新田義貴

どうする核燃料サイクル ――  “プルトニウム大国”日本の今後

3/2(金) 10:04 配信

日本が原子力政策の根幹として進めてきた「核燃料サイクル」は、過去50年に10兆円以上もの国費を投じながら、いまだに実現していない。この計画に対しては、安全性や技術、費用の面でかねて疑問があった。それに加え、日本がすでに保有する使うあてのないプルトニウムにも世界から厳しい目が向けられている。利用者からの電気料金を充てながら、あまり知られていない核燃料サイクル。あなたはどう考えるだろうか。(新田義貴/Yahoo!ニュース 特集編集部)

24回も稼働延期 六ヶ所再処理工場

厳寒の下北半島は雪に埋もれていた。2018年1月初旬。青森県八戸市から車で1時間半ほど走ると、六ヶ所村に着く。至る所に沼地が広がり、水鳥が遊んでいる。自然いっぱいのこの村には、日本原燃の六ヶ所再処理工場があり、日本の核燃料サイクルの中心地でもある。

沼地の多い六ヶ所村は水鳥の楽園(撮影:新田義貴)

2017年12月下旬、日本原燃は同工場の完成予定を2018年度上期から3年延期し、2021年度上期にすると発表した。当初の完成予定は1997年。延期は実に24回目である。

こんなにも延期を繰り返す「核燃料の再処理工場」とは、いったいどんな存在なのだろうか。

核燃料サイクルは、原発で使われた核燃料の燃えかす(使用済み核燃料)からプルトニウムや燃え残りのウランを取り出し(再処理)、再び燃料として高速増殖炉や軽水炉で利用する仕組みのことだ。エネルギーの切り札とされ、日本では1960年代から技術開発が進められてきた。

核燃料(原子燃料)サイクルの成功を呼びかける看板(撮影:新田義貴)

ところが、「夢の原子炉」と呼ばれた高速増殖炉「もんじゅ」(福井県)は、度重なる事故で2016年に廃炉が決まった。核燃料サイクルの究極目標だった高速増殖炉の実現は遠のき、代わりに、プルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料を軽水炉型原発で燃やす「プルサーマル発電」に軸足が移ろうとしている。

表立った反対運動は消えたが……

1980年代前半、六ヶ所に再処理工場の建設計画が持ち上がった。昆布漁師だった種市信雄さん(83)は「海水が汚染され漁業に影響が出て大変なことになるのではないかと、漁師を中心に反対運動が盛り上がりましてね」と振り返る。

種市信雄さん。「核燃から漁場を守る会」の代表を今も務める(撮影:新田義貴)

特に激しく反対したのが泊地区の漁業者たちだ。種市さんもその一員だったが、“団結”は長く続かない。1986年、日本原燃が海域調査に着手すると、補償をもらって受け入れようとする「賛成派」、阻止行動を続ける「反対派」が対立した。

「選挙の度に莫大なカネが飛び交って……。本心は反対でも、田舎は地縁血縁が濃い。徐々に反対を唱えることは難しい雰囲気が作られていきました。再処理工場ができる過程で、静かな暮らし、人々のつながりが失われて」

いま、六ヶ所村には再処理工場を中心に多くの関連企業や研究施設のビルが立ち並ぶ。海外の演奏家も公演する豪華なコンサートホール、温泉スパ施設などもある。

種市さん宅の外壁に取り付けられた看板。今も反対運動を続ける人はごくわずか(撮影:新田義貴)

核燃料サイクル 妥当性はどこに?

