幸田大地

「0円生活」で居場所見つける 脱・お金依存の先にあるもの

3/23(金) 9:57 配信

人はお金に依存しすぎることで、社会生活で大切なことを見失ってはいないか。見失ったものを再発見するには、「0円」の経済活動がヒントになる――こう説くのは『0円で生きる 小さくても豊かな経済の作り方』の著者、鶴見済だ。1993年発行の『完全自殺マニュアル』では、自殺の方法や難易度を詳細に解説したこともある。なぜこんなことを言うのか。本人に聞いた。(Yahoo!ニュース 特集編集部)

(文中敬称略)

楽に生きればいいんだ

おれは『完全自殺マニュアル』を書くまで、ずっと精神科に通っていて、そのころ世間では「強く生きろ」とよく言われていました。キツかったし、自分は「抑圧」だと感じました。あの本を通して「『強く生きろという抑圧』に抵抗し、自由になりたい」と訴えたかった。だから、こう考えたんです。「いざとなったら死んじゃってもいいんだから楽に生きればいいんだ」と。自分は、あの本で自殺を推奨したつもりはありません。事実、本が発売された年(1993年)、その翌年の自殺者は減っていて(※)、本の影響で自殺者が増えた事実はありません。

※「自殺者数の推移」(厚生労働省)によれば、自殺者数は1992年が2万2104人、1993年が2万1851人、1994年が2万1679人で推移している

『完全自殺マニュアル』(太田出版)(撮影:幸田大地)

――それからかなり経って、鶴見さんは『脱資本主義宣言――グローバル経済が蝕む暮らし』(2012年)を書いています。なぜ脱資本主義へとつながっていったのですか?

2000年代に入ると、ニートや引きこもりの問題が深刻化しました。生きづらさの理由は人それぞれとは思いますが、日本社会から発せられる「頑張って働いて、お金を稼げ」という圧力が大きかったんじゃないかと思います。自分自身、つらいなあと感じていましたし。要するに、どこまでも成長していかなければならない、昨日よりもたくさん稼がなければならない――という成長至上主義。それにずっと違和感を持ってきましたから、自分にとって資本主義への異議申し立てするのは自然なことだったんです。

取材は、東松原駅近く(東京都世田谷)で行った(撮影:幸田大地)

――そういった変遷を経て、昨年末に『0円で生きる 小さくても豊かな経済の作り方』を出版しています。まえがきにこうありますね。

資本主義は反撃を受けている。
地球上にある物はもとよりすべてが共有物だった。人々はそれを分け合い、あげたりお返ししたりして暮らしてきた。その私有化を推し進めた最大の勢力は資本主義であり、ここ二世紀ほどはその全盛期だった。新しいものを次々と作り出し、それを持つことが豊かさだと宣伝することでお金を稼いできた。物が広く行きわたってしまった後は、新しい物に買い替えさせることで利益を維持した。
けれども、今世界は新たな共有の時代を迎えている。これは先進国に限った話ではない。一方向にばかり進むかと思っていた資本主義の社会は、行きすぎて少し元に戻っているかのようだ。

昨年12月に出版された『0円で生きる』(新潮社)(撮影:幸田大地)

貨幣経済だけが経済のすべてではない

現在の経済は、お金が中心の資本主義経済です。でも、そうではない経済も人類の歴史にはありました。それは、食べ物や財産を贈ったり贈られたりすることで成り立つ「贈与経済」です。この日本でも、15世紀ごろ(室町時代中期)は貨幣経済に並んで、人間関係・社会活動を回すための贈答が特に盛んだったと言います。貨幣経済が普及しても贈与や共有が盛んになり得る。この本は、そういった経済の現代版をみんなで作ろうという目的なので、現在のお金を介した経済を客観視したかったんです。「これが普通ではないんですよ」と。

東松原駅前の商店街をいく(撮影:幸田大地)

――『0円で生きる』では、お金のやりとりをせずにモノやサービス、社会とのつながりを得る手法・サービスをたくさん紹介しています。

たとえば、庭をシェアする「オープンガーデン」という考え方があります。個人が持っている庭をみんなに開放し、景観をシェアするんです。自治体が個人と連携して取り組むケースも増えてきました。

生活雑貨をシェアすることもできます。インターネットサービスで「ジモティー」、いわゆるネット掲示板なんですが、出品されているモノの多くが「0円」。家電や生活雑貨が多いですね。なかには、出品者の専門スキルを0円で提供するケースまであります。自分自身、必要なものがあればジモティー経由でもらっています。

逆に、出品もしているんです。「こんなもの誰がもらうんだ?」と思って出しても、もらってくれる人はいるんですよね。動かなくなった草刈り機とか、ボロボロになった道具箱とか、みんな持って行ってくれた。

