長谷川美祈

「エナジードリンク」養護教諭アンケートから――現場の懸念浮き彫りに

11/21(火) 9:36 配信

養護教諭は子どもの健康問題に保健室で日々接している。全国の小中学校、高校の養護教諭1096人が答えたアンケートからは、子どもたちのエナジードリンクの摂取の実態と、養護教諭が感じる懸念が浮かび上がった。(ジャーナリスト・秋山千佳/Yahoo!ニュース 特集編集部)

保健室で気づいた「異変」

子どもにとって保健室は「大人から評価されることがない」「否定されない」という特徴を備えた場所であり、体調不良時はもちろん、心身の相談をしに多くの子どもが集まってくる。貧困や虐待など現代の子どもが抱える困難を探ろうと、主に公立中学校の保健室の継続取材をする中で、「エナジードリンクにハマる子ども」の存在が目につくようになった。

子どもたちが「よく飲んでいる」と証言する養護教諭の回答。(撮影:長谷川美祈)

東京都内のある公立中学校。生徒のいない朝の保健室で、養護教諭は「実は最近、あの子がエナジードリンクを飲み過ぎていて」と困り顔で打ち明けた。

受験勉強に疲れきっているのか、いつもぐったりした様子で、養護教諭が「塾にたくさん通わされて体が追いつかないみたい」と心配していた女子生徒のことだった。

その直後、当の女子生徒が駆け込んできた。朝からエナジードリンクを2本飲んできたという。一緒にいた同級生の男子を相手に、歌うように語った。

(撮影:長谷川美祈)

「お小遣いにもらった2千円があっという間にエナジードリンクに消えたから。常習性あるから気をつけて。でも私は金があるかぎり飲み続ける」

別人のようにハイテンションで、話しかけられた男子は驚いた様子だった。

頭痛や頻脈といった身体症状も出ていた。養護教諭が聞き取りをすると、特定のエナジードリンクを毎日何本も飲んでいるという。

彼女に限らず、受験勉強をきっかけにエナジードリンクを飲み始める生徒が自校に増えている。養護教諭はそう認識していたが、どう指導したらいいのかと苦慮していた。

(撮影:長谷川美祈)

別の事例もある。大阪府内の公立中学校の養護教諭は「親から受験のプレッシャーをかけられている3年男子が、学校の宿泊行事にまでエナジードリンクを持ちこむほど依存ぎみになっていた」と証言する。

養護教諭が注意しても聞く耳を持たなかったが、保健室にいる時に、脈が異常に早くなっていることに気づいた。男子生徒は自分でインターネットで調べ、米国で14歳の少女の死亡例があることなどを知り、不安になって飲むのをやめたのだという。

「実はうちの学校でも同じようなことがある」と話す養護教諭はほかにも複数いた。だが、子どもに焦点を絞ったエナジードリンクもしくはカフェイン中毒の調査や研究は国内では見当たらず、問題を俯瞰するのは難しかった。

そこで日本体育大学の野井真吾教授と共同で、子どものエナジードリンク摂取の実態を探るアンケートを行うことにした。野井教授も養護教諭らから懸念の声を聞き、問題意識を募らせていたという。

日本体育大学の野井真吾教授。(撮影:編集部)

アンケートは、今年8月に実施した。東京(2団体)、静岡、群馬の各都県で行われた養護教諭向け研修会で、全国各地から参加した小中高校などの養護教諭にアンケート用紙を配布。1096人の養護教諭から回答を得た。(質問項目と結果の概要は本記参照)

自由記述欄には、現場からの生々しい報告が集まった。自由記述の回答数は309件で、うち「問題がある子を把握している」内容の回答は80件、「問題ある子を把握していない」内容の回答は229件あった。

どのような声が上がったのか、一部を抜粋して、回答した養護教諭の勤めている校種別に紹介する。(カッコ内は勤務先所在地と校種)

保護者もカフェイン中毒の危険性を理解していないと指摘(撮影:長谷川美祈)