核燃料サイクルや再処理工場は、いったい何が問題なのだろうか。

日本原燃は現在、動画やスチルなど「撮影」を伴うインタビューを受けていない。今回の取材もカメラなしである。担当者によると、再処理工場稼働の24回目の延期は「東日本大震災後に厳しくなった安全基準にしっかりと対応するため」。技術的課題は克服し、3年後には本格稼働できる、という。

核燃料サイクル計画そのものの妥当性については、資源エネルギー庁に取材した。原子力立地・核燃料サイクル産業課の覚道崇文(かくどう・たかふみ)課長は、おおむねこう言った。

資源エネルギー庁の覚道崇文課長(撮影:新田義貴)

「核燃料サイクルは資源の有効利用と同時に、全国の原発で貯蔵プールが満杯になりつつある使用済み核燃料の再処理によって、高レベル放射性廃棄物の減容化、有害度低減という観点でも有効です。当面は軽水炉でのプルサーマル発電を中心に計画を推し進めます」

一方、核燃料サイクルはすでに破綻している、との意見も根強い。その1人、長崎大学核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎センター長はこう指摘する。

長崎大学核兵器廃絶研究センター・鈴木達治郎センター長(撮影:新田義貴)

「ウラン資源は豊富にあり、原子力産業も伸びていません。核燃料サイクルの必要性そのものが低く、世界的に見ても続けようとしている国はほとんどない。日本はもう一度、本当に必要なのかどうかを検討し直すべきです」

核燃料サイクルの事業には、電力会社の収益も充当されている。

「(こんな状態で)一番損をしているのは、電気代を払わされている国民です」

六ヶ所村の巨大な温泉スパ施設。日本原燃の関連企業が運営する(撮影:新田義貴)

保有プルトニウムは47トン 国際社会の懸念

六ヶ所再処理工場には、別の厳しい視線も注がれている。

使用済み核燃料を再処理してできるプルトニウムは核兵器への転用が可能で、国際社会はこうした核物質の管理を徹底してきた。日本は核兵器保有国以外で、再処理を特権的に認められている唯一の国である。その背景には、日本は唯一の戦争被爆国であり、原子力についても平和利用に限って推し進める国だという国際社会からの信頼があった、とされる。

ところが、「もんじゅ」の失敗やプルサーマル発電が進まず、日本は47トンものプルトニウムを使う当てもないまま保有する事態になっている。47トンとは、長崎に投下されたプルトニウム型原爆の約8千発分に相当するという。

長崎に投下されたプルトニウム型原爆ファットマンの模型。米国ニューメキシコ州で(撮影:新田義貴)

日本は再処理の多くを英仏に委託しており、実際の保管は英国に21トン、フランスに16トン、日本国内に10トンだ。これらのプルトニウムは今、使い道のめどがない。その状態で六ヶ所の再処理工場を稼働させれば、プルトニウムはさらに積み上がる。

その点にこそ、国際社会の懸念はある。

「核分裂性物質に関する国際パネル」(IPFM)のフランク・フォン・ヒッペル委員は「日本の余剰プルトニウムの増加は東アジアの安全保障の脅威になる」として、六ヶ所再処理工場の中止を日本政府に要請している。

フランク・フォン・ヒッペル氏(映画「アトムとピース」より©ソネットエンタテインメント/AMATELAS)

ヒッペル氏は言う。

「このままでは、日本は悪いお手本になってしまいます。北朝鮮が核開発を続ける中、韓国でも核武装を求める声が高まっています。韓国政府は『自分たちも日本のように再処理の権利を獲得すべきだ』と主張しています。韓国以外にも、このような国が増えると、核不拡散体制の崩壊につながる危険性があります」

日米原子力協定の行方は

国際社会の懸念は他にもあった。日米原子力協定の問題である。

日米原子力協定に調印後、握手する日米代表=1955年7月(写真:毎日新聞社/アフロ)

日本が再処理特権を獲得した現行の日米原子力協定は、今年7月に改定から30年の満期を迎える。日本の余剰プルトニウムには米国の専門家も懸念を強め、協定見直しの可能性も指摘されていた。ところがトランプ政権の交渉態勢が整わなかったことで、今年1月に自動延長が決まった。

自動延長後は、日米どちらか一方の通告で6カ月後に協定を終了できるようになる。そのため、河野太郎外相は「(核燃料サイクルは)非常に不安定な状態になる」と表明。余剰プルトニウムをどうするのか、その道筋を具体的に示す必要性は何も変わっていない。

“潜在的核抑止論”の先には何が

最近では「プルトニウムの戦略的保有は安全保障上のメリット」という考えも表に出ている。

北朝鮮の核実験や中国の軍事力強化など日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、いざとなればすぐに核武装することができる能力、すなわち核兵器の材料になるプルトニウムを保持しておく、という発想だ。これが“潜在的核抑止力”である。