シェアマーケット「くるくるひろば」の外観(撮影:幸田大地)

店に並ぶ全てのモノが「0円」の店がある。東京都世田谷区松原の「くるくるひろば」で、取材はここで行った。以前から鶴見が注目している場所だ。ここでは、衣料品や生活雑貨が0円でやりとりされている。いわゆる「フリーショップ」だ。誰でも自由にモノを持ってきてよいし、もらっていってよい仕組みになっている。取材中、ゴルフバッグを持ってくる人もいれば、子ども用の洋服をもらっていく子連れの母親もいた。もちろん、店の家賃などの経費はあるので、そこは客からのカンパで賄われている。

鶴見も店こそ運営していないものの、似た取り組みを国立市などの路上で続けてきた。本や生活雑貨など、仲間で持ち寄ったモノを0円であげているという。

「くるくるひろば」の運営費はカンパ収入でまかなわれている(撮影:幸田大地)

もう5年ぐらいやっていますね。なぜ、タダでモノをあげるのか? 例えば、「ブックオフ」で本の買い取り価格が「5円です」と言われたら、がっかりするだけかもしれない。たったの5円かと。でも、0円であげれば、相手が喜んでくれるので、そう感じることはありません。なにより、0円で人にモノをあげるのは面白いんです。あげる相手が目の前にいれば、中身の面白さを伝えることだってできるかもしれないんですから。

「くるくるひろば」のような0円ショップは、イギリスやドイツにもあります。

ハイデマリー・シュヴェルマー(写真:picture alliance/アフロ)

ドイツにはこういう人もいるんです。元心理療法士のハイデマリー・シュヴェルマー(1942-2016)という女性。この人は50代半ばで「お金を持たない生き方」を選択しています。私有財産の一切を人にあげてしまって、仕事は住み込みで家事手伝い。お給料をもらわない代わりに、食事や生活必需品を対価として得る。このやり方で、亡くなるまでの約20年間を0円で過ごしたんですね。この人のポイントは、山にこもって自給自足などをしたわけではなく、街で暮らしたということです。人との関係を基盤に0円生活をやりきったんです。

「お金で解決」が省略していたもの

だから、不可能ではないんですが、みんながこれをやる必要はありません。自分だって、お金と完全に無縁な暮らしはしていません。ただ、部分的に「お金を介さない」生き方を取り入れることはできるんじゃないでしょうか。

「くるくるひろば」店主と話す(撮影:幸田大地)

――お金を介さない生き方を取り入れると、なにがどう変わるんですか?

例えば、ヒッチハイクってありますよね。以前、何度かやったことがあるんですが、あれをやると、お金がなにを省略しているかが分かります。

平日の午後。店にはお客さんが次々とやってくる(撮影:幸田大地)

――何を省略しているんでしょうか?

「人間関係」です。ヒッチハイクをすると、初対面の人の車に乗せてもらうことになります。乗って無言というわけにはいきませんから、何かをしゃべらないといけません。自分が何者なのか。なぜ旅をしているのか。中身に相手が共感してくれれば、乗せてくれる距離も延びるかもしれません。タクシーにはこれらのプロセスは一切ありません。お金が全部解決してくれます。人間関係を省略している分、楽なんです。

いま、お金で解決できることが山のようにある半面、人間関係も省略されすぎてしまったかもしれませんね。だからこそ「0円でつながる」と新鮮なんです。人とのつながりを見直すきっかけになるわけですから。

「個人が自由になった」社会で、つながりを問い直す時代がやってきた(撮影:幸田大地)

――特にいまは、人とのつながりが薄い人が増えています。

昭和と比べて、学校や会社、家庭に限られていた人間関係は、緩くなりましたよね。いい面もあるんです。当事者がつらくなったら、居場所を変えられるようになったわけですから。ただ、極端につながりが薄い人も増えてしまったのも問題で、孤独になってしまう人も増えた。つながりが心底嫌いな人はほとんどいないと思うんですよ。

いまのグローバルな経済活動下――自分は「大きな経済」と呼んでいますが、ここでバリバリ働いて勝ち抜ける人は、そう多くないでしょう。テキパキ働ける人ばかりじゃないし、勝ち抜く条件っていくつかあるんでしょうけど、少なくともおれは条件を満たしていません。自分みたいな大きな経済に適応できないのは「不適応者」かもしれない。ただ不適応なだけじゃ面白くないので、自分たちの「小さな経済」で対抗していきたい。少しでも不適応者が生きやすい社会にできたらいいですね。

(撮影:幸田大地)


鶴見済(つるみ・わたる)
1964年東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒。フリーライター。著書に『脱資本主義宣言 グローバル経済が蝕む暮らし』『完全自殺マニュアル』『無気力製造工場』『檻のなかのダンス』などがある

撮影:幸田大地
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝

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