「親が愛飲しているために日常的に小学生でも飲んでいる児童がいる」(東京都・小学校)

「スポーツ少年団で購入して、保護者が飲ませている。“疲れている”“疲れが取れる”ということで安易に飲む(飲ませる)ことが心配です」(都道府県不明・小学校)

「本校は小規模しかも離島の学校で、学校にエナジードリンクを持ってくることは原則禁止となっていますが、家庭で飲ませていることもあるようです」(長崎県・小学校)

「知り合いから、勤め先の生徒が受験を控えカフェインの強いドリンクを習慣的に飲み、受験日当日、気分が悪くなり試験を受けることができなかったというケースを聞きました」(群馬県・小学校)

アンケートの分析に取り組む野井研究室の左から、大学院生の千竃健人氏、鹿野晶子准教授、野井真吾教授(撮影:編集部)

「私自身が1時間に3本飲み、中毒になったことがあります。嘔吐、めまいで倒れました。こういうことがあると知らせていかなければいけないと思いました」(静岡県・小学校)

「保健室に頻回に出入りする生徒との会話で、食生活の様子を尋ねると、1日に2〜3本もエナジードリンクを飲んで中毒的になっている様子がうかがえ、個別指導をしています。友人仲間も常用しているようで、最近の課題として指導を強化していかなければならないと考えているところです」(群馬県・中学校)

「風邪をひくと薬と一緒に飲んでいるようです」(静岡県・中学校)

「テスト勉強の眠気覚ましに飲んでいたり、テスト当日に飲んできたり。部活で疲れている時に親が飲ませる等ありました」(山形県・中学校)

(撮影:長谷川美祈)

「子どもからエナジードリンクの話を聞くことがよくありました。飲みすぎて酔っ払いのような状態で登校してくる子でした」(静岡県・中学校)

「教師が習慣的に飲んでいて、それを生徒に話していることで宣伝になってしまっているので、注意をしているところです」(静岡県・中学校)

「修学旅行の時、男子の部屋にエナジードリンクの空き缶が部屋の人数分、ゴミとして置いてあった。皆で一緒に飲んだ様子だった。驚きました」(群馬県・中学校)

「夏休みにエナジードリンクの無償提供のプリントが学校に来ていました。本校では申し込みはしませんでしたが、生徒を対象としているのだと驚きました」(埼玉県・高校)

「エナジードリンクが全てを満たしてくれると信じている(心、体、学力など)」(茨城県・中学高校)

(撮影:長谷川美祈)

「勤務先では把握していませんが、自分の娘が大学受験の頃、周囲が皆、愛飲していると言っていました。進学校男子を中心に、一気にブームになっていたようです」(群馬県・高校)

「先日、高校1年の男子生徒が『ほぼ毎日エナジードリンクを飲んでいる。今日はいつもより体調が悪く2本飲んだ。気持ち悪い』と来室しました」(新潟県・高校)

「ジュース感覚で眠らない効果を期待しているようで心配です。体調を崩して来室する生徒は保健指導ができますが、全校でどの程度利用しているかは不明です」(群馬県・高校)

上記は複数回答(図版:ラチカ)

「問題ある子を把握していない」内容の回答では、「どの程度からが過剰となるのか、とか、どういった症状が危険なのかなど知りたい。わからないことが多い」などと情報を求める声が多かった。また、「このアンケートに触れるまで意識したことはありませんでしたが、学校の自販機にエナジードリンクがあったように思います」「あまり気にしたことはなかったけれど確かに学校現場にある」といった指摘もあった。


秋山千佳(あきやま・ちか)
1980年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。記者として大津、広島の両総局を経て、大阪社会部、東京社会部で事件や教育などを担当。2013年に退社し、フリーのジャーナリストに。著書に『ルポ 保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル』『戸籍のない日本人』。公式サイトで本件に関する情報を募集中。

[写真]
撮影:長谷川美祈
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝

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