キッチンミノル

伏し目がちだったアイドル―――斜視を乗り越えて

4/22(土) 11:00 配信

アイドルグループ「仮面女子」 神谷えりな

「仮面女子」の神谷えりなは、高校時代から斜視(開散麻痺〈かいさんまひ〉)に悩まされてきた。アイドルなのにファンの目が見られない。ものがダブって見え、立ち位置がわからなくなる。一時はアイドルを断念することも考えたが、2度にわたる手術を受けて、活動を続ける。
(ノンフィクションライター・古川雅子/Yahoo!ニュース 特集編集部)

(撮影:キッチンミノル)

「左目が内側に寄っている」

3月下旬。東京・秋葉原の劇場に、「最強の地下アイドル」と呼ばれる「仮面女子」のメンバー、17人が勢ぞろいした。「仮面女子」はその名の通り、「仮面」をつけてパフォーマンスをする。曲の終盤、ファンのコールが起こるとアイドルたちはパッと仮面を取り、弾ける笑顔を客席に見せる。人気メンバーのひとり、神谷えりな(25)も、ファンのひとりひとりを指差しながら、視線でのコミュニケーションを楽しんだ。

「ファンの方と目が合うのが、こんなにもうれしいなんて」

東京・秋葉原にある常設劇場での「仮面女子」のパフォーマンス(写真提供:アリスプロジェクト)

神谷えりなは、高校時代から「内斜視(ないしゃし)」という目の病気に悩まされてきた。斜視とは、ものを見た時に、片目は正面を向いていても、もう片方が別の方向を向く状態だ。眼球の筋肉やそこにつながる神経に異常が生じた時に起こる。内側に向く「内斜視」、外側に向く「外斜視」。上方、下方にずれることもある。

神谷の場合、後天的に症状が表れた。高校2年生の時に、養護教諭から「左目が内側に寄っている」と指摘された。「一晩寝て休んだら治ることも多かったですし、それほど気にしていなかったんです」(神谷)

常設劇場「仮面女子CAFE」の舞台袖で(撮影:キッチンミノル)

目を細めて笑顔を作った

同じ頃、「トッピング ガールズ」というアイドルグループのライブ動画を見たことで憧れを抱き、事務所のオーディションを受けた。19歳でアイドル活動を開始、2012年、20歳の時に静岡県磐田市から上京した。

斜視の症状が重くなったのは、本格的に芸能活動を始めてからだった。一晩寝ても、黒目が元に戻らない。人目が気になって、前髪で左目を隠し、握手会でも伏し目がちにしていた。ファンとチェキ(インスタントカメラ)を撮る時は、瞳が目立たないように、わざと三日月のように目を細めて笑顔を作った。

アイドル活動には強い照明やカメラのフラッシュがつきものだ。暗い空間で長時間強い光を浴びるのはよくないと医師から聞いた。「症状が改善しなければアイドル活動を続けていくのは難しいかも……」。ライブ会場のトイレにこもって、泣いたこともある。

劇場のある秋葉原はホームグラウンドだと感じるという(撮影:キッチンミノル)

神谷の斜視は、より正確に言うと「開散麻痺(かいさんまひ)」という。遠くを見る時に目を離す「離し目(開散)」がうまくできない状態だ。神谷は、この診断にたどりつくまでに、30軒近くの医療機関を回った。

斜視を専門とする林孝雄・帝京大学医療技術学部教授はこう指摘する。「恒常的に目が寄っている斜視の場合は診断しやすい。しかし、症状が出たり出なかったりを繰り返す『間欠性』の場合、目のズレ方が日によって違うこともあり、なかなか診断がつかないことがある」。自分が住んでいる地域で専門医の診断を受けるためには、日本弱視斜視学会がホームページ上で全国の専門医のリストを公開しているので参照すると良い、と林教授は言う。

ステージ上でメンバーと「さあ、行くよ!」。目で合図しあってライブを盛り上げられるのがうれしい(写真提供:アリスプロジェクト)

「世界がひとつに見える!」

さらに、神谷の場合、ものが二重に見える「複視」の症状が強かった。立ちくらみや頭痛もあった。自分がステージ上のどこに立っているのかがわからず、ダンスの隊形を乱したり、移動中にメンバーとぶつかったりすることがたびたび起こった。「あの頃はライブができなくて、休むことが多かった」と神谷は言う。

「私のように、世界の見え方が変わってしまうほどの斜視もあるんです」

「いつも気持ちを前へ。闘病の経験も心の支えになっています」(撮影:キッチンミノル)

現在の主治医である静岡県内の専門医にめぐりあい、ようやく「開散麻痺」の診断を受けた。視線のズレを矯正するため手術を受ける選択肢も提示された。1度目の手術を受けたのは2015年5月。リスクもある。眼にメスを入れるため、術後しばらくは白目の部分が充血して真っ赤になる。また、手術をしても再発の可能性は残る。

それでも、もう一度ステージに立ちたいという思いで、手術を受けることを決めた。

2度目の手術のあとに撮った写真(本人提供)

術後、はじめて目を開いた時、こんな言葉が口を衝(つ)いたという。「わあ、世界がひとつに見える!」

「今までみんなが見ていた世界がこれなのだとしたら、本当に素晴らしいことだと、心から感動しました」(神谷)

再発。ファンの励ましが力に

しかし1年後、再発。2度目の手術の決断は、1度目以上に難しかった。人によっては手術を受けられる回数に限りがあり、しかも再発の可能性は依然として残ると主治医から聞かされた。

現在はグループ内ユニット「スチームガールズ」のリーダーを務める(撮影:キッチンミノル)

ファンからの励ましが力になった。「SNSで2度目の手術を受けると発表したら、『乗り越えられない壁は、神様は与えない』とメッセージをもらって。みんなが待っていてくれる。そう思うと、治る見込みがあり、挑戦できる選択肢があるあいだは、諦めないで病気と戦おうという気持ちになれたんです」

「アリスプロジェクト」ディレクターの池田昂平はこう証言する。「神谷は手術を受けてから性格が180度変わりました。明るくなった。真の意味でユニットのエースとして成長したと感じます」

2016年9月、斜視の再発を報告したフェイスブックの投稿

斜視の症状が頻発していた頃は、アイドルなのに「人に見られたくない」といつも俯いていた。それが今では、「舞台に立つと、はやく仮面を取ってみんなに私の顔を見てもらいたいと、ウズウズするぐらい」と笑う。

「正直、もう二度と斜視にはなりたくない。でも、一方で、ファンやメンバー、スタッフの温かさも病気を通して知ることができました。闘病を経た私だからこそ伝えられるものがあると、今は思っています」

(撮影:キッチンミノル)

神谷えりな(かみや・えりな)
1991年、静岡県生まれ。高校卒業後、エステの専門学校に通っていた時に先輩アイドルに憧れ、現在所属する芸能事務所「アリスプロジェクト」のオーディションを受ける。19歳からアイドル活動開始。二度にわたる斜視の手術を受け、現在はアイドルグループ「仮面女子」のユニット「スチームガールズ」のリーダー。グラビアアイドルとしても活動する。


古川雅子(ふるかわ・まさこ)
ノンフィクションライター。栃木県出身。上智大学文学部卒業。「いのち」に向き合う人々をテーマとし、病や障害を抱える当事者、医療・介護の従事者、科学と社会の接点で活躍するイノベーターたちの姿を追う。著書に、『きょうだいリスク』(社会学者の平山亮との共著。朝日新書)がある。

[写真]
撮影:キッチンミノル
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝

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