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葛西亜理沙

乾癬を公表して“ポジ転” 「もう、見た目にとらわれない」

2017/07/08(土) 09:27 配信

オリジナル

モデル 道端アンジェリカ

2017年5月、モデルの道端アンジェリカは、皮膚病の「乾癬(かんせん)」を患っていることをSNSで告白した。症状が重いときには自身の肌を見るのもつらく、暗がりでシャワーを浴びた日々もあった。いまは「しょうがないな。(この病気と)つきあってやるか!」と受け止めている。その言葉には、突き抜けた力強さがあった。
(ノンフィクションライター・古川雅子/Yahoo!ニュース 特集編集部)

(撮影:葛西亜理沙)

「編み込みができるようになってうれしい!」

モデルの道端アンジェリカ(31)は、ノースリーブのワンピース姿でスタジオに現れた。

手足が長い分、肌の露出が大きい。髪の右側には、トウモロコシみたいな「コーンロウ」という細かい編み込みが入っていた。

「サルサのイベントで職人さんに編んでもらったの。編み込みなんて、乾癬で頭皮に白いかさぶたみたいなのが広がっていた頃は考えられなかった。だから、すっごくうれしいの!」

「南国もリゾートファッションも大好き」と道端。だが、発疹が広がったときには「あえて肌を隠す衣装」を選んだこともあったという(撮影:葛西亜理沙)

こんなふうに、彼女がオープンに病気のことを話せるのも、今年5月、自身のインスタグラムに自撮りの「すっぴん写真」を公開し、乾癬に悩まされてきたことを明かしたからだ。

乾癬は、皮膚に円形や楕円形に赤く盛り上がった部分(紅斑、こうはん)ができる。紅斑の表面には白いかさぶたのような皮膚がくっついていて、ボロボロとはがれ落ちる。皮膚の細胞が速く増殖しすぎて、きちんとした角質ができないうちに代謝サイクルが進むため、このような症状が起きる。いったん症状が軽くなっても、ストレスや不規則な食生活などなんらかの要因が引き金になり、発症を繰り返すことがある。

東京慈恵会医科大学の中川秀己・皮膚科学講座主任教授によれば、「悪化する要因を減らして、コントロールしながらつきあっていく慢性疾患」なのだという。

乾癬を患っていることを自身のインスタグラムで公表した

乾癬の患者は、欧米では人口の2〜3%を占めており、決して珍しい病気ではない。日本でも人口の0.3%にあたる40万人程度の患者がいると言われている。

道端は当初、マネージャーや、ヘアメイク、スタイリストら、よく仕事をするスタッフにさえ病気のことを伝えていなかった。

「触って気持ち悪いと言われたらどうしようとか、心配で。私、意外と“気にしい”なんです」

「感染症でしょう?」 誤解に傷ついたことも

7年ほど前から発疹がポツポツと見られたが、肌荒れや軽い皮膚炎程度だと考えていた。初めて乾癬という病気を意識したのは、2011年に、あるアメリカのテレビ番組を見たときだった。セレブタレントとして知られるキム・カーダシアンが乾癬であることを告白。画面に映し出された発疹を見た途端、「あ、私もこれだ!」とピンときたという。それからは、乾癬に効くと言われるハーブティーなど、知人から民間療法をすすめられるたびになんでも実践してきた。

身近な人にも乾癬のことは言えずにいた。所属事務所に伝えたのはSNSで告白した直後だった(撮影:葛西亜理沙)

赤い発疹が一気に広がったのは、昨秋に骨折し、1カ月以上に及ぶ入院生活を終えた直後だった。

「いま思えば、動けず不自由な生活になって、ずっと続けてきた運動も突然できなくなって、ストレスフルだったからだと思う」

大学病院を受診すると乾癬と診断され、医師からは「長いつきあいになりますよ」と言われた。

患者の約半数がかゆみを感じるというが、彼女は幸いにもかゆみには悩まされなかった。けれども、発疹だらけの見た目に落ち込んだ。自分で自分の体を見るのも嫌で、暗がりでシャワーを浴びた。

病気を隠していた頃は、発疹を説明するのに「加圧トレーニングのときに赤くなっちゃって」などと嘘をつくこともあった。「嘘を重ねるのは疲れました」(撮影:葛西亜理沙)

テレビに出演するときは、舞台俳優やシンクロナイズドスイミングの選手が使う硬めのコンシーラー(肌をカバーする部分ファンデーション)で、腕にあった大きな紅斑を隠した。

