最後の教頭からの手紙にさらに大橋さんはショックを受けた。顧問の行動を正当化するような私感だった。

「○○さん(顧問)も私も、娘をもつオヤジですので、時折生徒たちを娘と同じような思いで見てしまうことがあります」

「性的云々と彼は言っていましたが、(略)多分、あなたを好きになってしまったということなのでしょう」

これは性被害に起こりがちな、被害者が加害者や周囲の言動でさらに傷つけられる「二次被害」だ。

今も顧問は同じ学校で教壇に立ち、別の運動部の顧問をしている。

処分基準のない自治体

公立の学校であれば、自治体の教育委員会が処分を行う。文科省は各教委に、わいせつ行為やセクハラによる懲戒処分の基準を作成し、公表するよう求めている。不祥事の抑止や処分の厳正な運用、保護者や地域住民に説明責任を果たすため、というのがその目的だ。

たとえば東京都の基準なら、「同意の有無を問わず、性行為を行った場合 (未遂を含む)」「 同意の有無を問わず、直接陰部、乳房、でん部等を触わる、又はキスをした場合」は免職。「性的行為と受け取られる直接身体に触れる行為 (マッサージ、薬品の塗布、テーピング等を行う際の行為も含む)」などは免職か停職、といったように定められている。

文科省初等中等教育企画課の鈴木宏幸課長補佐は、処分数が過去最多にのぼったことについて「各教委にそれらを重く処分すべきだという認識が広まってきたことも背景にはありますが、非常に遺憾でありゼロを目指して取り組んでいきたい」と話す。

とはいえ、全国の都道府県と政令市計67のうち6自治体(兵庫県、高知県、沖縄県、さいたま市、静岡市、岡山市)が、いまだにこの基準を作成していないか、作成しても公表していない。例えば、兵庫県はその理由を「内容が多岐にわたるものについては、その事案ごとに判断が必要であると考えており、基準作成の必要性を認めないため」としている。しかし、同じく内容が多岐にわたるはずの体罰については作成している。わいせつ行為やセクハラについても基準がなければ、最初の判断を求められる校長次第でぶれが生じる恐れもある。

学校内で教師が同僚のセクハラについて声を上げようとすると、内部告発という目で見られ、パワハラに遭いやすいという。亀井さん自身も中学教師時代に経験があり、「自分が壊れていってしまう感覚で、被害者と同じような状況に追い詰められる」と言う(撮影:長谷川美祈)

亀井さんは「学校は閉鎖社会で、何か起こると保身や隠蔽工作に走る」と懸念を示す。自身も公立中学校の教師だった頃、女子生徒から被害相談があり校長に対応を求めたところ、内部告発を潰そうとする他の教師らからさまざまな嫌がらせや批判を受けたことがある。校長はそれを知りながら止めなかった。

今はSSHP代表として、学校や教育委員会、教員志望者らへの研修に力を入れる。加害者でなくとも周囲の教師が認識に欠け、傍観者となってしまっては被害を救えないからだ。

また、自治体には、いじめや体罰の調査のように弁護士などの専門家による「第三者委員会」を置くべきだ、としている。「身内で身内は裁けない。被害者の相談から事実関係の調査まで、第三者委員会に依頼したほうが解決しやすくなる」と力を込める。

親はどう対処すべきか

学校の自浄能力に期待できないなら、保護者など身近な大人はどうすべきだろうか。

亀井さんは「日頃からコミュニケーションを密にし、子どもが普段と違う様子であれば『何かあったの?』と向き合って話を聞いてほしい」とアドバイスする。

以前にSSHPが対応したこんなケースがある。保護者が小学校中学年の息子の様子をおかしいと感じ、あれこれ尋ねても当初は答えなかった。だが父親の転勤で転校してから、以前の学校の男性担任にたびたび下着の中に手を入れられて性器を触られていたことをやっと打ち明けてきた、という。

亀井さんは「親御さんはなんで今頃になって、とおっしゃったんですが、加害者が近くにいると恐怖が先に立って言えないことが多い。子どもが打ち明けるのはものすごく勇気がいることなんです」と話す。そして打ち明けてくれた際には、次の三つの言葉かけが必須だという。

「話してくれてありがとう」

「あなたが悪いんじゃないよ」

「あなたの言っていることを信じるよ」

そのうえで、どうしてほしいかを子どもに確認しながら事を進めてほしい、という。

まず被害者救済を

さきほどの男子小学生のケースでは、現在通っている学校の校長に相談して、そこから以前の県の教育委員会に連絡がいき、1カ月ほどで当該教師は懲戒免職になった。

もっとも、亀井さんは「SSHPの活動はあくまで被害者救済であり(加害者処分を目的にした)必殺仕事人ではない」と語る。

「仮に加害者が処分されても、子どもの心の問題は終わりがない。だから私たちのサポートにも終わりはありません。話すことで気持ちが少し楽になるし、いつでも電話してきていいからねと伝えています」

高校時代に受けた心の傷が癒えない大橋さんは、取材に応じた理由を「次の世代に同じ思いをさせないことだけが、自分も救われる唯一の道だから」と語った。自身の子にも、繰り返しこう伝えているという。

「嫌なことをされたら逃げるんだよ。男の人だけがするわけじゃないよ。体を触られたりしたら必ず言ってね」


秋山千佳(あきやま・ちか)
1980年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。記者として大津、広島の両総局を経て、大阪社会部、東京社会部で事件や教育などを担当。2013年に退社し、フリーのジャーナリストに。著書に『ルポ 保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル』『戸籍のない日本人』。公式サイト

[写真]
撮影:長谷川美祈
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝

社会の論点 記事一覧(31)

さらに読み込む

Facebookコメント

表示

※本コメント機能はFacebook Ireland Limited によって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。