北朝鮮による6回目の核実験に対する抗議活動は、ソウル市民にも広がった=2017年9月(写真:AP/アフロ)

実は、日本政府には半世紀も前から“潜在的核抑止力”に通じる考えがあった。

1969年に外務省がまとめた「わが国の外交政策大綱」には、「当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持する」と書かれている。当時の対中関係などから“潜在的核抑止力”について日本外務省の官僚たちが議論していたことをうかがわせる。

潜在的核抑止力の保持を提言した「わが国の外交政策大綱」。2010年に公開された

長崎大学の鈴木センター長は、これに警鐘を鳴らしている。

「今もこうした考えが日本政府の中に残っている可能性があります。極めて危険です。東アジアでプルトニウムの製造競争となり、核拡散につながる懸念が消えません」

プルトニウム獲得を目指す韓国原子力研究院(撮影:新田義貴)

世界初のフルMOX原発、マグロの町に

厳冬の1月、六ヶ所村から大間町にも足を延ばした。下北半島の最北端。対岸に北海道の函館を望むこの漁師町は、マグロの町として全国に知られる。町を有名にしているもう一つの材料は、世界初の「フルMOX原発」でもある建設中の大間原発だ。

このタイプの原発は、MOX燃料を炉心に100パーセント装着する。政府はここでプルトニウムを消費し、余剰プルトニウムを減らす計画を持つ。

写真中央部分の建物が建設中の大間原発(撮影:新田義貴)

大間原発に対しては、対岸の函館市側から強い反発が起きている。大間原発から30キロ圏内にあり、万が一の時は甚大な影響を受ける恐れがあるからだ。

まずは市民団体「大間原発訴訟の会」が2010年、国と事業主の電源開発(Jパワー)を相手取って、建設差し止め訴訟を起こした。判決はこの3月19日、函館地裁で言い渡される。

もう一つ、函館市が国とJパワーを相手にした差し止め訴訟も東京地裁で進んでいる。原発建設をめぐって、自治体が国を訴えた例はない。市や市議会は何度もJパワー側に協議や中止を申し入れたが、ほとんど相手にされなかったという。保守系も含め、議員の大半は提訴に賛同した。

東京の司法記者クラブで会見する工藤壽樹・函館市長=2014年(写真:毎日新聞社/アフロ)

2014年に東京で開かれた記者会見で、工藤壽樹市長はこう語っている。

「地域防災計画や避難計画を義務付けられることになったが、そうした危ない地域とされているにもかかわらず、国や事業者からはまともに相手にしていただけなく、説明会も開いていたただいていない。意見を言う場も設定してもらえない」

「原子力規制委員会の新規制基準ができてない、(福島第1原発の)事故からわずか1年半後の2012年10月に旧基準の下、(大間原発は)建設が再開された……まさに建設ありきで、安全が二の次ということは明らか。住民もそうですが、我々もとてもとても不安で、容認できるものではない」

世界初の「フルMOX」大間原発(撮影:新田義貴)

日本政府は、今後も核燃料サイクルを推進する考えを変えていない。これについて、資源エネルギー庁の覚道課長はこう語っている。

「使うあてのないプルトニウムがむやみに増えていかないよう、需要と消費のバランスをみながら再処理を進めていく法的枠組みも整えました。日本の原子力はあくまで平和利用に限るという原則を、近隣諸国に変な誤解を与えないよう、丁寧に説明する努力を続けていきます」

核燃料サイクルは複雑で見えにくい仕組みだが、莫大な税金や電力会社の電気料収入が投入されている。エネルギーや安全保障の観点から、どうすべきか。避けて通れない問いが、私たちの前に横たわっている。

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新田義貴(にった・よしたか)
ユーラシアビジョン代表。ディレクター。1969年東京都出身。NHKでアジアや中東などを舞台にドキュメンタリー番組を制作し、2009年に独立。監督映画に「歌えマチグヮー」「アトムとピース」。

[動画]制作:ユーラシアビジョン

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