「収録中も、腕を上げるたびに、『あ、やばい、見えちゃう』って、そこばかり気にしていました」

最も気持ちが沈んだのは、病気を打ち明けた人から、「アンジェリカちゃん、『カンセン』って言ってたけど、皮膚の感染症なんでしょ?」と言われたときだった。

言葉の響きからか、感染症と誤解されることもある。中川教授は言う。「『温泉やプールに行けなくなった』と言う患者さんもいます。でも、乾癬は周囲の人にうつらない病気なんです」

(撮影:葛西亜理沙)

「フツーに話せる環境」でストレスフリーに

中川教授によれば、乾癬には、塗り薬を塗布したり、紫外線を照射したりする治療法がある。内服薬を処方される場合もある。最近では、それらの療法で十分な効果が得られない場合の選択肢として、注射(抗体)療法も登場した。道端も当初はルミセフ®という薬剤による注射療法を受け、短期間に症状が改善。発疹はみるみる消えた。

いまは、皮下に投与する注射薬を1カ月に1度の頻度で自己注射している。昨年4月に保険適用されて、在宅での自己注射が可能になったばかりのコセンティクス®だ。

日本の医療機関でも注射療法の新薬が複数導入されているが、多くはまだ高価なのが現状だ。

(撮影:葛西亜理沙)

前出の中川教授によれば、「高額療養費制度を使えば自己負担限度額を超えた分は払い戻されるが、保険を使わないと薬代だけで年間240万〜250万円かかる。症状をみながら、さらに患者さんの年齢、合併症、加入している保険の種類など、経済的な兼ね合いも踏まえて治療法を選択していきます」

モデルという職業柄、道端は日々の運動は欠かさず、チアシードやアサイーのような栄養価の高い「スーパーフード」を積極的に摂ってきた。SNSでも美容と健康の情報を積極的に発信してきた。

けれども、今年5月に「スーパーフードを食べているのに肌が汚い」と指摘するコメントをネット上で見かけたのがきっかけで、病名を公表することに決めたという。

以前は人と話すとき、患部に視線が来ないかと気になって仕方がなかった。「ストレスも悪化要因の一つ。ポジティブな考えになっていくだけで症状が落ち着いていくこともあると思う」(撮影:葛西亜理沙)

「肌が汚いと言われても仕方がない。でも私、何もせずにシミができたとかじゃなく、肌や体のために人一倍努力をしてきた。自信を持ってそう言える。だから、あんなことをさらっと書き込みされて、ただただ悔しかった。『ああ、もう病気のこと言ったろー!』って」

公表後、誰より驚いたのは彼女自身だった。同様に皮膚の病気に悩む人たちから、「この投稿を見て本当に励まされました」といったコメントが続々と寄せられたのだ。

「えっ、同じ仲間がこんなにいるんじゃん、って。むしろ私のほうが勇気づけられました」

同じ時期に、「人の美しさは外見で決めてはいけない」と彼女を応援する書き込みもあった。それを受けて道端は、「かつての私」を振り返った。自分は人の目を気にしすぎて、「とりあえず見た目だけはきれいにしておこう」と外見ばかりにとらわれていたんじゃないかと。

(撮影:葛西亜理沙)

道端は「今回のことで、私の考え方がガラリとポジティブに変わった」と語った。

「外側だけキレイでも全然かっこよくないじゃんって。そう思わせてくれたのは、みんなのコメント。今回、言ってスッキリしました。『アンジェリカさん、生で見ると肌が汚い』と思われるより、『ああ、この人乾癬なんだ』って思われたほうがいいと思ったもん。いまは、『もうしょーがないなー、(この病気と)つきあってやるか!』みたいな気持ち」

彼女は発信することで、「病気のことをフツーに話せる」環境を手に入れた。人から見られる職業であることを逆手に取り、今後は発信を続けることで「誰か」の力になれればとも思うようになった。

「モデルの仕事を続けてきてよかった!」

道端はいま、心の底からそう感じている。

(撮影:葛西亜理沙)

道端アンジェリカ(みちばた・あんじぇりか)
ファッションモデル。1985年生まれ。福井県出身。中学1年生の時にモデル活動のために上京。2005年から8年間、女性ファッション誌「S Cawaii!」でレギュラーモデルを務めた。数多くのファッション誌で表紙を飾る。全員がモデルという「道端三姉妹」(カレン、ジェシカ、アンジェリカ)の三女。父親がイタリア人とアルゼンチン人のハーフで、母親が日本人。


古川雅子(ふるかわ・まさこ)
ノンフィクションライター。栃木県出身。上智大学文学部卒業。「いのち」に向き合う人々をテーマとし、病や障害を抱える当事者、医療・介護の従事者、科学と社会の接点で活躍するイノベーターたちの姿を追う。著書に、『きょうだいリスク』(社会学者の平山亮との共著。朝日新書)がある。

[写真]
撮影:葛西亜理沙

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